表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/55

⑶ 詩織さんとデート

 今まで詩織は、学校の帰りに食材を買いにスーパーへ寄るぐらいで、自宅と学校のあいだを往復するだけの日常を送っていた。

 友達と一緒にお店へ寄ったり、遊びに行ったり、といった事を、まったくしてこなかったようだ。


 学生の本分は勉強である。

 実に模範的とも言えるが、詩織には勉強以外にも、色々学んでほしいと思った。


 そこで、私は詩織をデートに誘った。

「今度の日曜日、何処かへ遊びに行こうか?」

 詩織は嬉しそうに、目をキラキラさせている。

「詩織が遊びに行きたいところ、何処へ行こうか」


 しかし、遊び慣れていない子に何処へ行こうかと聞いても、当然出てこない。

 私は無難なところで幾つかあげた。

「動物園とか……ああ、水族館なんていうのも良いかもしれない」


 すると詩織は、思いついたように言った。

「植物園へ行きたいです」

「し……植物園?」


 なんともまあ、想定外のリクエストである。

 私は、動きの無い植物をみて、何が面白いのか解らない。

 まあ、綺麗な花を見て楽しむ。

 人それぞれ嗜好は違う。


「わかった。雨天でなければ植物園へ行きましょう」

 という事で、詩織と最初のデートが決まった。


 しかし、植物園といっても色々ある。

 日帰り出来る所で、なるべく大きな植物園を探した。

 そこで○○植物園へ行く事にした。


 レンタカーで行く事も考えたが、休日は駐車場が混雑するとの情報から、電車で行く事にした。

 移動時間は約1時間。

 9時30分開園との事で、8時30分に駅で待ち合わせる事にした。


・・・・・・


 そして、その日が来た。

 私は普段着の、研究室へ行く恰好だが、詩織は真新しい服装で来た。

 落ち着いた装いだが、純白のワイシャツが眩しい。


 背中に浮かぶインナーのライン。

 つつましやかな胸の膨らみ。

 これが女子中学生の透明感。


 電車に乗って目的地へ向かう。

 日曜のこの時間という事で空いている。

 詩織と一緒に座った。


 車内に降り注ぐ暖かい陽射しが眠気を誘う。

 いかんと思い、気持ちを起こして詩織を見ると、詩織は嬉しそうに私を見ていた。

 うたた寝しそうになる私を見ていたようだ。


 こんな時、どんな話しをしたら良いか。

 あまり詩織の事を言えない。

 私も遊び慣れていないのだ。


 無難なところで詩織に話し掛けた。

「詩織は学校で、何かクラブに入っているの?」

「私は園芸部に入ってます」


「ああ、だから植物園?」

「はい」

「どんな植物を育てているんだろう」

「私が育てているのは苔類です」


「……コケ?」

「はい」

「いやぁ、ずいぶんと渋い趣味をお持ちで」


「コケって、かわいいんですよ」

「はあ?」

「これは、溶岩石に着生させた、ヒノキゴケです」


 そう言ってスマホの写真を見せてくれた。

 水に浸された溶岩石から、力強く生えているコケ。

 なるほど、たしかに、可愛いかもしれない……。


 それからは、詩織がコケについて、色々な事を話してくれた。

 ギンゴケは、極寒の南極大陸でも生育しているとの事。

 もしかしたら火星にも、コケ類なら生息しているかもしれない……等。


 詩織が嬉しそうに、色々な話しをしてくれる。

 そんな詩織に愛おしさを感じた。


 詩織の話しを聞かせてもらっている内に、目的の駅に着いた。

 そこから歩いて15分ほど。

 ○○植物園に到着した。


 最初に園内地図をもらい、詩織と確認した。

 ものすごく広い。

 私は、あまり植物園には興味無いが、歩き回るだけでも良い運動になりそうだ。


 最初に、巨大なドーム型の温室へ向かった。

 ここでは、日本では見る事の出来ない熱帯植物を見る事が出来る。

 ジャングルに迷い込んだ感じだ。これはおもしろい。


 大きな蝶が、ゆっくりと飛んでいる。

 『キィーッ、キィーッ』と言った猿の鳴き声を効果音として鳴らしていたら楽しいのに……等と、植物園本来の目的から外れた事を考えていた。


 温室内の気温は高いが湿度が低い為か、不快感はない。

 詩織と手を繋いでゆっくりと散策した。


 温室から出ると、暖かい陽射しと穏やかな風。

 実に気持ち良い気候だ。


 次にバラ園へ向かった。

 西洋風の巨大な庭に、さまざまなバラが咲いている。

 バラ独特の香りに包まれる。

 ヨーロッパの古城庭園にでも来たような気分だ。


 近くにレストランがあったので、少し早いが、そこで昼食をとる事にした。

 メニューの中に、バラの花びらを使った冷たいパスタというのがあり、私と詩織はそれを注文した。


 内容は、冷やしたパスタにバラの花びらとサラダをあえたもので、バラの花のほろ苦さがオリーブオイルによって緩和されている。

 その後、ローズケーキとローズティを頂いた。

 私は植物園に期待していなかったが、これはこれで楽しい。


 次に向かったのは花畑。

 一面、青色のシバザクラが咲いている。

 これはすごい。


 以前、北海道で見渡すかぎり、紫色のラベンダー畑を見た事があるが、あの時のような、目が覚めるような景色が広がっている。

 私と詩織はベンチに腰掛け、冷たいお茶を飲みながら、ゆったりと花畑を見ていた。


 右隣に座った詩織は、私に体を倒して言った。

「レイさんと仲良し」


 私も右手で詩織を引き寄せて言った。

「はい」


 詩織の体から伝わる暖かさ。

 ああ、今日はデート日和だ。


・・・・・・


 次に向かったのは日本庭園エリア。

 わびさびを思わせる古池と竹林。

 こういった、静寂の間も良いものだ。

 等と考えていると、突然詩織がしゃがみ込んだ。


「わぁ、鳳凰ゴケ」

 詩織はしゃがみ込んだまま、古池の周りを観察している。


「あっ、ギンゴケ」

 詩織はスマホに接写レンズを付けて撮影している。

 それはそれで楽しいのかもしれない。

 私は詩織の後をついてまわった。


 陽射しの当たる古池のまわりから、竹林の中へ入った。

 太陽の光がさえぎられた、やや薄暗い世界。

 そこは湿り気のある土でおおわれている。

 いたる所が緑の地面。そう、全てコケだ。


 今まで、コケの生えた地面に何の関心もなかったが、改めてみると、それはそれで面白い。

 よく見ると色々な形がある。

 日本に生息しているコケだけでも、1800種類以上との事だ。


 さまざまなコケを観察し、最後に藤園へ向かった。

 これはすごい。

 藤棚から豪雨のように垂れさがる紫色の花。


 広い藤棚の下を、詩織と手を繋いでゆっくりと歩いた。

 ここは何処だ? まるで異世界へ迷い込んだようだ。


 4時閉館との事で、ゆっくりと帰る事にした。

 今日は歩いた。良い運動になった。


 帰りの電車で、詩織は私の肩にもたれて眠ってしまった。

 今日のデートが楽しみで、昨日は眠れなかったに違いない。

 等と思いながら……実は私も眠れなかったのは……内緒だ。


 駅に着いて詩織を起こすと、詩織は頬を染めて恥しそう。

 夕食をどこかで、と思ったが、詩織もだいぶ疲れているようだ。

 まっすぐ帰る事にして、詩織を自宅まで送った。


「コーヒー淹れますので是非上がって下さい」

 詩織にせがまれたが、玄関前で失礼した。

 そして私は、まっすぐ自分のアパートへ向かった。


 その時の私は、何も気づいていなかった。

 今日の詩織とのデートを、何者かがマークしていた事を。


何者かがマークしていた?

まさか!……玲さんに女の影が?


次回:(第2章 終話)花火大会

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ