秘密基地1
秘密基地
小さい頃はやりたいことが何も出来なくて早く大人になりたいと思っていた。
だが、いざ大人になってみると子供の頃に夢見た自由はほとんどなく、仕事に忙殺される日々が続いていた。
私こと高倉小枝は、今日も『明るい未来に保証を、あなたの笑顔を守ります』と、書かれた生命保険やらなんやらの資料を鞄につめて電車に揺られていた。
もう都心では他の営業の人が全ての家を周り終えてしまったのかと思うほど、どこの家もチャイムを鳴らしてもドアが開く気配はない。
営業の先輩には、営業は断られてからが勝負、顔を覚えてもらうところから始めろと、何度も言われてるが断られる前に扉が開かないのだ。
もういっそ童心に帰って毎日健気にピンポンダッシュを繰り返した方が、ドアを開けてくれそうだし向こうも必死に顔を覚えてくれるだろう。
子供ではないのだから、もうそんなことはしないが仕事ばかりのこの日常に、ほんの少しの遊び心があってもいいものである。
そんなことを考えていると、目的の駅に到着した。
都心ではなかなか契約がとれないと踏んだ私は、遠く離れたこの町までやってきた。
ここが、私のブルーオーシャンになることを願うばかりである。
結果は、散々であった。
一様、都心より警戒が薄いのか話を聞いてくれる人は多かったが契約は一つもとれなかった。
話をよく聞いてくれるお婆さんが一人いたが、お孫さんが帰ってきてからは親の仇を見るような目で見られたので、また来ますと挨拶をして帰ろうとしたらお婆さんがあめ玉をくれた。
もうとっくに日は沈んでいたが、このままでは電車賃すら賄えないので駅に向かう途中にある団地に、もう一度だけ挑戦してみることにした。
そのせいか、終電ギリギリの電車に滑り込むことになり、空いてる席へと腰をかけ息を整えた。
結局は空振りに終わり、今日の報酬はお婆さんにもらったあめ玉一つとなってしまった。
私は気づくと寝てしまっていた。
時計を見ると、乗り換えの電車の時間をわずかにすぎていた。
私はもう間に合わないというのに、勢いよく席を立ちホームに躍り出た。
何をしていいかわからず右往左往し、とりあえず駅員さんに変わりになる電車がないか聞いてみた。
「残念ですが、明日の始発まで電車はありませんね……」
帰る望みがなくなった私はベンチに座り込み、とりあえず会社に電話した。そんな遠い町まで出掛けたのに契約が一本もとれなかったことを伝えると、遊んでたのか? と、怒られた。
私は返す言葉もなく、ただ謝ることしかできなかった。




