第65話「評議会からの使者」
新装備の試験を終えた数日後、屋敷に一通の手紙が届いた。差出人は大魔導評議会の議長フィオレーナだった。
「なんて書いてあるんですか?」
シィナの問いに、ルートは手紙を開きながら答えた。
「えっと……近く評議会から使者を派遣したい、ですって。もっと詳しく僕たちの状況を知りたいから、だそうです」
「使者か。誰が来るんだろうな」
ゼクスの呟きに、リュゼリアも興味深そうに頷いた。
「評議会の方々とは、あの集会以来、初めてのやり取りね」
その数日後、屋敷を訪れたのは、意外にもフィオレーナ本人だった。
「突然、押しかけてしまって申し訳ありません」
その丁寧な挨拶に、ルートは慌てて彼女を出迎えた。
「フィオレーナ様! わざわざ来てくださったんですか」
「ええ。文面だけでは伝わりきらないことも多いですから。それに――」
フィオレーナは少しいたずらっぽく微笑んだ。
「皆さんの暮らしぶりを、この目で確かめてみたかったのです」
その柔らかな物言いに、屋敷の一同は思わず笑みをこぼした。
リビングに招かれたフィオレーナは、改めてこれまでの状況を確認していった。
「ゼロ番についての情報、その後、何か新しく分かったことは?」
フィオレーナの問いに、アシュルが静かに答えた。
「今のところ目立った動きはありません。ですが運営が動くのは時間の問題だと思っています」
「そうですか。評議会の方でも引き続き独自に調査を進めています。何か分かり次第すぐにお伝えしますね」
その心強い言葉に、ルートは深く頭を下げた。
「ありがとうございます」
フィオレーナはしばらくの間、真剣な話し合いを続けた後、ふと表情を和らげた。
「さて、堅苦しい話はこの辺りにして……せっかくですから皆さんのことを、もっと教えていただけますか」
「僕たちのこと、ですか?」
ルートの問いに、フィオレーナは頷いた。
「ええ。あなた方が、これまでどんな旅をしてきたのか。そして――」
フィオレーナの視線がアシュルとカインへと向けられた。
「先日、少しお聞きしたお二人の馴れ初めについても、もっと詳しく」
その興味津々な問いかけに、アシュルは思わず頬を赤らめた。
「――また、その話か」
「ふふ、申し訳ありません。学術的な興味だけでなく、純粋に微笑ましいお話だと思ったものですから」
その率直な言葉に、カインが静かに口を開いた。
「フィオレーナ様には感謝しております。あなたが、あの日、集会で私たちのことに触れてくださったおかげで、皆に祝福していただけましたので」
その意外な感謝の言葉に、フィオレーナは少し驚いたように目を瞬かせた。
「まあ、そうだったのですね。それは良かったです」
その和やかなやり取りに、リビングには温かい笑いが広がった。
その後、フィオレーナはルートたちのこれまでの旅路――氷雪の遺跡、妖精の森、海底遺跡、浮遊島での出来事について興味深そうに耳を傾けた。
「四つもの核を解放されたのですね。本当に素晴らしい功績です」
その称賛に、ルートは少し照れくさそうに頷いた。
「みんなで力を合わせたから、できたことです」
「その謙虚な姿勢もまた、あなたの美徳なのでしょうね」
フィオレーナの温かい言葉に、リュゼリアも静かに頷いた。
「本当に、ルート君は、いつもそういう子なんです」
その優しいまなざしに、ルートは少し照れくさくなった。
昼食の時間になると、リュゼリアとゼクスが腕を振るい、フィオレーナをもてなすことにした。
「フィオレーナ様、お口に合うと良いのですが」
リュゼリアの心遣いに、フィオレーナは笑顔で答えた。
「まあ、美味しそう。楽しみですね」
賑やかな食卓を囲みながら、フィオレーナはこの屋敷の温かい雰囲気をしみじみと感じ取っていた。
「皆さんの絆、本当に素晴らしいですね。……こういう繋がりこそが、この世界の本当の力なのかもしれません」
その感慨深そうな言葉に、ルートは深く頷いた。
「うん、僕もそう思います」
食事を終えた後、フィオレーナは改めて真剣な表情で切り出した。
「実は、もう一つお伝えしたいことがあります」
「なんでしょうか」
ルートの問いに、フィオレーナは少し言葉を選ぶように続けた。
「評議会には古くから伝わる、いくつかの書物があります。その中に、この世界の成り立ちや召喚術の起源に関わる貴重な記録も含まれているのです」
「それって……」
「ええ。もし興味がおありでしたら、評議会の書庫を自由に閲覧していただいても構いません」
その寛大な申し出に、アシュルが興味深そうに口を開いた。
「それは非常にありがたい話です。私たちも召喚術の真の歴史について、まだ知らないことが多いですから」
「ええ、ぜひ活用してください。何か手がかりが見つかるかもしれません」
その心強い提案に、一同は深く感謝の意を示した。
「ありがとうございます、フィオレーナ様」
リュゼリアが興味深そうに尋ねた。
「書庫には召喚術以外にも、様々な記録が収められているのでしょうか」
「ええ、もちろんです。この世界の様々な種族の歴史、そして王家にまつわる記録なども含まれていますよ」
その返答に、リュゼリアは一瞬、何かを考えるような表情を浮かべたが、すぐに穏やかな笑みに戻した。
「機会があれば、私もぜひ拝見させていただきたいです」
「いつでも歓迎いたしますよ」
フィオレーナの快い返事に、リュゼリアは静かに頭を下げた。
「いえ、こちらこそ。あなた方の活動が、この世界の未来をより良いものにしてくれると信じていますから」
午後、フィオレーナは少し街を見て回りたいと言い、ルートとシィナが案内役を買って出た。
「この街も、随分と、活気づいてきましたね」
露店の並ぶ通りを歩きながら、フィオレーナが感慨深そうに呟いた。
「召喚士を目指す若い子たちも、増えてるみたいです」
シィナの言葉に、フィオレーナは頷いた。
「ええ。皆さんの行動が、確かに、この世界を動かしているのですね」
三人は、しばらくの間、街の様子を眺めながら、他愛のない会話を交わした。市場で見かけた珍しい品に足を止めたり、子供たちが元気に駆け回る姿に目を細めたり。そんな穏やかなひとときの中で、フィオレーナは、ふと呟いた。
「こういう、何気ない日常こそが、守る価値のあるものなのでしょうね」
その言葉に、ルートは深く頷いた。
「はい、僕もそう思います」
途中、シルヴァンの姿を見かけたので、三人は、軽く挨拶をしていくことにした。ギルドの前で、書類仕事に追われていたシルヴァンは、フィオレーナの姿を見るなり、慌てて姿勢を正した。
「こ、これは、フィオレーナ様! わざわざ、この街まで、いらしていただけるとは」
その、恐縮しきった様子に、フィオレーナは、穏やかに、微笑んだ。
「シルヴァン殿、お久しぶりです。皆さんの、様子を、伺いに来ておりました」
「そうでしたか。……して、召喚獣たちの、調子は」
早速、話題を、アシュルたちのことに、向けようとするシルヴァンに、ルートとシィナは、思わず、顔を見合わせて、笑ってしまった。
「シルヴァンさん、相変わらずですね」
その、微笑ましいやり取りに、フィオレーナも、楽しそうに、笑みをこぼした。
夕方、辞去するフィオレーナを一同は玄関先まで見送った。
「今日は本当にありがとうございました」
ルートの感謝の言葉に、フィオレーナは優しく微笑んだ。
「こちらこそ、楽しい時間を過ごさせていただきました。また機会があれば、ぜひお邪魔させてください」
「はい、いつでも来てくださいね」
その温かい別れの言葉と共に、フィオレーナは静かに屋敷を後にしていった。
その後ろ姿を見送りながら、ルートは静かにこれからの旅路に思いを馳せていた。
「新しい心強い味方が、また増えたね」
ルートの言葉に、一同は頷いた。
「ああ。この絆の輪が、これからも広がっていくといいな」
アシュルの静かな言葉に、一同は静かに頷いた。
夕暮れの空の下、屋敷にはこれからも続いていく温かい日々の予感が静かに満ちていくのだった。
やっと復活




