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夏季休暇に向けて ろく 諦めは心の養生

とりあえずお互いを紹介して、その過程で幼馴染が爺ちゃん婆ちゃんのように…それ以上にお礼を言いまくり、それを何とか収めて今に至る。


ダイニングテーブルで四君子と竜樹と美奈子が向かい合い、深山と俺が小上がりに座り、何故か清音は婆ちゃんと一緒に夕飯の下拵えをしている。


「あの…ミィナさんにお聞きしたいのですが…」


竹内がそっと手を挙げた。

美奈子はミィナ呼びをこいつらにも強要した。

とりあえず、逆らうなとだけ言っておいた。


「はい、何でしょう宏太君」


美奈子は一見ニコニコその実ニヤニヤ笑っている。


「ミィナさんは朱鷺様とお付き合いされていらっしゃるのでしょうか?」

「お付き合い?」

「えっと…彼女さんとか恋人とか…」

「ないない、絶対あり得ない」

「絶対…ですか?」

「私、自分より綺麗な彼氏なんてイヤだもの。並んで歩いたら悲惨よ。比較対象がアレだもん。アレと付き合える子は誰から見ても美人な子か周りに無頓着な鈍感くらいよ。中学ん時にアレに告白した強者がいたけど、告白途中でガラスに映ったアレと自分の姿を見て返事聞く前に逃げちゃった。格差社会ってイヤね」


あぁ、あったなそんなこと。

初めての本格的な告白で嬉しかったけど、告白途中で逃げられてショックだった。


「ふぅん、告白途中でねぇ。お前、逃げられるほど怖い顔か下心満載の顔してたんじゃねぇの?」


深山がニヤニヤ笑ってそう言ってきた。


「んなわけあるか。断る気でいたから嬉しいけど困ったなって顔はしてたと思う」


変な顔はしていなかったはず。


「そもそも、アレは観賞用。並の美人や美女じゃ太刀打ちできないわよ」

「まぁ確かに無理だよなぁ。実際、朱鷺とは並びたくないって言う女子多かったし」

「あぁでも、あなたたちが朱鷺に侍ってるのはありかも。みんなそこらの雰囲気イケメンアイドルよりずっとナチュラルにイケメンで綺麗だし。それにほら」


美奈子は指でフレームを作るとこっちへ向けた。


「あの2人なら絵になるわ」


嬉しくない。

深山のクレバスも深くなった。


「一部の特殊嗜好の方々にとっても受けそう。ねぇ、写真撮ってもいい?」

『断る』


声が揃ってしまった。

さらにクレバスが深くなる。


「深山、これヤバくないか?」


眉間のクレバスに指先で触れると、深山は驚いた表情になり体を引いた。


「…深山?」


なんだその反応。


「おま…っ!急に触るな!」

「なんだよ、シワになりそうだと思って心配しただけなのに怒鳴るなよ」

「シワってなんだよ」

「眉間のクレバスがヤバイって思ったんだ」


せっかく心配したってのに…


「な、なんだその顔は!」


また怒鳴るし。


「なんだって、なんだよ。俺、変な顔したか?」

「拗ねたような顔するな!」

「拗ねてねぇよ」

「拗ねてるだろうが!唇を尖らすな!下から上目遣いで見るな!顔を寄せるな!」

「いちいちうるさい奴だな」


顔が赤くなってる…

ははぁ〜ん…


「お前、パーソナルスペース意外と狭いのな。近づかれるのが苦手なのか」


ジリジリ近寄るとそこ分だけ下がっていく。

おもしれぇ。


「来るなって!」

「いいじゃん、俺らトモダチだろ?」

「友達じゃねぇ!」

「俺はトモダチって思ってるんだけどな。ダメか?」

「うっ…」


おぉ!さらに赤くなった!

さらに近づくと、


「はいはいはいはい、朱鷺、その辺でやめとけ」


竜樹に背後から首に腕を回され、深山からグイッと引き剥がされた。

微妙に首が締まって苦しいんだが?

回された腕をタップしながら背後の竜樹を見上げると、もう片方の手で顔を塞がれた。


「うん、その顔は反則。危険が危ないからやめなさい」


なんだよ、顔が反則って意味不明。


「お前の顔は免疫ないと至近距離は凶器だから不用意に他人に近づかないように」

「顔が凶器ってなんだよ。俺の顔はそこそこイケメンだぞ。自称だが」

「そこそこじゃないから、免疫ないと心不全になるレベルだから」

「ちなみにこの4人はこの距離でかなりのダメージよ」


美奈子の声にそっちを見ると、四君子はテーブルに突っ伏していた。


「静まれ僕、拗ね顔がヤバイ、マジで危険…」

「魔王な顔がエロい、胸が苦しい、幸せ…」

「上目遣いからの首稼げがお可愛らしくて心臓が保ちません、でも眼福…」

「なんなのこの多様性、総じて素敵、尊い…」


………なんだそれ。


「ほら、そのポカン顔も無防備で危ないから他所様には見せないように。そうじゃないとお前の貞操が危ないぞ」

「俺、一応師範代」

「うん、知ってる。強いのも知ってる。でも危険だからやめなさい」

「竜樹、お前何様?」

「竜樹様」

「竜樹のくせに生意気」

生物(なまもの)ですから生きてます。…唇尖らせてるとキスするぞ」


無言でエルボー。

躱された。


「させるかボケ」

「あら残念」

「ちっとも思ってないくせに」

「そんなひどいわ!私の気持ちを疑うなんて!」

「あぁもう縋るな鬱陶しい」

「お前体温高いから気持ちいいんだよ」

「夏だぞ、暑いじゃないか」

「でも気持ちいいの!」


そんな俺たちのやりとりをジッと見ていた深山が、


「お前らどういう関係だ?」


再び眉間にクレバスで聞いてきた。


「幼馴…」

「腐れ縁」


竜樹の言葉に被せるように言う。


「ひでぇ」

「ひどくない」


竜樹も美奈子もどっちも大切な幼馴染だ。


たまに面倒だけど、それはもう諦めてる。





「そろそろ道場に向かうか。竜樹、お前らはどうする?」

「俺らは今日はやめとく。用事があるんだ」

「了解。深山と清音は?」

「俺は見学だけでいい」

「私はお婆様のお手伝いをしていますね」

「いいのか?」

「えぇ、ちょっとしたコツとか教えていただけますし、楽しいです」

「わるいな、ありがとう。よし、じゃぁ行こうか」

『はい!』


俺は5人を連れて道場に向かった。


「朱鷺様が指導されるのですか?」

「初心者に教えるのが上手い人がいる。今日来てくれる約束してるからその人だな。丁寧だし優しいぞ」

「朱鷺様は指導されないのですか?」

「俺は子供に型の指導してるのが多いかな」

「型…ですか?」

「基本の動きや型があるからな。動きを見て補正してる」

「そうなのですね」


母屋の裏手に道場がある。

すでに何人か来ているようだ。


「俺たちは着替えてくるから深山は先に見学してて。途中で参加したくなったらその時は言ってくれ。あ、田代さん!こいつらが昨日言ってた見学者です!」


準備運動をしていた社会人の上段者に紹介する。


「こっちの4人は見学だけじゃなく参加するんで着替えてきますね」


田代さんにそう言って更衣室に向かう。

子供は家から道着を着てくるが、大人は会社帰りに来たりするから更衣室が必要だ。


「蘭は5号サイズかな。そっちの3人は3号でいいだろう」


道着を手渡す。


「洗い晒しだから新品より着心地は良いはず。着方はわかるか?」

「はい、なんとなくですがわかります」

「わからなかったら言えよ」


そう言って俺も着替えることにする。

作務衣の上着を脱ぐと視線を感じた。

振り返ると、四君子がガン見している。


「ふわぁぁぁ…」

「背中から腰のラインが…ぁぁぁぁ」

「脱ぎ方が色っぽい…」

「無駄のない綺麗な筋肉…」


すげー怖いんですけど。

さっさと着替えよう。


「朱鷺様の袴姿…」

「素敵…」

「なんて麗しく凛々しくお美しいのでしょう」

「かっこいい…」


……確か、人生って諦めが肝心…なんだよな…?




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