第12話 開会式
会場に足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。
同じクレーンゲームのはずなのに、
どこか“整いすぎている”。
照明は均一で影が少なく、
台は一直線に並び、無駄なスペースがない。
まるで遊び場ではなく、競技場だった。
「……台、多くない?」
成宮が思わず呟く。
その声さえ、少しだけ浮いて聞こえた。
「競技用ね」
凛はすでに台を観察している。
アームの可動域、橋幅、初期位置の癖。視線が動くたびに情報が整理されていく。
沙希は別のものを見ていた。
人だ。立ち方、目線、距離感。強い人間を探している。
「いいねえ」
詠だけが楽しそうだった。口元がわずかに緩む。
「全員、目が本気だ」
その言葉通り、この場にいる誰もが
“遊び”の顔をしていなかった。
すきは入口付近で足を止めていた。
一歩、遅れている。
「……音が」
小さく呟く。
「音?」
沙希が振り返る。
すきの視線は台をなぞっていた。
一台ずつ、ゆっくりと。
「ここ、音が多い」
意味は分からない。
だが、その目は何かを“聞いている”。
(呼ばれてる……?)
ざわめきの奥、言葉にならない音が重なっている。
⸻
「参加チームはこちらへ」
声をかけてきたのは小柄な男だった。
制服姿、無表情、無駄がない。
ミスター初期位置。
招待状を一枚ずつ受け取り、
淡々と確認していく。
流れ作業のようでいて、精度は落ちない。
すきの番で、ほんの一瞬だけ手が止まった。
「……まだ覚醒には」
「え?」
聞き返す前に、招待状は返される。
何もなかったように。
だが、胸の奥にひっかかる。
言葉より先に、感覚だけが残る。
⸻
会場中央の簡易ステージに、一人の老人が立つ。
派手さはない。だが視線だけで場を支配していた。
クレーンゲーム協会 会長。
「集まってくれて感謝する」
ざわめきが自然と止まる。誰も強制されていないのに、声が引く。
「諸君らは、クレーンゲームに何が必要だと思う?」
問いだが、答えは求めていない。
「腕力か?金か?」
わずかな間。
会長は首を振る。
「違う」
静かに、はっきりと。
「観察と執念だ」
言葉が、空気に残る。
転売ズチームがわずかに顔をしかめた。
そのとき、会長の視線が流れる。
すきへ。
一瞬だけ、確かに止まる。
「……いや」
ほんのわずかに言葉を変える。
「あと未来予測かな」
会場がざわつく。
冗談にも、本気にも聞こえる。
すきの背後で、“声”が少しだけ強くなった。
⸻
チーム紹介が始まる。
ハイエナの仁チーム。
最後列で、仁が腕を組んで立っている。
視線がこちらを捉える。
「へえ……やっぱり、いたか」
口角がゆっくり上がる。
⸻
転売ズチーム。
景品を見る目が冷たい。価値だけを見ている。
凛は静かに視線を逸らした。
(勝ち方を、間違えてる)
⸻
物理学者チーム。
重心、摩擦、トルク。専門用語が飛び交う。
理屈は正しい。
だが、すきは小さく首を傾げた。
(……言葉、多い)
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大学クレーンゲームサークル。
賑やかで軽い空気。中心には笑顔の女子がいる。
場を和ませる“軸”。
「なんか安心するな……」
成宮がぽつりと漏らす。
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ママさんバレー・チーム。
声掛け、立ち位置、順番。無駄がない。
すべてが共有されている動き。
沙希が小さく呟く。
「……強いね」
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マセガキ小学生チーム。
堂々としている。迷いがない。
「お姉ちゃん、強そう!」
すきが声をかけられ、固まる。
「……え、あ、うん」
詠が横で吹き出した。
「人気者じゃん」
⸻
全チームが揃う。
対戦表が表示される。
一瞬、空気が止まる。
『初戦
昏華すきチーム
vs
ハイエナの仁チーム』
重い。
空気が一段沈む。
「初戦から当たるか」
仁が笑う。楽しそうに。
「いいね。歓迎する」
沙希が一歩前に出る。
迷いはない。
「……行こう、すき」
すきは台を見つめていた。
(……この台)
音が違う。
さっきより、はっきりと。
嫌な鳴り方。
それでも、一歩踏み出す。
「……うん」
まだ誰も知らない。
この大会が、五人それぞれの“原点”を引きずり出すことを。




