第16話 連鎖
部屋には俺一人しかいない。
静かになってみると、逆にちょっと暇だった。
俺はベッドに座ったまま、しばらくぼーっとしていた。
「……ちょっと外、見てこようかな」
ずっとここにいても、特にやることもない。
俺は部屋を出て、階下へ降りた。
宿の外は、思っていたよりもずっと賑やかだった。
さっき来たときは疲れすぎていて、全然ちゃんと見ていなかった。
村には結構な人が歩いている。
荷物を運んでいる人もいれば、話をしている人もいる。
それに、何人かの子供たちが道端を走り回っていた。
……
平和だな。
王府の辺りとは全然違う。
少し歩いたところで、ロルフィを見つけた。
一人の老人と一緒に話をしている。
あの人……
たぶん村長だよな?
俺はゆっくりと二人に近づいていく。
「白狼大人、先ほどは本当にありがとうございました」
老人が笑いながら言った。
「ううん、いいよ」
ロルフィは手を振った。
「今日はたまたま時間があっただけだから」
「白狼大人にこの村へ来ていただけただけでも、我々にとっては光栄なことです」
「……」
白狼大人?
俺は思わず首を傾げた。
ロルフィって、この村ではこんなに尊敬されてるのか。
妹なのに、大きな白狼を召喚できるなんて知らなかった……
「ルクラン」
ロルフィが突然、俺に気づいた。
「出てきたんだ」
「うん」
俺はロルフィの隣まで歩いていく。
老人も俺を見る。
「こちらの方は?」
「あ、そうだった」
ロルフィが俺を指差した。
「この人はルクラン・オルド」
老人は少し驚いたような顔をした。
「オルド大人でしたか」
「……」
へへへ。
初めて「大人」って呼ばれた。
ほら、やっぱり俺ってすごいだろ。
……いや、今のは忘れてくれ。
「大人なんて呼ばなくていいよ」
「それはできません」
老人は慌てて首を横に振った。
「白狼大人と同じ、オルド家の方ですから」
「……」
俺は何と言えばいいのか分からなくなった。
まあ、いいか。
呼びたいように呼んでもらおう。
「そういえば」
俺は老人を見る。
「さっき、何の話をしてたの?」
「それは……」
老人の笑顔がゆっくりと消えた。
「王府のことです」
「王府?」
俺は頷いた。
そういえば、俺たちは王府から白狼に乗って霜月村まで来たんだよな――
前に地図で見たことがあるけど、めちゃくちゃ遠い。
そういえば、結局誰が王府を攻めてたんだ?
「今回、王府を攻めたのは「魔核喰い」フェルゼン だそうです」
「魔核喰い……フェルゼン?」
誰だよ。
初めて聞く名前だ。
でも、なんか名前からしてヤバそうだな。
「はい」
老人は頷いた。
「最近、あちこちで噂になっている魔王です」
「あの方は……魔力核を専門に食べているそうです」
「……」
俺は少し固まった。
魔力核?
「だから、みんなこう考えているんですよ」
老人が俺を見る。
「今回、王府を攻めた目的は、剣神様の魔力核なんじゃないかって」
「親父の?」
「そうです」
老人は頷いた。
「何といっても、剣神様の魔力核ですから」
「……」
俺は何も言わなかった。
そういうことか……
確かに、あいつらが親父の魔力核を狙っている可能性はある。
でも、あいつは魔王なんだよな。
俺のことを知っている可能性だってある。
やっぱり、あいつらが何をしようとしているのか分からない……
「……」
俺は自分の手を見る。
天の指輪は、まだ無名指に嵌まっている。
なぜか、さっきエイナに言われたことを思い出した。
日の魔王。
天の魔王。
それから……
魔力核。
「ルクラン?」
「……ん?」
ロルフィの声で我に返る。
「どうしたの?」
「何でもない」
俺は慌てて首を振った。
「ちょっと、考え事してただけ」
「何を?」
「……何でもないって」
俺はそれ以上言わなかった。
なんとなく、このことは……
まだロルフィには話さないほうがいい気がした。
俺はもう一度、村の通りを見る。
どこを見ても、穏やかな光景ばかりだった。
子供たちはまだ遊んでいる。
大人たちも、それぞれ自分のことをしている。
王府では今も何が起きているのか分からない。
それなのに、ここでは危険なんてまったく感じない。
「……」
親父、大丈夫かな。
俺は、そう思わずにはいられなかった。




