未知との遭遇2
駅の改札を抜け、ロータリーにあるタクシーに乗り込む。
楓さんは電車で黙ってから、あまりしゃべらなくなった。
何か気にさわるようなことをしたかと、私は心配していると、楓さんは姿勢を変えないまま横目で私の方に目を向けた。
「今、私のこと考えてたろ。そんな、余裕があるのかい?」
「え?」
「今からステージに立って歌おうって人間が、人のこと気にしてる場合かい? やらなきゃいけないことがあるんじゃないのかい?」
楓さんとの間に沈黙が流れる。その時間が、とても、とても、長く感じられて私は沈黙に耐えかねて「すみません」と、小さく呟いた。
楓さんは、小さなため息をついた。
「別に謝ってほしいわけじゃないの。怒ってもいないから心配しなくていいわよ。こういう時は、自分の時間を大切にしなさい。私はただ、少し飲みに行きたくて若い子連れ回してるだけなのだから」
さっきとは声色が変わって、とても優しい声だった。最後のは冗談だから笑えばいいのかわからなかったけど、気を引き締めろという意味だろうか?
「いえ、連れてってもらえて嬉しいです! 本当、なにからなにまで……」
「いいのよ、私は音楽はあまり詳しくはないけど楽しませてもらうわね! こずえちゃん、変な質問だけど、目の前に真っ白な紙があって、そこに一字書いていいと言われたら何を書く?」
「そうですね~、今の私なら『楓』と書きます! 今があるのは楓さんが居てくれたからだし、なんだか木に風が吹くっ今の私そのもので!」
「そうね、ならその名前はこずえちゃんにあげるわ! 今のあなたにぴったりだし、楓の花言葉は知ってる?」
「えっ! もらうって、どうすれば! でも、嬉しいです! 花言葉はなんですか?」
「遠慮、調和、大切な思い出という意味があるけれど、あともう一つはなんだと思う?」
「なんですか?」
「美しき変化よ」




