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FreeStar〜短編集〜  作者: 楽俊
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Fly me to the moon2

 

 いつ終わるかもわからない演奏が終わりを迎え、演奏者達はカウンターに腰かけた。


「生ビール3つ!」


 鈴さんの旦那さんはお酒を注文すると煙草に火をつけた。


「たけちゃん、新しいお客さん。ジャムりたいんだって」


「あ、もしかしてお客さん? 誰から聞いたの?」


 ジャズバーのカウンターで酒を飲んでるというのに客以外のなんだと言うのだろうか?

 僕は深くは突っ込まずに「楽器屋の店員さんに教えてもらいました」と、答えた。


「なるほどね! 年はいくつ?」


「24です。今まではコピバンでベースしか弾いたことがないのですが、ジャズに興味がありまして」


「ふーん。じゃあ、弾いてみる?」


 たまたま興味があって立ち寄っただけなのに、いきなりの急展開である。


「いや、実はジャズあまりよく知らなくて、今日は見学で……」


「あ、そうなの! つまらんねぇ。まぁ、気が向いたら声かけてよ」


「ありがとうございます……」


 そんなに距離は離れていないのに声がとても大きくて、僕はなんだか尻込みしてしまった。

 練習もなにもしてないのに、いきなり演奏するのは少しハードルが高かった。


「ベースはコード進行さえわかれば、とりあえずはなんとかなるかもよ。ウォーキングは無理でもルート音ならなんとかなるんじゃないかな? CとかAとか、コード名と音はわかる?」


「さすが、てっちゃん!」

 

 てっちゃんと呼ばれるピアノを弾いていた男性が助け船を出してくれた。それに、相づちをうつかのように鈴那さんが誉め言葉を添えた。


「はい、なんとか……。やってみたいとは思うのですが、ウッドベースは触ったことがなくて」


 そうすると、たけさんはすっと椅子から立ち上がりステージの方に向かうと物置のような場所からエレキベースを一本持ってきた。


「どうする? やる?」


 最後の防波堤である言い訳も崩れ去り、僕はなんとでもなれという気持ちで「では、少しだけ……」と、答えた。


「誰でも最初は初めてだからやってみよう。 初心者ならジャズよりブルースのほうがいいんじゃないかな?」


 ベースの男性が励ましてくれて、たけさんにブルースを提案している。僕にとってはジャズもブルースも音楽のジャンルとして知っているだけで、どう演奏していいかわからなかった。


「本人がジャズやりたいって言ってんだから、やらせてやればいいんじゃね? とにかく、やってみっか!」


「いきなりじゃぁ、大変だよ。じゃぁ、有名な曲で何か知ってる曲ある? 鈴ちゃん、何かいい曲あるかい?」


「そうね~、カズさんあれなんていいんじゃないの? Fly me to the moon。私が好きな曲なんだけど、映画やCMにも使われたことあるから聞いたことあるんじゃない?」


 そう言って、鈴さんは三人にビールを出したあとメニューの横にある棚からCDを探し始めた。

 

 カウンターには、奥からハンチングが似合うピアノのてつさん、筋肉もりもりのドラムのたけさん、みんなより少し年上のベースのかずさん、そして僕という順に座っていた。

 今日来たばかりの自分は場違いな感じがしていたけれど、一見さんも温かく迎えてくれるいいお店だなと思った。


「あー、あったあった!ヴォサノヴァとジャズがあるけど、ジャズの方でいいよね?」


「あ、はい」と、僕はわけもわからずうなずくと鈴さんは店内のBGMを変えてくれた。

 この曲は自分も聞いたことがあって、子供の頃見たアニメのエンディングなどでも使われていた。


「『私を月に連れていって』って言う意味が、この曲にはあるんだ。循環コードっていうジャズではよく使うコード進行してるから練習になると思うよ」


 僕は2回、この曲を聞いてジャズのメロディーとコードが書いてある黒本という本を見させてもらいながらかずさんにジャズベースを教えてもらった。

 まず始めに、拍の取り方を表から裏に変えること基本は4分音符で一定のリズムを刻み続けること。

 ジャズは色々な形があるけれど、基本のリズムキープはドラムよりベースの役目なのだそうだ。


「特に暴れたがりのドラマーと組むときは、君がしっかりしないとね」


「それは誰のことかな?」と、かずさんの言葉に、たけさんが笑いながら答える。


 まだ演奏もしていないのに、見ず知らずの人間をここまで繋げてくれるジャズという音楽を僕は好きになり始めていた。

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