0.囃子
スマホに届いた通知が、二十歳目前の弟からの成人祝いを催促するメッセージであることを確認して、そのままポケットにしまう。
我ながら、随分甘やかしているなとは思っている。
歳の離れた弟とは言え、俺が社会人になってからは特に、何かと当てにされたり、奢らされたりしている。
もっとも親が言うには、弟が産まれる以前の俺は、新しく増える兄弟のことが気に食わない様子だったらしい。あまり覚えていないのだが。
実家を出るにあたって、記念に買った腕時計に視線を落とす。
残業が長引いたせいか、なかなかに良い時間だった。寄り道もせずに真っ直ぐ一人暮らしのアパートへ帰る。
街頭に照らされた静かな住宅地。
いつもと変わらぬ通り道。
だが、違和感があった。
最初に届いたのは、音ではなく振動だった。
ぶるりと背筋から怖気が走り、臓腑の奥から吐き気が上がってくる。
まさかと思った時には、その音色が耳に届き始めていた。
テンテレツクツクテンスツク
チャンチキチャンチキチャンチキチキ
賑やかで軽快な祭囃子。
だが、俺にとっては尋常ではないまでの恐怖心を掻き立てる音。
(おかしい。この近辺には寺も神社も、祭りを行いそうな小学校もないはずなのに……っ)
独立して家を探すにあたり、それを避けることは絶対に外せない条件だった。
俺は耳を塞ぎ、逃げるように足を早める。
それでも、恐怖と共にだらだらと絶え間なく流れ落ちる冷や汗が目に入り、段々と視界が薄暗くなっていく。
俺は掠れていく目を手の甲で擦る。
テンテレツクツクテンスツク
ピーヒャラリ ピーピーヒャラリー
……トントン
軽やかな楽器の音色に混じって、ノックが、聞こえてくる。
……トントン
チャンチキチャンチキチャンチキチキ
カリ、カリカリ……
暗い視界の中心に、白いものが浮かび上がる。
四枚の襖だ。
襖の向こうからノックの音が、表紙を叩く音が聞こえてくる。
過ぎ去ったはずの日の記憶が、フラッシュバックする。
……トントン
………トントン、トン
トン




