表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/57

⑷ 花火大会

 7月も終わりに入った。

 詩織の中学も、今日から夏休みとの事。


 そして明日は、近くで花火大会が予定されている。

 詩織に話したら、一緒に行きたいと言ってくれた。

 そこで、16時に駅で待ち合わせる事にした。


 私はいつもの恰好で来たのだが、詩織はなんと、浴衣を着て来た。

 深い紺色の浴衣。何の柄も入っていない。

 この、地味な浴衣を若い娘が着ると、逆に目を引く……やばい。


 詩織はまだ中学生だが、浴衣を着て後ろ髪を上げると……やはり詩織の破壊力は侮れない。

 だが……まだ、胸はない。


 詩織と手を繋いで屋台通りを歩いていく。

 すれ違う男どもが振り返る。

 彼女連れの男も振り返る。

 なんだろう、偉くなったような気がするから不思議だ。


 焼きそばやお好み焼きの匂いが食欲をそそる。

 しかし、口のまわりにソースが付いてしまうのは、いただけない。


 暫く歩くと、ぶどう飴が目に止まった。

 ぶどうの粒を3つほど串に刺して、飴で固めたもの。

 リンゴ飴をぶどうで作ったものだ。

 これならば、口の周りがベタベタにならない。


 私はそれを2本買い、一本を詩織にあげた。

 二人でぶどう飴を食べながら、屋台通りを歩いた。


「私、初めて見ました、ぶどう飴」

「ああ、私も食べるのは初めてだ」

「パリパリした飴に包まれて、おいしいですね」


 詩織は上機嫌。

 あぁ、やっぱり詩織は、い~なぁ~


 そして私たちは、花火が見える場所に移動した。

 丁度、花火を打ち上げる時間となった。

 『ヒュー』といった音の後に、大きな花火が夜空に開いた。

 そして『ドォーン』といった音が、後から伝わってくる。


 この花火大会に来ている男性の多くは、彼女連れである。

 その中で、高校生か大学生か、男だけで集まって、大騒ぎしているグループがいる。

 花火を打ち上げる『ヒュー』といった音とともに、彼らは叫んでいる。

「爆ぜろ、ストロンちうむぅ!」

 『ドーン』と花火が開くと「うおー」と歓声を上げている。


 ……実に恥しい。何が悲しくて大はしゃぎしているのか。

 彼らを見ていると、つい、叫びたくなります。

 やぁめろーなぁつかしいじゃないかぁー。

 いかん! つい昔の自分を思い出してしまう。


 すると、詩織が言った。

「今のはストロンチウムではなくて、リチウムですよね」

「……しおりさん?」


 まあ、人それぞれ、何に着目するかは自由だ。

 しかし、せっかくの花火大会に来て、金属の炎色反応に目を向けるというのは、いかがなものでしょう。

 私は詩織に対して、頭で見るだけでなく、心で見る事も、して欲しいと思った。


 以前、詩織と一緒に行った植物園。

 私と同じものを見ながら、実はまったく別のものを見ていたのではないだろうか?


 やがて花火大会は終わり、周りは闇に包まれた。

 足元に気を付けながら詩織の手を取って、明るい商店街へ向かった。


 歩きながら、私は詩織に問題を出した。

「雪が溶けたら、何になるでしょう?」


 詩織は不思議そうな顔をして答えた。

「水……じゃないのですか?」


 私は答えた。

「春でしょう」

「……」


次回:拉致


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ