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第10話 悪夢

「――不躾な侵入者」

その声が、教会の中に静かに響いた。

その瞬間――

葬式に来ていた人たちが、一斉に俺を見た。

顔は見えない。


それなのに――

怖い。


……で、俺はどうすればいいんだ?

前に進むべきか。

でも、あの司祭がまた何かしてきたら?

いや。

ルルは言っていた。

天の魔王は、俺に敵意なんてないって。

でも――

あいつが本当に天の魔王なのか?

分からない。


……そういえば。

ルルはどこだ?


「……ルル?」

返事がない。


俺は肩を見た。

いつもなら、そこにいるはずなのに――

いない。

「……え?」

俺の背中に、冷たい汗が流れた。


「ルクラン」


聞き慣れた声がした。


「……ルル?」


やっと来た。

俺が振り向くと、ルルがこっちへ飛んできた。


「遅くなってごめんね」

ルルは悪びれた様子もなく言った。


「さっきまで、天の魔王様にエイナを殺さないように説得してたんだ」


天の魔王が、エイナを殺そうとしてる?

……まあ、いい。

今はそんなことを考えてる場合じゃない。

どうやって、この教会から出るか。

それが一番大事だ。


でも――

どうすればいい?


「ルクラン」

隣から、小さな声がした。

「……?」

俺が隣を見る。


ルルが、俺の手をぎゅっと握っていた。

小さな手。

でも――

その手は、しっかりと俺の手を握っている。


「大丈夫だよ」

「……無理だ」

「怖いよね」

ルルは笑わなかった。

ただ、俺の手を少しだけ引いた。

「でも、僕がいるから」

「……」

「一緒に頑張ろう」

俺は答えられなかった。

それでも――

一歩、前へ踏み出した。

「……行こう」

「うん」


俺たちは、ゆっくりと棺のほうへ歩いていった。

ここから出るには――

たぶん、あそこへ行くしかない。


司祭は、まったく動かない。

ずっと同じ場所に立っている。

ただ……笑っている。


いや。

俺たちが近づくにつれて――

その笑顔が、少しずつ大きくなっている気がする。


「……」


一歩。

また一歩。


もう少しだ。


そのとき――

俺の魔力核が、嫌な感じを覚えた。


「大丈夫だよ」

ルルがもう一度言った。

「ゆっくりでいいから」

「……ああ」

俺は小さく返事をした。


こいつが強いのは分かっている。

でも――

強すぎないか?

エイナですら怖がってる。

ルルだって、さっきからずっと慎重だ。

……いったい、こいつは何なんだよ。


しばらくして――

俺たちは、棺の前まで来た。


「……?」

俺は棺の中を覗き込んだ。

「――!」


……は?

そこに横たわっていたのは――

「……俺?」


自分の姿だった。

白い服を着ている。

目を閉じている。

顔は真っ青で――

胸も、まったく動いていない。

どう見ても――

死んでいる。


「……なんで……」


ここの人たち……俺に似てる?

でも――

俺はちゃんと生きてる。

ここにいる。


俺は司祭を見た。

「……怖いな」

でも、さっきほど怖くはなかった。

だって、こいつはずっと動いていない。


それよりも――

この死体。

これ、本当に俺なのか?


俺はもう一度、自分の死体を見る。

手。

腕。

胸。

顔。

どこから見ても――

俺だった。


「……俺、本当に死んだのか?」

「ルクラン……」

ルルの声が聞こえた。

でも、どこか遠い。

「これは……」


突然、背後に誰かいるような気がした。

「――!?」

次の瞬間、後頭部を誰かに掴まれ、そのまま押さえつけられた。

「な……!」


は?

誰だ?

俺は司祭を見る。

司祭は……?

なんで一瞬で俺の後ろにいるんだ?


そうだ。

ルルは?

なんでルルは教えてくれなかったんだ?

「やめろ――」


抵抗する暇すらなかった。

俺の頭は、そのまま司祭に押し下げられた。

棺の中へ。

「やめろ……!」

そして――

俺の額が、死体の額に触れた。


――瞬間。

世界が、また真っ白に染まった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「――――」


何も見えない。

何も聞こえない。

ただ、一つの声だけが聞こえる。


『――ようこそ』

誰の声だ?

男か?

女か?

……分からない。

ただ、すぐ耳元で囁かれているみたいだった。

『日の魔王の葬式へ』

「……!」


白い世界が、激しく揺れ始めた。

そして――

一瞬。

本当に、一瞬だった。

――パチッ。

俺はゆっくりと目を開けた。


「……」


見慣れた天井。

薄暗い医療室。

窓の外には、夜の街が見える。


「……え?」


俺は胸元を見る。

傷はない。

包帯も、まだ巻かれたままだ。

手も動く。

何も変わっていない。


「……俺?」

今、どうなってるんだ?

俺……戻ってきたのか?

俺は周りを見た。

ロルフィがベッドの横の椅子に座っている。


「ルクラン?」

「……」

「ルクラン」

返事がない。


ロルフィは少し困ったように、俺の顔を覗き込んだ。

「どうしたの?」

「……」

俺も、ただ彼女の顔を見つめていた。


さっき見たものは――夢だったのか?

それとも、幻覚?

いったい、何だったんだ?


それでも、まだ聞こえる。

『――ようこそ』

『日の魔王の葬式へ』

「ルクラン?」

ロルフィが、もう一度俺を呼んだ。

「……大丈夫?」


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