⑷ 休暇
いつものように、スーパー1階中央のテーブルに集まり、朝食を頂いた。
その後、本日の予定としての打ち合わせが始まるのだが、CMさんが今日の予定を提案した。
「今日は、天気も良い事ですし、皆さん、今日は休暇にしませんか?」
突然の提案に、みんな驚いた。
CMさんは続けた。
「今まで毎日、色々な事を休みなくこなしてきました。今日1日、心と体をリフレッシュさせませんか」
「いいですねー」
という事で、今日一日、リフレッシュ休暇となった。
CMさんが言った。
「では今日一日、ここの食品売り場の食料、各自好きなだけ自由に。それと、くれぐれも事故の無いように。あと、日没前には本部へ戻って、みんなで夕食を頂きましょう」
C子さんが訊いた。
「CMさんのご予定は?」
「ああ、私は読書でもしながら、1人でのんびりと過ごそうと思いまして」
それでは……という事で、みんな頭の中では、もう、どこかへ行っている。
みなさん自転車で出かけるようだ。
BMさんとB子さんは、なにやら打ち合わせをしている。
そして、食品売り場で食料を選び、2人は出発した。
アノンさんとC子さんは、上の階に何かを取りに行った。
そして、2人は釣り竿とバケツを持って降りて来た。
C子さんが言った。
「小川の下流で、深いエリアがあります。おそらくそこに、主がいる」
アノンさんが言った。
「そこで、C子さんと釣りに行ってきます」
なんと……しかし、それはそれで楽しそうだ。
「はい、くれぐれも気を付けて」
「大物釣って来まーす。期待しててぇー」
そう言って2人は出かけた。
そして私と詩織は2階から、アウトドア調理器具を拝借し、食材を選んで自転車に乗せた。
目的地は特にない。この町を赴くまま走る。
私と詩織は出発した。
気持ちが軽い。
詩織も楽しそうだ。
しばらく走ると音楽が聞こえてきた。
なんだろう。
ここは、受水槽を持ち出した時の学校だ。
「寄ってみましょう」
「はい」
自転車を止めて学校に入った。
校舎の中を歩き、音楽が聞こえてくる所を目指して歩いて行くと、そこは音楽室だった。
BMさんがピアノ、B子さんがバイオリン、2人でセッションしている。
……すごい。
私と詩織は音を立てず、静かに入った。
私と詩織はB子さんの後ろ側なので、B子さんは気付いていない。
曲が終わった。
私と詩織は拍手した。
驚いたB子さんは、振り向いて言った。
「Aちゃん!」
「素晴らしいです」
「すごいですねぇ」
それからは、しばらく2人のセッションを聴かせてもらった。
この2人、どういった関係なのだろう。
そして、2人に挨拶して別れた。
・・・・・・
それから私たちは、川沿いに走った。
そこで、アノンさんとC子さんを見つけた。
ここがC子さんの言われた穴場のようだ。
2人も私たちに気付き、手を振ってくれた。
自転車を止めて川岸に降りた。
バケツの中を見ると大物が2匹。
「すごい」
「浅瀬で獲れるいつもの魚と違うでしょ!」
「たしかに。これからは、ここでも漁をしましょう」
そんな会話をした。
・・・・・・
その後、私と詩織は自転車を引いて、町の中を歩きまわった。
カフェテラスと書かれた看板が目に入った。
脇に石段がある。
私と詩織は自転車を停めて石段を登った。
その石段の上に喫茶店があった。
店の前に広いテラスが造られ、いくつかのテーブルが置かれている。
とてもいい感じだ。
少し遅くなったが、このテラスで昼食を取る事にした。
自転車に積んできた荷物を運び、持ってきたアウトドア調理器具で作る。
食材は、水だけで作れるパンケーキの粉。
ペットボトルの水を入れてかき混ぜる。
固形燃料に火を付け、フライパンに流し込む。
焼けたパンケーキを皿に移し、水に浸したドライフルーツを乗せ、コンデンスミルクをかけた。
カップにドリップフィルターを乗せ、ミルで挽いたコーヒーを入れてお湯を注ぐ。
久々の詩織とのデート。
詩織と一緒にコーヒーとケーキを頂いた。
穏やかな日差しの中で、テラスでの食事。
私たちは、ゆったりとひと時を過ごした。
私は話し掛けた。
「最初に会った時のこと、覚えていますか?」
「……はい」
「私のアパートの前で、詩織は膝を抱えて私を待っていた」
「はい」
「そして、いきなり『ふつつかものですが、よろしくお願い致します』って言われた時は、驚きました」
詩織は笑いながら答えた。
「はい」
「『私は、里中さんに見初めて頂いたと、父からきいています』って言って、見ず知らずの男の所へ嫁いでくるって、普通ありえないでしょう」
「……はい。……実は私にとりまして、レイさんとお会いしたのは、あの日が初めてではないのです」
「……はい?」
「私が小5の時、父の大学の学祭のパンフレットを見ていましたら『超電導公開実験』と書かれたページがありまして、興味のあった私は学祭に行きました」
「……1人で、ですか?」
「はい。……ただ、小学生が1人で来る人は、あまり居ないようで、私が公開実験の会場を探していたら、『お友達と、はぐれちゃった?』って声を掛けてくれた人がレイさんでした」
「……覚えていない」
「私が超電導公開実験の会場を探している事を伝えましたら『ああ、そこ、私の友人の研究室だから案内してあげる』って言って、案内してくれました」
……ああ、なんとなく覚えがある。たしか、そんな男の子がいた……って……あの男の子は詩織だったのか?
「はい。そんな子がいた事、思い出しました」
「その時、レイさんは私に色々な超電導の話しをしてくれました。会場に着いてレイさんと別れた後、ちょうど父と会いまして、あの方に案内して頂いたと話しましたところ、『ああ、彼は私の研究室の里中君だ。実に真摯な研究員だよ』と言っていました」
「そ……そうですか」
「私はレイさんに対して、素敵な方だなーって思いました。そして昨年父から『里中君が詩織の事をいーですねえって言っていた』と聞きまして、その時は、地に足が付かないほど嬉しかったです」
「いやぁー」
「でもその後『私に何かあった時は、里中君の所へ身を寄せるように』と言われまして、父になにかあったら……その事が頭から離れず、その日は怖くて眠れませんでした。そして、父は行方不明になり、私はレイさんの所へ行きました」
「……そうだったんですね」
そんな話をしながら、昔を思い出していた。
陽もだいぶ傾いてきた。
「では、そろそろ帰りますか」
「はい」
1階に降りた詩織は、上を見上げて言った。
「ここのカフェテラス、素敵ですね」
「ああ、いいところを見つけた。今度、みんなを連れて来よう」
「はい。そうしましょう」
そして私と詩織は帰路に就いた。
私と詩織が本部に着くと、みんな既に戻っていた。
その日の夕食は、スーパーの駐車場で食事をする事になった。
2階のアウトドア用品売り場から、バーベキューコンロ焚き火台を持ち出し、木の枝で焚いた。
なべでお湯を沸かし、レトルト食品を温めた。
そのまわりを囲って、みんなで夕食を頂いた。
食事後、この世界の事についての話となった。
本当に、みんな何処へ行ってしまったのか。
我々は、何の目的も見いだせないまま、生き延びる為の活動を続けている。
それで良いのだろうか。
そんな話題となった。
ただ気になったのは、その話題にCMさんは入らず、黙って聞いていた。
ここまでお付き合い頂いた読者さま、本当にあいがとうございます。
次の第15章が最終章となり、4話で完とます。
どうか最後まで、お付き合い下さい。
次回:置き手紙




