⑶ 矛と盾
詩織を見ると、ゆっくりと1回、まばたきをした……肯定のサインだ。
娘の詩織から見ても、このビデオメールは、先生からのものに間違いないようだ。
……余剰次元物理学?
たしかに電磁波は、余剰次元との間を行き来しているとの仮説を聞いた事がある。
しかし先生は、娘に何という物理学を教えてきたんだ。
311さんが話し始めた。
「このビデオメールは、あるチャンネルを通してアリーナへ送られてきたものです。浅野博士のパソコンから、2つの研究論文と、隠されていた3番目の論文をサルベージしたのですが、3番目の論文は、我々の知る物理学を超えたもので、十分な理解に至っていない状況です。そこで最初の試作機として、1番目と2番目の論文を組み合わせた電磁波動砲を造り、実験したのですが、結果としては、出力を上げていくと電磁波レンズが耐えられない為、核ミサイルを撃ち落とすだけの出力まで上げる事は出来ません」
311さんの話しに対して、私は答えた。
「はい、私と詩織の計算でも、その結論に至りました」
それに対して、311さんは話しを続けた。
「しかし、3番目の論文によると、電磁波レンズを使わずに指向性を持たせる事が可能となります」
「……それでは、制限無く出力を上げる事が出来る?」
「近々、某国からミサイルが発射されるとの情報が入っています。某国の目的は、自分達の持つ力を世界に知らしめる為です。よって、核は搭載されていないとの情報ですが、それを落下時ではなく、上昇時に撃ち落とさなければなりません」
「上昇時に?……それは、何故ですか?」
「核を乗せていないデモであれば、落下時でも良いのですが、実際の核弾頭ミサイルであれば、核爆発は抑えられても、破壊されたミサイルの断片が地上に落ちて来ます。そこでは放射性物質が広範囲にまき散らされ、その地域は汚染されてしまいます。よって、上昇時のなるべく早い段階で、撃ち落とさなければならないのです」
「なるほど」
「そこで、浅野教授の余剰次元物理学を学んだ詩織さんに、3番目の論文の理解をお願いしたい。現在の電磁波動砲に3番目の内容を組み込めれば、核ミサイルを撃ち落とす事が可能と考えています」
私は詩織を見た。
詩織は、まぶたを動かさない。
しばらく沈黙が続いた。
私は提案した。
「少し考えさせて頂けないでしょうか。この部屋は、私と詩織だけにして下さい」
311さんは応えた。
「わかりました」
そして、311さん、112さん、127さんは退室された。
この部屋は、私と詩織だけとなった。
といっても、2人で話し合う訳でもなく、沈黙が続いている。
お互い、自分の頭の中で、様々な事を考えている。
さて、どうしたものか……。
長い時間が流れた。
そして、詩織は顔をあげ、私に言った。
「父の論文、理解したいと思います」
「わかった」
私は、エリア5の人に声を掛け、退席して頂いた3人に、再び集まって頂いた。
詩織は3人に言った。
「この論文の理解、お受けしたいと思います。しかしながら800ページもあります。父の余剰次元物理学を学んだ私でも、全て理解するのに相当な時間を要すると思います」
311さんは、詩織に訊いた。
「ざっくりと、どのくらい掛かるとの感触でしょう」
「約1年……早くても半年は掛かると思います」
「……そうですよね」
311さんはうなずいた。
科学分野の人なら、それが簡単ではない事、理解出来る。
しかし、政治分野の人は、それでは済まない。
112さんが言った。
「なんとか、某国のミサイルを撃ち落とさなければ、これからも核ミサイルが絶対兵器として君臨してしまう」
先生は、矛に対する盾と言われた。
この電磁波動砲が完成すれば、世界の軍事バランスは根底から崩れる。
急激な変化、それは大きな戦争を引き起こしてしまう。
だが、核兵器廃絶の流れは、どこかでつくらなければならない。
核に怯える世界を終わらせる為。
私は提案した。
「核兵器廃絶の流れを作る計画、私も詩織も協力したい考えです。そこで提案ですが、詩織にはこの論文の理解に専念させてもらいたい。核ミサイルを上昇時に撃ち落とす電磁波動砲は、私が実現させましょう」
112さんと311さんは、驚いた表情で互いに顔を見合わせた。
私の提案が、あまりにも想定外であったからだろう。
311さんは訊いた。
「そのようなテクノロジーを、AMさんはお持ちなのですか?」
私は答えた。
「はい。これでも私は、浅野先生の弟子ですから」
「……」
「ただし、電磁波動砲の改造は、私に指揮を取らせて下さい」
311さんは応えた。
「……ええ、そのテクノロジーについて、私が納得すれば、私の持つ権限を全て貴方に預けて、私は貴方の指示のもとで動きます」
私は答えた。
「了解しました。では、説明します」
次回:(第6章 終話)起動




