4+1/2 0と-1の幕間/仮面の男
悪意とは、どんな世界にもあるものだ。
たとえ”人類の脅威”が現存する世界であってさえ、その普遍性に変わりはない。
強欲、憤怒、嫉妬、傲慢...人類の原罪が産み出し、ヘドロが如くに詰められたそれは、この地にも蠢いていた。
がさり。騎乗競走祭のコースの一部、保安部隊が目を光らせているはずの底で、場に似つかわしくない影が動く。
「ふう。これであらかた片付いたかな」
そう言って立ち上がったその影は。
一言で言えば”鉄仮面”だ。無骨で角ばったフルフェイス。ともすればダサいと言われかねないそれだが、アンティークな黒いサーコートと、その謎めいた雰囲気が違和感を包み隠している。
長身の男は、ゆったりと歩み出す。
警戒用のドローンは、カメラに男を納めているはずなのに微動だにしない。
「さて、と。壱娘、弐娘。おいで」
そういった瞬間、ばば、と二人の少女が彼の傍に降り立つ。迷彩布を身に纏ってはいるが、間違いなく美少女と思える顔つきである。ただ奇妙なのは、まるで同一人物かの如く、顔立ちに一切の違いがないことだ。
「「”麟”様」」
”麟”と呼ばれた鉄仮面は、二人の少女に近づき、跪くその頭をそっと撫でた。
「任務は順調かい?」
「「はっ」」
それを聞くと、彼は満足げに笑う。
「ははは。全く、相手は小娘一人だと言うに、ここまで大がかりな仕掛けを組まなければならないなんてね」
「しかし」
壱娘とよばれた方の少女が、ともすれば楽観的とすら見られる男を諫める。
「大丈夫。わかってるさ。相手は何しろ国家戦力級だ。舐めてかかることはしない」
闇は、確実に迫っていた。




