⑷ 花火大会
7月も終わりに入った。
詩織の中学も、今日から夏休みとの事。
そして明日は、近くで花火大会が予定されている。
詩織に話したら、一緒に行きたいと言ってくれた。
そこで、16時に駅で待ち合わせる事にした。
私はいつもの恰好で来たのだが、詩織はなんと、浴衣を着て来た。
深い紺色の浴衣。何の柄も入っていない。
この、地味な浴衣を若い娘が着ると、逆に目を引く……やばい。
詩織はまだ中学生だが、浴衣を着て後ろ髪を上げると……やはり詩織の破壊力は侮れない。
だが……まだ、胸はない。
詩織と手を繋いで屋台通りを歩いていく。
すれ違う男どもが振り返る。
彼女連れの男も振り返る。
なんだろう、偉くなったような気がするから不思議だ。
焼きそばやお好み焼きの匂いが食欲をそそる。
しかし、口のまわりにソースが付いてしまうのは、いただけない。
暫く歩くと、ぶどう飴が目に止まった。
ぶどうの粒を3つほど串に刺して、飴で固めたもの。
リンゴ飴をぶどうで作ったものだ。
これならば、口の周りがベタベタにならない。
私はそれを2本買い、一本を詩織にあげた。
二人でぶどう飴を食べながら、屋台通りを歩いた。
「私、初めて見ました、ぶどう飴」
「ああ、私も食べるのは初めてだ」
「パリパリした飴に包まれて、おいしいですね」
詩織は上機嫌。
あぁ、やっぱり詩織は、い~なぁ~
そして私たちは、花火が見える場所に移動した。
丁度、花火を打ち上げる時間となった。
『ヒュー』といった音の後に、大きな花火が夜空に開いた。
そして『ドォーン』といった音が、後から伝わってくる。
この花火大会に来ている男性の多くは、彼女連れである。
その中で、高校生か大学生か、男だけで集まって、大騒ぎしているグループがいる。
花火を打ち上げる『ヒュー』といった音とともに、彼らは叫んでいる。
「爆ぜろ、ストロンちうむぅ!」
『ドーン』と花火が開くと「うおー」と歓声を上げている。
……実に恥しい。何が悲しくて大はしゃぎしているのか。
彼らを見ていると、つい、叫びたくなります。
やぁめろーなぁつかしいじゃないかぁー。
いかん! つい昔の自分を思い出してしまう。
すると、詩織が言った。
「今のはストロンチウムではなくて、リチウムですよね」
「……しおりさん?」
まあ、人それぞれ、何に着目するかは自由だ。
しかし、せっかくの花火大会に来て、金属の炎色反応に目を向けるというのは、いかがなものでしょう。
私は詩織に対して、頭で見るだけでなく、心で見る事も、して欲しいと思った。
以前、詩織と一緒に行った植物園。
私と同じものを見ながら、実はまったく別のものを見ていたのではないだろうか?
やがて花火大会は終わり、周りは闇に包まれた。
足元に気を付けながら詩織の手を取って、明るい商店街へ向かった。
歩きながら、私は詩織に問題を出した。
「雪が溶けたら、何になるでしょう?」
詩織は不思議そうな顔をして答えた。
「水……じゃないのですか?」
私は答えた。
「春でしょう」
「……」
次回:拉致




