4.約束
「あのさぁ、ナニカって仲間とか……家族はいるのか?」
うだるような昼下がり。
その日も、開かずの襖に寄りかかり、俺は背後に問いかける。返事はない。
ナニカは俺の言葉にリアクションを返す時もあれば、何も返事がないこともあった。だが、俺は構わず会話を続ける。
やることも碌にない退屈な毎日の中で、ナニカとの関りは俺にとって絶好の暇つぶしであり、刺激的な娯楽でもあった。
学校のこと、友達のこと。俺は毎日色んなことをナニカに話す。そんな中、ぽつりとその言葉は俺の口からこぼれた。
「うち、弟か妹が増えるんだって。……別に欲しくないのにさ」
その声はきっと卑屈に、不貞腐れて響いたことだろう。
もうすぐ自分の弟か妹が生まれることは、以前から親に聞かされていたので知っていた。
しかし、周囲の大人たちがおめでとうと祝いの言葉を掛けてくるのとは裏腹に、俺はその事実に良い印象を抱いていなかった。
俺が親戚の家に預けられた理由も、赤ん坊が生まれる前後は、上の子供の面倒を見る余裕がないからだ、と大人になれば理解できる。
だが子供の俺には、周りが母親の腹の中の赤ん坊ばかり大事にして、自分はないがしろにされているという思いの方が強かった。
――カリ、カリ……
「なんだよ、慰めてくれるのか?」
襖の向こうからの反応に、俺は相好を崩す。
誰がいるのか、何がいるのかも分からない。
だけどそのナニカは、自分の唯一の味方であるように、その時の俺には感じられていた。
「ナニカが、俺の弟だったら良かったのになぁ」
――カリカリ、カリ、カリ……
「あのさ、ナニカはその部屋から出たいと思う?」
――バンッ!! バンバンバンッ……
「わっ、だからいきなり脅かすなって!!」
突如激しく鳴り響く音に、俺はびくりと身を震わす。
そして驚かされた事を誤魔化すように、唇を尖らせる。
だが、何の気なしに尋ねたその言葉を俺は名案だと感じていた。
「じゃあさ、俺がナニカがその部屋から出られる方法を考えてやるよ! そしたら家に帰る時、ナニカも一緒に着いて来れるかも知れないじゃん」
俺は無邪気にナニカと約束をする。指切りもできない、ただの口約束だ。
――カリカリ、カリカリカリカリ、カリ……
だが、引っ搔くようなその音は、その日俺が部屋から出るまでずっと聞こえていた。




