⑴ 新たな拠点
私たちは、ドローンで見つけた町に向かった。
はやる気持ちを抑え、慎重に歩いた。
そして、全員無事に目的地へ着いた。
町全体が新しい。
声を掛けてまわるが、ここにも人が居ない。
各家の玄関扉を調べると、カギが掛かっていない家がほとんどだ。
何かに煽られて、逃げ出したのだろうか。
町全体を見ると、新興住宅地のようだ。
道幅も広く、ゆったりしている。
私たちはここへ来て、飲食店に掛けられている営業許可証から、始めてここが何処なのか、知る事が出来た。
○○県○○市○○町……
豪雪地帯ではないが、あの小屋で冬を越すのは確かに厳しいと感じた。
今は10月の半ば。
当初の予定では、川の下流に集落は無いか。
冬を越す事の出来る住処は無いか。
それを確認し、元の小屋へ戻る予定だった。
私たちが耕した畑もある。
それを収穫し、冬前にシェルターへ戻る予定だった。
しかし、この町を見て、改めて今後の予定を話し合った。
本格的な冬が訪れる11月までの2週間で、この町を確認する事の方が重要と判断した。
私たちは、ここを新たな拠点とする事にした。
私たちがここで生きる為、ここでは何が出来るのか、掴んでおく必要がある。
それによって、シェルターから持ってくる物もあるだろう。
再びここへ来る為、機材などの荷物はここへ置いていく。
11月に入ったらシェルターへ戻り、冬を越す。
そして春になったら再びここへ来て、畑を造り作物を育てる。
作物が収穫出来れば、ここで生活出来る。
冬を越す事も可能かもしれない。
私たちは、この町を探索する事にした。
どの家にも車庫がある。
しかし車で避難したようで、車は無い。
だが、自転車がある。
自転車があると、行動半径は飛躍的に広がる。
各家をまわり、各自、自転車を選び、借用する事にした。
この町から西に伸びる広い公道を見つけた。
恐らくこの町の動線なのだろう。
では、その先に何があるのか?
早速、自転車に乗って、その先を確認する事になった。
自転車に乗って風を切って走る。
なんて気持ちが良いのだ。
西に伸びる公道は、ゆっくりとカーブしている。
しかしその先で、それは残念な思いとなった。
焼けた木々が、道を塞いでいる。
あの、ドーナツ状の焼けた木々のエリアに着いてしまった。
自転車では、これ以上、先に進む事は出来ない。
私とBMさんでドローンを飛ばした。
撮影した画像をパソコンで確認すると、やはりそうだ。
この先の西側に、シェルターが確認出来る。
真っ白な砂の世界に、ポツンと残された施設の焼けた跡。
予定では、11月になったら、この町に来た時の川沿いを遡って小屋へ戻り、更に小屋へ来た道を遡ってシェルターへ戻る予定だった。
しかし、ここまで自転車で来て、ここから徒歩でシェルターへ向かえばかなりの近道となる。
ここへ来て、良い発見もあった。
私たちは町へ戻った。
町の中心部でドローンを飛ばし、半径4kmの上空写真を作った。
そして、広い駐車場を有したスーパーを見つけた。
3階建ての建物で、入り口は開かれたままである。
各階の売り場面積は、バレーボールコートの3面ぐらいだろうか。
そこそこ大きい。
入ると1階は食料品売り場のようで、腐敗した食べ物の匂いが感じられる。
だが、入口が開かれていた為、以前のコンビニほど酷くない。
階段で2階へ行くと、衣類、雑貨、家電製品、等の売り場だ。
そして3階へ行くと、リビング、寝具、等の売り場だった。
私たちは、2階の雑貨コーナーへ行き、沢山のゴミ袋を拝借し、1階の腐敗した食料を詰めて、外の駐車場へ移動させた。
缶詰め、ビン詰め、飲料水など、以前のコンビニよりも大量の保存食料がある。
これはありがたい。
だいぶ陽も傾いてきた為、今日はこのスーパーで寝泊まりする事にした。
1階は、私と詩織。
2階は、BMさんとB子さん。
3階は、CMさんとC子さんとアノンさんが利用する事となった。
最初に全員で、3階のリビングコーナーから、大きなテーブルと椅子7脚を1階に運び、フロアの中央に設置した。
全員での食事はこのテーブルで行う。
何といっても、山のような食料が目の前にあるのが嬉しい。
各自生活に必要なものを各フロアから持ち出し、自分が割り当てられたフロアへ持ち込んだ。
私と詩織は2階の雑貨売り場からブルーシートを拝借し、私は1階フロアの西側、詩織は東側に敷いた。
そして、3階の寝具売り場から布団を持ち出し、敷いたブルーシートの上にマットレスを2枚重ね、その上に布団を敷いた。
久しぶりに、布団で寝る事が出来る。
次に、2階の家電売り場から、太陽光充電式のLEDランタンと、モバイルバッテリーを拝借し、1階に設置したテーブルの上に置いて点灯させた。
そして、飲料コーナーから缶ビールと缶ジュースを拝借し、中央のテーブルに座った。
「お疲れ様」
「お疲れ様でした」
お互いに挨拶して2人で乾杯した。
ゆっくりとくつろいでいると、詩織が女子会での話しをしてくれた。
「私はアノンさんに、シェルターで自殺しようとした時の事を訊きました」
「はい」
「アノンさんは『あの時、AM(玲)さんに、ぶっ飛ばされた』って言ってました」
「ああ」
私は、笑って答えた。
「その後レイさんから『私はアノンさん以上の過ちを犯してしまった』って」
「……はい」
すると詩織は、真剣な眼差しを私に向けて言った。
「全部、一人で背負い込まないで下さい。犯してしまった過ちは、私が原因です!」
「……何を言ってるんだ」
詩織は、目に涙を溜めて言った。
「電磁波動砲の実現について、レイさんは以前から慎重でした。実現すれば大きな戦争を引き起こす」
「……はい」
「しかし、私が父の論文の理解を引き受けた事で、レイさんは言いました。『核兵器廃絶の流れを作る計画、私も詩織も協力したい考えです』」
「はい」
「私が父の論文の理解を引き受けなければ、レイさんは電磁波動砲の実現に着手されなかった。電磁波動砲は完成しなかった。そして戦端は開かれなかった!」
私は詩織に言った。
「いや、そんな事はないよ……そんな事は」
私は、ただ、そう言った。
そう言うしかなかった。
迂闊だった。
詩織がそんな事を思い、苦しんでいたとは……。
しかし今の私には、詩織の気持ちを整理する話しを持ち合わせていない。
この話し、終わらせなければいけない。
「夜もふけてきました。そろそろ解散しましょう」
「……はい」
そして、私と詩織は、別々の布団に向かった。
・・・・・・
布団に入って寝ようとしていたら、階段の上から悩ましい声が聞こえてきた。
これは、2階フロアのB子さんの声?
そして、その声は、次第に激しくなってきた。
これは……ちょっと……やばい。
しかし、所詮は、ただ、それだけの事。
BMさんとB子さんが愛し合っている。
そう、ただそれだけの事です。
それは、それ以上でもなければ、それ以下でも、ありません。
詩織は、ただ、父の論文を理解しようとした。
そう、ただそれだけの事です。
私は、核ミサイルに対して、盾としての電磁波動砲を完成させた。
そう、ただそれだけの事です。
それ以上でも、それ以下でもありません。
そのように考える事にした……。
そう、そのように、考える事に、しました。
しばらくすると、その悩ましい声はおさまり、静寂に包まれた。
あの上品なB子さん、こんな切ない声で鳴くんだぁ。
そしてB子さんを美しく鳴かせるBMさん……やはり只者ではなかった。
……しかし、この私の私自身、どうしたらいいんだぁ!
次回:ここでの生活




