ひかり
夜がにわかに白み始める。暁の頃。闇に輪郭を溶かしていた何もかもが、その姿をうっすらと浮かび上がらせ始めた。
次いで、色が滲み出す。空が、山が、闇に色を乗せるのだ。
ゆっくりと、ゆっくりと。
目を覚ました山が、己の姿を確かめるようにざわりと身動ぎした。
日の光は白く。この春生まれたばかりの葉を透かし、ひらひらときらきらと山へ注がれた。
夜明け。
早起きをしていた蓬霧は、うんと伸びをして、まだ冷たい空気を深く吸い込んだ。鳥たちが囀り、春の神とあいさつを交わす。足元の緑は深く、生き生きとその身を伸ばしていた。
ふと目についたのは、葉と同じくらいの大きさの、四つに別れた真白い花弁を静かに咲かせたヤマボウシだった。その場所にも届いた陽が、朝露を纏うその身を青く、白く煌めかせて見せた。ひらひらときらきらと。
「おはよう、ヤマボウシ。今日は一段と美しいね」
「おはようございます、蓬霧さま」
まだ眠たげな瞼で、ヤマボウシはひとまずと蓬霧にあいさつを返した。それから、緩やかに笑みを浮かべ首を傾げる。
「美しいのは、日の光の力もありましょう。ここしばらくのうちに、日増し強くなっていきますので。葉はより青く、花の白はより際立っているのでしょう。わたくし自身は、地味な花ですよ」
ヤマボウシの謙遜に、今度は蓬霧が首を傾げる番である。
「お前はもとより、素朴で美しいよ。その青い葉が、白い花が、光に透けてより綺麗に見える」
ふ、ふと密やかにヤマボウシは笑う。
「それなら、何よりでございます」
うん、頷いて蓬霧も笑みを浮かべた。もうひと言、二言、言葉を交わそうかとも思ったのだが、遠くから呼ぶ狐の声に会話はそこで終わってしまった。しかし、名残惜しむこともない。
ヤマボウシがそよそよとその身を震わせた。
「よい一日を、蓬霧さま」
「あぁ、よい一日を。ヤマボウシ」
踵を返し、狐の元へと向かう。蓬霧のゆく道を、さらに高くなった日が照らしていた。
ひらひらと、きらきらと。




