表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/8

⑵ 誰も居ない家に

 私の研究室に、新任の先生が来られた。

 担当教授は変わったが、今までの研究を続けさせてもらえる事となった。


 私は大学の研究室で、助手としての仕事をしながら自分の研究を進めている。

 研究のテーマは電磁波の絞り込み。

 光は発散する。しかし単一波長で位相を揃える事で、広がらない光線(レーザー光線)を作る事が出来る。


 同様に、電磁波に於いても広がらない電磁波線が作れると考え、その研究を進めてきた。

 試行錯誤の末、広がらない電磁波線を作る事に成功した。

 これによって、遠方の受信機に効率よく情報を送る事が出来る。


 しかし、それを発表する予定の先生が行方不明となり、発表は延期となってしまった。


 今日は一通りの実験環境を整えて、夕食前に帰宅した。

 アパートに着くと、玄関扉の前で、また詩織が膝を抱えてしゃがんでいる。

 しかし、私を見るなり深く頭を下げて、帰ろうとした。

 なんだろう、ただ事では無いように感じた。


 私は声を掛けた。

「何か、あったんですか?」

「……」

 詩織は、ただ黙って下を向いている。


 再び詩織に訊いた。

「何があったんです!」

「学校から帰ってきたら、部屋に空き巣が入って、荒らされていました」


「空き巣?……警察へは?」

「今、母が現場検証に立ち会っています」

「……そう」

「母から『後は私が対応するから、しばらく外出してなさい』って言われて、行くところが無いもので、ここへ来てしまいました」


 詩織さんの母は、詩織を引き取ったにも関わらず、詩織に1人暮らしをさせている。

 その事が問題にならないよう、詩織に外出させたのだろうか。


 空き巣……つい先日、大学の研究室にも空き巣が入った。

 そして今日、空き巣が入った詩織の家は、浅野先生の家。

 こんな偶然、あるのだろうか?


 そんな事を考えていると、詩織のスマホが鳴った。

 相手は母親で、現場検証が終わり、荒らされた部屋を片付けたとの事。

 母親は一緒に暮らしている男性の所へ戻るとの連絡だった。


 詩織は私に挨拶した。

「それでは、私も家へ戻ります。ご心配をお掛けしました」


 ……この子が家に帰る。

 今日、空き巣が入った家に。

 誰も居ない家に……怖いはずだ。


「あの……」

 とっさに声を掛けてしまった。

「せっかくだから、夕食でも一緒に食べていかない? 何かつくるよ」


 未成年の少女が1人で住んでいる家に空き巣が入った。

 その少女を知り合いの私が一時的に保護した。

 そう、ただそれだけの事だ。


 その時、詩織が見せた切なくも嬉しい表情が、私のこの先を大きく変えてしまうのだった。


 私は詩織を部屋に入れた。

 女子中学生が好みそうな物という事でオムライスを作った。

 男の手抜き料理である。

 そんな粗末なものであるが、詩織は嬉しそうに食べてくれた。


 私の料理を食べ終えた詩織は私に尋ねた。

「あの……またここへ来ても……いいですか?」


 女子中学生が1人暮らし。

 心細いはずだ。

 さすがにその時、ダメだとは言えなかった。


「……ああ」

 そして付け加えた。

「外で待っていると、近所から不審に思われてしまうから、部屋に入って待っていて」

「はい」


 私はこの部屋の合鍵を渡した。

 詩織はそのカギをお守りのように胸の前で握り絞めていた。


 中学生の少女が、誰も居ない家で毎日を過ごす。

 こんな事、決して良い事ではない。

 しかし、詩織にとって、ここへ来ても何も無いではないか。


 私は1つ提案した。

「もし良かったら、ここで勉強しない?」

 詩織は顔を上げた。


「うん、解らない所があったら教えてあげよう」

「本当ですか!」

 詩織は、ぱぁっと明るい笑顔を見せた。


 まあ、私の友人も、中学生の女子を相手に、家庭教師のアルバイトをしている。

 それと同じようなものだ。

 その時は、そう思っていた。


「ああ……じゃあ、今度来るときは、勉強する準備をして来て」

「はい……あの……では私は、里中さんの身の回りのお世話をさせていただきます」

「えっ?」


「お食事の用意したり、お掃除したり……私、通い妻になります」

「いやー……」

 女子中学生……夫婦ゴッコに憧れる時期なのだろうか。

 その時の私は、その程度に考えていた。


 時計を見ると、20時を過ぎたところ。

「あ、こんな時間……」

 さすがに泊める訳にはいかない。


「大丈夫です。私の家、ここから近いんです」

 詩織の家は、ここから2つ目の駅で、駅からも近いと言う。


 しかし、空き巣が入った家に、1人で帰す訳にはいかない。

「ああ、じゃあ家まで送ろう」

「いえ、そこまでして頂いては……」


「今日、空き巣が入ったという事で、家の中を一緒に確認しましょう」

「……ありがとうございます」

 詩織は嬉しそうな表情を浮かべ、応じた。


・・・・・・


 私は詩織を家まで送った。

 さすが教授の自宅、しっかりとした家である。

 部屋中の照明をつけて、詩織と一緒に室内を確認した。

 特に心配はなさそうだ。


 詩織の部屋……整然としている。

 初めて入った少女の部屋。

 ……なんだろう、女の子らしいものが、何も無い。

 私がイメージする『女の子の部屋』と、大きく掛け離れている。

 私の認識が誤っているのか……それとも詩織が特殊なのか……?

 そんな事を考えていた。


 一通り確認した後、詩織がコーヒーを淹れてくれた。

 リビングでコーヒーを頂きながら詩織に訊いた。

「私は、これで帰るけど……大丈夫?」


 詩織は気丈な目を向けて答えた。

「はい。私には、里中さんのお守りがありますので」

 詩織は、私が渡した部屋の合鍵を握り絞めている。


「わかった。何かあったら電話下さい」

 私と詩織は携帯番号を交換した。


 そして、私は自分のアパートへ戻った。


次回:それによって何が生まれる

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ