秘密基地2
訪れたことのない街の夜空を見上げながら私は途方にくれていた。今の状況も、そうなのだが今の仕事を続けていって、この先なにがあるのかと一抹の不安を覚えていた。
「国の年金だけでは暮らしていけない」
「将来の安心のためにいかがでしょうか?」
自分で言葉にしておきながら、何一つ腑に落ちていない。
未来の幸せより、今幸せになる方法を私が教えてほしいくらいだ。
ここで考えていても仕方がないから、私は携帯を取り出し泊まれる場所を探した。カプセルホテルがよかったが手頃な値段の場所がなかったから漫画喫茶に泊まることにした。
とぼとぼと駅から繋がる地下街を歩いていると、どこからかギターと歌声が聞こえてくる。どうやら、弾き語りをしているようだった。
音のする方に向かっていくと、20代半ばくらいの男性がアコースティックギターを掻き鳴らしながら歌っている。
お世辞にも上手いとは言えなかったが、引き終わった彼の顔はとても満足そうだった。
そうだ。私は高校の頃、歌うことが好きだったのだ。
自分で詩を書いたりもしていた。でも、それを人に見せたことは一度もなかった。
仲間内で何かを一生懸命にやることはカッコ悪いみたいな空気があり、自分で作った詩を歌にしようものなら痛い奴だと思われてしまっただろう。
私はその場の流れで、みんながおもしろいと思うことを笑って、みんなが嫌いだと思ったことから距離を置いた。
そうして流れ着いたのが、疲れた顔をして歩き回ってる大人になった今の私である。
もしも、あの時思いっきり歌っていたら何かが変わっただろうか?
今、考えても答えはNOである。
やったからといって、好きだからと言って、私には特別な才能や魅力はなかった。子供がいくら叫んでも学校というコミュニティから外に出る術がなかった。
気づくと、彼の次の曲が始まっていた。
その中の一説で
「いつもと違う一歩を踏み出せば、いつもと違う景色が広がる。描いた自分に会いに行こう」
という歌詞があった。
その言葉が私の胸にひっかかった。
曲が終わり、私はあめ玉を彼のギターケースに放り投げた。
彼は少し不思議そうな顔をしたが、
「ありがとう!」
と、屈託ない笑顔で言った。
「頑張ってください……」
私は彼の目を直視できず、営業の時に使っている無理矢理貼り付けられたような笑顔で言った。
自分でも驚くくらい声が小さく、喉に何か重たいものが詰まっているかのようだった。
歩き出す足が先程よりも早い。
何かに焦っているようで、急かされてる気がした。
私は予定の漫画喫茶に到着したが、手前にカラオケ屋もあった。
始発は5:45。朝までには、まだ時間がある。
『物語を始めるのは、いつだっていいのだろう』
彼の歌が、言葉が、パズルのピースのように私の心にはまっていく。先ほどはまったく響かなかったのに、今になって鼓動のリズムと一緒に私の胸の中で鳴り始めている。
私はカラオケ店の自動ドアを開け、一歩を踏み出した。
ここが、これから私の秘密基地になる。




