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最弱職の召喚士ですが、初召喚で太古の神獣と契約したら現実に戻れなくなりました  作者: あげまんじゅう


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第9話「魔族の少年」

忘却の迷宮からの帰路、ルートたちはシィナと、意識を取り戻したばかりの姉を街まで送り届けた。ギルドの職員や治療師が慌ただしく駆けつけ、姉は念のため治療院で休むことになった。


「本当に、ありがとうございました……」


 治療院の前で、シィナは深々と頭を下げた。その目にはまだ涙の跡が残っていたが、表情はすっかり晴れやかだった。


「無事で良かったよ。ゼクスが来てくれなかったら、正直かなり危なかった」


 ルートがそう言うと、少し離れた場所で壁に寄りかかっていたゼクスが、鼻を鳴らした。


「別に、お前らを助けたかったわけじゃない。ついでだ、ついで」

「ふん。素直じゃない奴だな」


 アシュルが横槍を入れると、ゼクスは片眉を上げてこちらを睨んだ。


「うるさい規格外。お前にだけは言われたくないんだが」

「言われたくなければ、素直に礼くらい受け取れ」


 二人のやり取りに、ルートとシィナは思わず顔を見合わせて笑った。険悪なようでいて、どこか噛み合っている空気があった。


「ゼクスさんも、ぜひお礼をさせてください。私にできることがあれば、なんでも」


 シィナの申し出に、ゼクスは少し戸惑ったように視線を逸らした。


「別に、いい。俺は俺の目的のために動いただけだ」

「その目的って……」


 ルートが尋ねると、ゼクスの表情がわずかに曇った。


「……知り合いを探してる。俺と同じ魔族の女で、腕のいい鍛冶師だった。半年前、この辺りに来てから消息を絶った」


 その言葉に、ルートは胸を突かれる思いだった。ゼクスもまた、自分たちと同じように、大切な誰かを探してこの危険な迷宮に足を踏み入れていたのだ。


「もしかして……忘却の迷宮に来てたのも」

「ああ。似たような噂を追ってきた。まさか、規格外とやり合う羽目になるとは思わなかったがな」


 軽口めいた口調だったが、その端々には、まだ見つからない大切な人への想いが滲んでいるようだった。


「ゼクス、もしよかったら、これから一緒に探さない?」


 ルートの提案に、ゼクスは驚いたように目を見開いた。


「……は? なんで俺が、お前らと」

「だって、目的は似てるし。行方不明者の謎を追ってるのは、僕たちも同じだから。一人より、力を合わせた方が早いと思う」


 真っ直ぐな言葉に、ゼクスはしばらく黙り込んだ。やがて、小さくため息をついて視線を逸らす。


「……勝手にしろ。俺は別に、お前らの仲間になったつもりはないからな」

「うん。それでいいよ」


 ルートが笑うと、ゼクスは居心地悪そうに頭を掻いた。アシュルが、そんな二人のやり取りを見ながら、小さく肩をすくめる。


「素直じゃない奴が、増えたな」

「お前が言うな」


 ゼクスの即座の返しに、ルートとシィナは再び笑い声を上げた。

 その日の夜、ルートたちは冒険者ギルドの酒場で、簡単な祝勝会を開くことになった。シィナの姉の無事を祝う意味も込めて、テーブルには質素ながらも料理が並んだ。


「乾杯、って言っていいのかな。こういう時」

「別に構わないだろう。……乾杯、だったか」


 アシュルが慣れない様子でグラスを掲げ、ルートとシィナ、そして渋々といった様子で腰を下ろしたゼクスも、それに続いた。

 酒場の喧騒の中、四人はそれぞれの過去について、少しずつ語り合った。ゼクスは、幼い頃から魔族というだけで人間の街では冷遇されてきたこと、それでも鍛冶師のリサだけは、同じ種族のゼクスを大事にしてくれた事。


「リサは、俺の育ての親みたいなもんだった。本当の親は……まあ、いろいろあってな」


 その言葉に、ルートは自分の境遇と重なるものを感じた。


「僕も、あんまり家族には恵まれてなくて。だから、その気持ち、少しわかる気がする」

「お前が? 意外だな。規格外の力を持ってる割に、線が細いと思ってたが」

「力と、家庭環境は関係ないよ」


 ルートが苦笑しながら返すと、ゼクスは少し驚いたように視線を向けた後、ふっと表情を緩めた。


「……そうだな。悪い、変なこと言った」

「ううん。むしろ、こういう風に話せるの、嬉しいよ」


 その言葉に、ゼクスは照れ隠しのようにグラスを呷った。シィナも微笑みながら、二人のやり取りを見守っている。

 肩の上――今は隣の椅子に人型の姿で座っているアシュルが、ふと呟いた。


「お前は変わった人間関係の築き方をするな」

「そう?」

「普通、規格外の力を持てば、それだけで持て囃されるか、恐れられるかのどちらかだ。お前のように、対等に手を差し伸べる者は珍しい」


 その言葉には、どこか感慨めいた響きがあった。ルートは、少しくすぐったい気持ちで笑った。


「僕自身が、誰かにそうしてほしかったから…かな」


 その本音に、アシュルは一瞬、言葉を失ったように黙り込んだ。それから、静かに、そして優しく目を細める。


「……そうか」


 短い返答だったが、そこに込められた感情の重みを、ルートはなんとなく感じ取っていた。

 夜が更ける中、酒場の喧騒は続いていた。ゼクスとアシュルは相変わらず軽口を叩き合っていたが、その空気はすでに、初対面の時とは明らかに違うものになっていた。

 翌朝、ルートたちは冒険者ギルドに集まり、これからの方針について話し合った。


「行方不明者の謎、身体が消えている理由、そしてリサさんの行方。全部、繋がっている可能性が高いと思う」


 ルートの言葉に、シィナとゼクスが頷く。


「ギルドの依頼をこなしながら、少しずつ情報を集めていこう。焦らず、着実に」

「お前にしては、まともなこと言うな」


 アシュルの軽口に、ルートは苦笑しながら肩をすくめた。


「僕なりに考えてるんだよ」

「へえ、意外だ」


 軽口を交わしながらも、四人――いや、アシュルを含めた四人と一匹の間には、確かな絆のようなものが芽生え始めていた。


 ギルドの窓の外、朝日が街を照らし始めている。これから始まる長い旅の、まだほんの入り口に過ぎないことを、誰もが薄々と感じていた。

おはようございます、今日も頑張って行くぞ〜

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