躑躅
赤、白、桃……。ヒトの植えたツツジが参道に咲き誇る。
手入れが行き届いていないそれらは中途半端に枝を伸ばし、好き好きに花をつけていた。
「あの老人はこの頃来ていないのかい」
足を止め蓬霧が尋ねた。名の通り、美しい躑躅はゆるりと首を傾げるだけだ。ヒトが来ようが来まいが、躑躅たちにとっては重要なことではないのだろう。すかさず狐が口を挟んだ。
「来てはいるようですよ。若人を連れて入ってくるのを見たと話していた者がおります」
「そうか」
頷いた蓬霧に躑躅がおっとりと告げる。
「来ずとも、咲いております」
「そうだね」
肯定を返せば、躑躅もまたそうだろうと頷く。それから上を向き、太陽の方へと指先を伸ばした。
「来なければ、このように、好きに枝を伸ばせます。自由に、日の光を望める」
うん、蓬霧はただ頷く。躑躅はそれを見ることなく、そっと引き寄せた手をじっと見つめた。こぼれた言葉は独り言のよう。
「それでも、枝を切られたわたしの方が美しいと、ヒトは言います」
はたり、はたり、瞬いた視線が蓬霧へと戻された。
「美しいと言われるのは、悪くない」
それは喜びか、皮肉か。袖で口元を隠した躑躅がうっそりと笑った。
「だから、切られても、良いのですが」
うろり、遠くへ巡らせた視線は誰を待っているのだろうか。ヒトに植えられ、手を入れられてきた躑躅の顔を蓬霧はじっと眺め続けていた。
「蜜を吸う、小さなヒトも近頃はおりません」
「寂しいかい?」
「いいえ」
首を横に振る声に嘘はない。
「せっかく咲いたものを、摘まれずに済みますから」
それに、と語を継ぐ。
「美しきものには、毒がありますゆえ」
躑躅の垂れた眦が優しく蓬霧を見つめ返した。
「あぁ、そうだったね」
伸びた枝の先。咲き誇る躑躅の花弁を蓬霧は指先で優しく撫でた。くすぐったそうに首をすくめた躑躅は愛らしく。
「蓬霧さま、今年もわたしは、美しく咲いておりますか?」
首を傾げて蓬霧に尋ねた。
「あぁ美しいよ。どんな姿でも、お前はいつも美しいだろう」
「えぇ、知っております」
くすくす、おっとりと美しく、躑躅が笑う。その姿に、狐がため息を吐き出していた。




