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⑷ ただごとではない

 それからの私と詩織は、ここからの逃亡に向けて準備を進めた。

 ハシゴは材料だけを用意する。

 ハシゴである事がバレないよう、組み立ては当日行う。


 詩織は毎回、食事とともに、保存可能な食料を作っている。

 逃亡時に持っていく為だ。


 しかし、私と詩織が進めている逃亡計画が、この先、意味をなさなくなる事を、その時はまだ知らなかった。


 私と詩織に与えられた1ヵ月間の解放期間は、残り1週間となった。

 そして、逃亡は今から3日後を予定した。


 私は、いつもの日常を過ごしていた。

 その時、ヘリが上空で静止している……まさか! 私と詩織をむかえにくるのは1週間後。

 何か、状況が変わったのか?

 それとも、急用の何かが……?


 いや、もしもそうなら、ホットラインで連絡が来るはず。

 ヘリは、いつもの発着地とは異なる場所に着陸しようとしている。

 ……やはりおかしい! 彼らはアリーナの人間じゃない!


 ヘリは着陸し、武装した人間が6人降りて来た。

 マスクをしている為、顔は見えない。

 しかし、以前ここへ襲撃に来た彼らとも違う。

 近くにいたB子さんも、驚いたようすで見ていた。


 私はB子さんに訊いた。

「A子は?」

「この時間だと、たぶんビニールハウスだと思います」


「至急、センタールームに集まるよう、皆に伝えて下さい」

「わかりました!」


 私は屋外に出て、詩織が作ったビニールハウスに向かった。

 すると、ビニールハウスの前で、ヘリから降りて来た武装した2人と、その先に詩織がいた。

 襲撃者の1人は、銃口を詩織に向けている。


 私は両手を上げ、2人に近づいた。

 襲撃者は、詩織に銃口を向けたまま、私に向かって叫んだ。

「トマレ!」

 するともう一人の襲撃者は、両手を左右に広げ、詩織の前に立った。


 その時、武装した2人の腰に付けている物が一斉にアラートを鳴らした。

 2人の襲撃者は驚いている。


 私はその隙に飛び込み、銃を握った手を掴んだ。

 もみ合っている内に銃の引き金が引かれ、詩織の盾になっていたもう1人に当たった。

 ……これは、テーザーガン?(電極発射型スタンガン)


 撃たれた相手は、気を失っている。

 襲撃者は当ててしまった仲間を一目見た後、乗って来たヘリに向かって全速力で走って行く。

 他の襲撃者も、ヘリに向かって全速力で走って行く。


 私の直感が伝える。

 ただごとではない。


 私は撃たれた襲撃者に駆け寄った。

 そして詩織に向かって言った。

「センタールームに集まっているみんなと、先に降りていてくれ!」


 詩織は私を見て動かない。

 私は怒鳴りつけた。

「早く!」


 詩織は視線を落とした。

 そして、センタールームに向かって走った。


 私は、撃たれた襲撃者の脈拍を確認した。呼吸もしている。

 その時、私はその襲撃者が女性である事に気付いた。


 襲撃者の乗って来たヘリは、飛び立っていった。

 私は気を失っている襲撃者を担いで、センタールームに向かった。


 すると、詩織が戻って来た。

「なんで!」

「みなさんには先に降りるよう、伝えました!」


 私は無言のまま、詩織と共にセンタールームへ向かった。

 詩織は私の前を進み、扉を開けてくれる。

 私がセンタールームに着いた時、彼らは地下へ降りずに私たちを待っていた。


 BMさんは、カバーを開けたホットラインの赤ボタンに指を当てている。

 私と詩織がセンタールームの床に乗ったと同時に、赤ボタンが押された。

 『ドスン』という音とともに、床が降りて行く。

 頑丈な隔壁によって、天井が塞がれた。


 そして3mおきに、隔壁がスライドし、天井を塞ぐ。

 だが、7枚目の隔壁が天井を塞いだ時、照明が消え、降下していた床が止まった。

 ……何も見えない。


 その後、何とも言えない嫌な揺れを感じた。

 しばらくすると非常灯がつき、再び床が降下し始めた。

 やがて降下していた床は止まり、非常灯が消えて部屋の照明がついた。


 私たちは何も言わず、ただ、この床に目を落とし、膝をついていた。

 みんな考えている事は同じである。

 おそらく……核が投下された。


次回:この世界で何が起きたのか


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