キーボードを直そう
意外と、単純なミスってありますよね。
「せんぱーい、キーボードが壊れたっすっ!!」
日曜に惰眠をむさぼっていたところ、チャイムを連打されて起こされた。ムカついたので取り合えずチョップをくれてから症状を聞く。
鏡花が持っているキーボードは俺が買ったけど、使っていなかったゲーミングキーボード。いわゆる「茶軸」と言われるごく普通のメカニカルキーボード。「打鍵感の良いのってないっすか?」って聞かれたから譲った形だ。ちなみに、俺個人がLED発光が嫌いなので無発光。ついでに、机を広く使いたいから天キーレスモデル。
「ほら見てください!まったく打てないんっすよっ!!」
鏡花が俺のパソコンにキーボードを勝手に接続し、タイピングをしてみる。その様子を見ると、確かにまったく打てていない。後退してもらい、キーボードの故障をチェックするためのサイトを使ってタイピングしてみるが全く反応がない。
と、その時配線を触って気が付いた。
「鏡花君。つかぬことを伺いますが、分解しましたか?」
本来、筐体に固定されていないといけない配線がユルユルになっているうえに、筐体に傷がついている。こういう傷は大体パターンが決まっている。個人的に勝手に「分解傷」と呼んでいる。
回りくどいことはやめて簡単に言おう。精密マイナスドライバーなどの金属系工具で樹脂部品をこじった時につく傷がついている。当然、俺の腕ではこんな傷はつかない。
「なんでわかるんっすか!?」
「俺、分解大好き。この傷、素人が分解したときにつく傷。オーライ?」
「……先輩が『自分の使っている道具の中身を見てみるのって面白い』っていうからやってみたっす」
なんとなく状況が分かってきた。
恐らく分解したときになんかのミスで、配線を断線させたってとこだろう。
直し方としてはそんな難しくはない。要は切っちゃったとこをつなげばいいだけ。基本的にはこういうものは若干の余裕をもって設計されているので、はんだでくっつけてあげて、収縮チューブで保護してあげれば直る。高温作業なので、火傷だけ注意すれば何の問題もない。
「ちなみに、鏡花。こういうときには精密ドライバーでこじ開けないで、いらない樹脂製のポイントカードとか、ギターのピックとかを使うと傷がつきにくい。覚えておけ」
ネジ穴の中をスマホのライトで照らしながら説明する。うおぉ、これ1番のプラスだ。
プラスネジは基本的に0番~3番という規格で造られている。ものすごく雑に説明すると、どのくらいの太さのネジを使うかというのでそれを分けてくる。一般の家庭では「2番」とか「+2」とか、「Mo.2」と軸に書かれているものを買っておけば事が足りる。――精密ドライバになると「0番」とか「00番」とか言われるものも出てくるけど、分解作業をやる人間以外はほぼ関係ない。――今回は「1番」と言われる、ちょっと細めのネジが使われているので、それに合わせたドライバを用意する。
ちなみに、サイズが合わないものを無理やり使うと、頭の「+」になっている部分の角を削ってしまい、二度と取れなくなってしまう原因になる。俗にいう「なめた」という状態がこれだ。
俺はボールグリップタイプ電動ドライバの先端を「1番」に交換する。このドライバが便利で、「6.35六角軸」と言われる規格で造られているものであればなんでも付け替えることが出来る。
「で、こういう隙間にペラペラの奴を差し込んで軽く広げてやる。その後に、固めの奴を差し込んで爪を外していくと傷がつきにくい」
ギターピックのThinを隙間に差し込んで、できた隙間にMediumかHeavyを差し込んでやる。――ちなみに分解作業なら、涙型でも、三角形でも使いやすいほうを使えばいい。――そして、爪を折らないように最大限注意しながらいい音をさせて外していく。
そして、配線を見て納得した。なるほど、これは絶対にタイピングできないわけだ。素人にありがちなミスだけど、意外とわかんないもんだよなこういうの。多分、俺もこれ電話越しだったらわかんなかったと思う。現物を見たから1秒で原因が分かったけど……。
「鏡花、原因が分かった。多分お前も見ればわかるから見てみろ」
「……え、これって」
「そうです。コネクタの刺し忘れです」
初心者が分解作業をやった時にありがちなミス。かくいう俺も昔何度かやったことがある。もし、これを刺すだけで直るなら鏡花がおバカだったで済む。
コネクタを刺して、キーボードテストのサイトを開く。そして、反応していないキーがないかをチェックする。よし、全キー問題ない。
「せんぱい……、こんなミスってあるんですね……」
「よくあることだ。だから、ふたを閉める前に動作確認をしたほうがいい。閉めちゃってからだとすごく面倒になって『とりあえず動くからヨシ。また問題が出たらその時頑張ろう』ってやりがち。そして、そういうことをやった時に限って、大事な時に動作不良になる」
意気消沈している後輩の頭を強めに撫でてやる。
「……ご迷惑ついでにお願いしてもいいですか?」
「なんだ?」
「……今のだとキーが軽いんで、もっと重いキーってないんですか?」
……面倒なことになりそうだぞこれ。
なお、わたくしは「本来であれば抜け止めになる部分」をうっかり外に出してました。
そして引っ張られたことによって抜けました。
皆さん、分解作業の時は戻すときミスらないように気を付けてください。




