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⑵ 戦端を開いたのは

 次の日、リザーブルームを確認すると、襲撃者の女性は体にシーツを撒いて、起きてベッドに座っていた。

 意識が回復したようだ。

 そこで、彼女と話しをする事にした。


 襲撃者……と言っても、知的な感じの女性だ。

 しかし、どのような訓練を受けて来たのか解らない。

 まずは男3人で中に入り、女性3人は外で待機。

 そして外からカギを掛けてもらった。


 CMさんが話し掛けた。

「日本語、解りますか」

 彼女は静かに首を縦に振った。


「これから貴女と話しがしたいです。その前に、貴女の両腕を拘束させてほしい。良いですか」

 彼女は状況を理解したようで、静かに首を縦に振った。


 私は彼女の後ろにまわり、両手首を後ろで縛った。

 そして女性3人が食堂の椅子を7脚持って、部屋に入ってきた。


 全員で椅子に座った。

 そして、CMさんから話しを始めた。

「まずは、お名前を教えて下さい」

 しかし、彼女は無言のままである。


 BMさんが言った。

「我々がコードネームで呼び合っているのに、彼女に本名を名乗ってもらうのは……」

 私が言った。

「では、これから貴女を何て呼びましょう」


 C子さんが言った。

「アンノウン……不明さん」

 すると詩織が提案した。

「では、アノンさんとお呼びするのはいかがでしょう」

 B子さんが言った。

「いいですねぇ」


 CMさんは皆を見回し、そして彼女に言った。

「では、これから我々は、貴女をアノンさんとお呼びします。よろしいですか?」

 彼女は静かに頷いた。


 そして私たち全員、自分のコードネームを伝えた。

 ここへきて、今更コードネームも無いが、今となってはコードネームの方がしっくりくる。

 こうなった以上、アノンさんともうまくやって行かなければならない。


 本題に入ろうとCMさんが話しをしようとした時、突然アノンさんが話し始めた。

「私は医師です。兵士ではありません」

 武装していた女性から、自分は兵士ではないと言われ、私たちは驚いた。


 そして、アノンさんの話しは続いた。

「専門は免疫学です。年齢は……まあ……未婚とだけお伝えします。あのような武装をしていましたので、兵士と思われた事でしょう。しかし、私は戦闘訓練など受けていませんので、このような警戒は必要ありません」

 ……このような警戒とは、両手を後ろで縛った事だろう。


 CMさんが言った。

「その事を、我々が信じる為の証明、出来ますか」


 その時、詩織が発言した。

「あの……私が銃口を向けられた時、アノンさんは私の盾になって、私を守ってくれました。さしあたって、私はアノンさんの言われる事を信じたいと思います」


 みんなで顔を見合わせた。

 同意のようだ。

「では」

 私はそう言って両腕の縛りをほどいた。


 アノンさんが言った。

「あの状況で、私が生きているのは、どなたかが私を助けてくれたと理解しています。この場を借りて、深くお礼申し上げます」

 そう言って、アノンさんは深く頭を下げた。


 そして、CMさんから本題の話しが始まった。

「まず、貴女にも現状を説明しておきます。ここは核シェルターです。どうやら地上で核が投下されたようです。我々は何が起きているのか、まったく解っていません。そこで、まずは3つの質問を用意しました。

 ① ここへ襲撃した、あなたがたの目的は何ですか。

 ② 外の世界では、何が起きているのですか。

 ③ 何故、核が投下されたのですか」


 その質問に対して、アノンさんは一つずつ答えた。

「最初の①『ここへ襲撃した目的』ですが、ここでのコードネーム、A子さんを連れ去る為です」

 A子(詩織)は、驚いている。


 私は怒りを抑えて訊いた。

「A子を連れ去って、何をするつもりです」

「連れ去る目的は、西側陣営が開発した特殊技術を手に入れる為です」


 みんな、意味不明の表情を浮かべている。

 特殊技術とは、電磁波動砲の事を、伏せて表現したのだろう。


 アノンさんの話しは続いた。

「次に②『外で何が起きているのか』ですが、世界の中で、西側陣営と東側陣営は、核の抑止力によって軍事上のパワーバランスが保たれていました。それが、西側陣営の開発した特殊技術によって、東側の持つ核が無力化され、世界のパワーバランスが崩れたのです」

 ……そう、私はその状況を恐れていた。


「西側は核武装したまま、東側に対して戦端を開きました」

「えっ!」

 私は思わず声を上げてしまった。


「西側に対抗するには、東側も西側の核を無力化させなければなりません。そこで、その特殊技術を入手する為、A子さんを連れ去る計画が実行されました」

 ……なんという事だ。


「しかし東側にとって、時間の余裕はありませんでした。そこで、新たな兵器が使われる事となりました。ウイルス弾頭ミサイルです」


 私は思わず口を挟んだ。

「いや、生物兵器は、ジュネーブ条約で禁止されている!」


「最終戦争で、それが何かの役に立つとお思いですか」

「……最終戦争?」


「私は、危険なウイルスのワクチンを開発するグループの1人です。そして私たちは、そのワクチンの開発に成功しました。しかし、ワクチンの完成によって、この恐ろしいウイルスが兵器として使われる事になりました」


 ……そう、ウイルスだけでは兵器として使う事は出来ない。

 そのウイルスによって自分達も殺されてしまうからだ。

 その為、自分達が助かる為のワクチンがあって、初めて兵器として利用出来る。


 アノンさんは、話しを続けた。

「このウイルスは、強い毒性をもっています。このウイルスを搭載したミサイルを3発、西側陣営に発射します。相手はウイルスですので、その特殊技術によって対応する事は出来ません」

 ……たしかに、電磁波動砲で撃ち落とせば、ウイルスが空中で拡散してしまう。


「最後に③『何故、核が投下されたか』の件になりますが、ウイルスミサイルが目標に到達し、そこからウイルスが拡散していきます。東側が投下したウイルスの拡散を防ぐ為、西側はウイルス投下地点に核を投下し、ウイルスを死滅させる」


 ……なるほど。ウイルスを死滅させる為に核ミサイルを打ち上げたのであれば、その核ミサイルを電磁波動砲で撃ち落とす訳にはいかない。


「しかし、ウィルスを死滅させる事が目的と言っても、核爆発による死傷者は、規模からして約10万人と推定しています」

 ……10万人?


「西側が同盟国である西側に核を落とした。その事実は世論の反発を呼び、数年間は休戦状態となる事を見込んでいます」


 私は、震えながら言った。

「この戦争で何人死んだ」


 そしてアノンさんを睨み付けて言った。

「何人殺したんだ!」


 アノンさんも、私を睨み付けて言った。

「戦端を開いたのは、西側です!」


 アノンさんの目から、大粒の涙がこぼれた。


次回:(第8章 終話)世界中から恨まれても

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