1.部屋
とある夏休みの事だ。小学生だった俺は、突然車に乗せられて見知らぬ土地に連れていかれた。
四方を山に囲まれた、田畑ばかりのその場所は、湿度のせいなのか自分の知る祖父母の田舎よりも山の木々も青黒く見えた。
たどり着いたのは、歴史を感じさせる大きな日本家屋だった。
「それでは、迎えまでナオキをよろしくお願いします」
「ええ、母子共にお大事に……」
自分には碌な説明もなかったが、漏れ聞こえる大人の会話を繋ぎ合わせたところ、どうやらここは遠い親戚の家らしい。母親の出産前、両親が俺の面倒を見られない夏休みの間、ホームステイさながら俺を預かってくれるようだった。
俺自身には何の断りもなく、それが不満で仕方なかったのだが、当時の俺は自分の面倒も見られない子供だ。選択の余地はなかった。
その家は、今思うとずいぶんと鄙びた集落の中にあった。
歩いて行ける範囲内に店はなく、周囲に年の近い子供もいない。その為、知らない土地の探索も流石に数日で飽きてしまった。
恐らく盆地にあったのだろう親戚の家は、朝晩はだいぶ冷え込みはしたが、日中はうだるような暑さが続いていた。
伝統的な日本家屋は、かつては庄屋か名主でも務めていたのか。壺や掛け軸など高そうな調度品がいくらでもあったし、都会暮らしの俺からすれば敷地も驚くほど広く、沢山の部屋があった。もっとも今は使っていない部屋の方が多いようで、エアコンは限られた部屋にしか設置されていなかったため、俺はいつしか見つけたお気に入りの部屋に入り浸るようになっていた。
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「ナオキ君は好きに過ごしてちょうだいな」
この家は五人家族だった。家長であるオジサン夫婦。その親であるオジイサンとオバアサン。オジサンの息子であるケイイチさん。
オジサンは無口だがオバサンは随分おしゃべりで、ケイイチさんは息子とは言っても四十歳を過ぎていた。
朝食の際に、親戚一家はそれぞれ寄合に出たり、農協や畑に行ったりというそれぞれの用事を俺に告げていた。
「ナオキ君はどうするんだい?」
「えぇっと……今日は家の中で、宿題とかしてます」
「なーんもない田舎で悪いわねぇ。でも、近いうちにお祭りがあるから」
おずおずと返すと、オバサンにけらけらと笑いながら謝られる。
「休みの日になったら、僕が遊びに連れて行ってあげるからね」
ケイイチさんも、優しげにそう言ってくれる。
親戚一家は田舎らしいおおらかさで、特に俺の行動を制限してくるようなことはなかった。
だが、いくつかの注意点は聞かされた。
例えば、外に出たら日が落ちる前に帰ってくること。山に入っても沢には近付かないこと。とある一室には決して入らないこと。
その部屋は、平屋の奥まった場所にあった。三方は漆喰の壁に囲まれ窓はなく、手前の一間とは襖で隔たれている。
物置として使われているとのことで、鎌や鉈など危険な物も無造作に置いてあるからという理由で、入らないよう言い含められていた。
その部屋には特に興味はなかったのだが、北側の部屋だからだろうか。その周囲は他の部屋よりも温度が二、三度低いように感じられ、俺はその手前の和室で暇をつぶすことが多かった。




