第13話 数を取れ
照明が落ち、台のランプだけが浮かび上がる。
一瞬、会場の輪郭が消えたように見えた。
「第一回戦、開始!」
アナウンスと同時に、空気が弾ける。
※1回戦ルール
チーム使用金額3000円
終了時により多くの景品を取っていたチームの勝利
歓声と硬貨の音が重なり、空間が一気に熱を帯びた。
すきは、音を聞いていた。
アームの戻り。橋に触れた箱の乾いた反響。
新品のはずなのに、わずかな“癖”が混ざっている。
(……数を取る台)
「確認しよ」
沙希が言う。
状況を切り分ける声。
「3000円で何個取れるか。一景品ごとに順番交代。一手目から五手目まで固定」
視線が一人ずつ流れる。
「一手目、沙希。二手目、凛。三手目、成宮。四手目、詠。五手目、すき」
全員、頷いた。
「焦らない。一個を最短で取る」
「はーい」
詠だけが楽しそうに笑う。
「最短って、最高に脳汁出るやつ?」
「お前は緊張しないなぁ〜」
成宮が苦笑する。
⸻
第一景品・一手目(沙希)
沙希は迷わない。
指が止まらない。
「ワンパン狙いじゃない」
移動、下降。
角に軽く触れる。
箱が、すっと“正しい向き”へ収まる。
「整えた。二手目で崩せる」
「助かる」
凛がすぐに前へ出る。
向こう側、仁のチームは力押しだった。
強引に前へ出すが、配置が荒れる。
「数勝負で荒らすのは、後がきつい」
沙希は、視線を外さなかった。
⸻
第一景品・二手目(凛)
橋幅、摩擦、戻り速度。
凛は一度も画面を見ない。
台だけを見る。
「……想定より、重い」
小さく呟く。
下降。
箱が、必要な分だけ前へ動いた。
ほんの数ミリ。
だが。
「角、完成」
形が決まる。
「三手目、成宮。触れるだけ」
「一番怖いやつ!」
叫びながらも、成宮は前へ出た。
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第一景品・三手目(成宮)
(失敗しない)
それだけを、握る。
移動。
下降。
アームが箱を撫でる。
一瞬、滑る。
だが——止まる。
「……よし」
成宮はすぐに手を離した。
深追いしない。
「これ以上は、崩れる」
「正解」
沙希が短く返す。
一手100円。
その重さが、全員に共有されていた。
⸻
第一景品・四手目(詠)
詠が前に出た瞬間、
空気が、わずかに歪む。
「数勝負ね」
にやりと笑う。
「じゃあ、崩すよ」
狙いは橋じゃない。
展示フィギュアの台座。
「は?」
成宮の声が遅れる。
下降。
アームが台座の縁を押す。
フィギュアが揺れる。
箱も、引っ張られる。
傾く。
止まる。
落ちない。
「……っ、いい」
詠が、息を漏らす。
肩が、わずかに震える。
「この“止まり方”……最高」
「落ちてない!」
成宮がツッコむ。
「でもね」
詠は、振り返る。
すきを見る。
「これで終わる」
箱は、橋の端。
わずかに乗っている。
崩れかけの均衡。
「五手目」
小さく、笑う。
「任せた」
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第一景品・五手目
すきが前に出る。
(……うるさい)
音が重なっている。
でも、その中に一つだけ。
落ちる音が、混ざっている。
(ここ)
移動。
迷いはない。
下降。
触れた瞬間——
箱が、ほどけるように動く。
抵抗が、ない。
そのまま。
ゴトン。
「獲得!」
歓声が、遅れて弾けた。
「一個!」
沙希が指を立てる。
「500円で一個。理想的」
仁が、わずかに舌打ちする。
「綺麗に繋ぐな」
詠が笑う。
満足そうに。
「ね?」
軽く言う。
「最後が一番気持ちいいでしょ」
⸻
次の景品へ。
コインが入る。
音が、軽く響く。
「このペースなら、数で勝てる」
凛が言う。
だが。
仁のチームも、すぐ一個を取った。
荒い。
だが、速い。
「……削り合いだ」
沙希が息を整える。
詠は、楽しそうに笑った。
「いいね。勝ってるのに、金が減る」
成宮が苦笑する。
「それ、褒めてないよな?」
「最高の状況だよ」
詠は、すきを見る。
少しだけ、真面目な目。
「数を取るってことはさ」
小さく。
「最後、誰かが重いの背負うってこと」
すきは、台を見つめていた。
(……うん)
音が、少しずつ変わっていく。
この先。
3000円が尽きる瞬間が来る。
そしてその時、
誰に、回るのか。




