第61話「集いし者たち」
召喚士の集会が開かれるのは、大陸中央に位置する、古くから学術都市として栄えてきた街だった。ルートたちはシルヴァンとコハクに同行してもらい、馬車を乗り継いでその街へと向かった。
「思ったより大きな街ですね」
馬車の窓から外を眺めながら、シィナが感嘆の声を漏らした。
「ここは古くから魔導研究の中心地として栄えてきた場所だ。今回の集会も、この街の大魔導評議会が主催しているらしい」
シルヴァンの説明に、ルートは緊張した面持ちで頷いた。
「大魔導評議会……そんな大きな組織が関わってるんですね」
「うむ。それだけ今回の召喚術の変化が、この世界にとって重要な出来事だと見なされている証だろう」
その言葉に、一同は改めて事の重大さを実感した。
街の中心部にある荘厳な議事堂に到着すると、そこには既に大陸各地から集まった多くの召喚士たちの姿があった。人間、エルフ、ドワーフ、獣人、魔族――様々な種族の召喚士たちが、それぞれの契約獣と共に広間に集まっている。
「これは、すごい人数ですね」
ゼクスが、その光景に思わず声を漏らした。
「ああ。これだけの召喚士が一堂に会するのは、恐らく何百年ぶりのことだろう」
アシュルの言葉に、一同は改めてこの集会の規模を実感した。
広間の中央、壇上には白髪の威厳ある老女――大魔導評議会の議長らしき人物が静かに立っていた。
「皆さん、本日はお集まりいただき感謝いたします」
その凛とした声が広間全体に響き渡った。
「ご存知の通り近頃、召喚術という技術がこれまでにない急速な変化を遂げつつあります。この変化について皆さんと共に情報を共有し、これからの方向性を話し合いたいと考えております」
議長の言葉に、集まった召喚士たちが静かに耳を傾けた。
「まず、この変化の発端について、皆さんにも既に噂が広まっていることと思いますが――」
議長の視線が、ゆっくりとルートたちの方へと向けられた。
「今日は、その当事者であるお方に直接お話を伺いたいと思います」
その言葉に、広間中の視線が一斉にルートへと集まった。
「え……」
突然の展開に、ルートは思わず狼狽えた。
「ルート殿、どうかこちらへ」
議長に促され、ルートは緊張した面持ちで壇上へと上がっていった。アシュルとカインも静かにその後に続く。
「皆さん、こちらが規格外の召喚士――ルート殿です」
その紹介に、広間がざわめいた。
「あれが噂の……」
「まさか、こんなに若いとは」
「あの召喚獣たちも規格外だという話だが」
様々な囁き声が広間中に広がっていく。その注目の視線に、ルートは思わず緊張で体を強張らせた。
「ルート殿、よろしければこれまでの経緯を皆さんにお話しいただけますか」
議長の穏やかな、しかし確かな期待の込められた問いかけに、ルートは深呼吸をして心を落ち着けた。
「――はい」
ルートは、これまでの旅の経緯を丁寧に語り始めた。初めての召喚でアシュルと契約したこと。この世界に身体ごと転移してしまったこと。そして氷雪の遺跡、妖精の森、海底遺跡、浮遊島――それぞれの場所で核を解放し、召喚術の力を少しずつ取り戻してきたこと。
その真摯な語りに、広間中が静かに耳を傾けていた。
「――そして僕たちは、これからもこの世界の平穏のために力を尽くしていくつもりです」
その力強い締めくくりの言葉に、広間中に静かな感嘆のどよめきが広がった。
「素晴らしい覚悟です」
議長が感慨深そうに頷いた。
「実は私たちも、この召喚術の変化について独自に調査を進めてきました。そして一つの重要な結論に辿り着いています」
「結論、ですか」
ルートの問いに、議長は真剣な眼差しで頷いた。
「かつて召喚術は、この世界において最も尊ばれた技術でした。それが意図的に封じられた経緯があることも、私たちは独自に突き止めています」
その告白に、アシュルが驚いたように口を開いた。
「そこまで、既に調査が進んでいたのですか」
「ええ。長年、この大魔導評議会は召喚術の衰退の謎について、密かに研究を続けてきました。そして、あなた方の登場によって、その謎が大きく解き明かされつつあります」
その説明に、一同は驚きの表情を浮かべた。
「私たちからも一つ提案があります」
議長は真剣な眼差しで続けた。
「これから先、召喚術の力がさらに回復していくにあたり、私たち大魔導評議会は、あなた方の活動を正式に支援したいと考えています」
その申し出に、ルートは驚きながらも深く頭を下げた。
「ありがとうございます。……ただ」
「ただ?」
「運営という組織が、僕たちの動きを警戒しているという情報もあります。皆さんを巻き込んでしまう危険もあるかもしれません」
その正直な懸念に、議長は静かに微笑んだ。
「その危険は承知の上です。むしろ――」
議長は真剣な眼差しで、集まった召喚士たちを見渡した。
「この世界を脅かす存在に、私たちが力を貸さずにいられるほど、この大魔導評議会は臆病ではありません」
その力強い宣言に、広間中の召喚士たちから賛同の声が次々と上がった。
「その通りだ!」
「俺たちも力を貸すぞ!」
「規格外の召喚士殿と共に戦おう!」
その思いがけない大きな支持に、ルートは深い感動を覚えた。
「皆さん……ありがとうございます」
その心からの感謝の言葉に、広間中が温かい拍手に包まれた。
集会の後、ルートたちは議長に招かれ、別室で、より詳細な話し合いを行うことになった。
「改めて自己紹介させてください。私はこの大魔導評議会の議長を務める、フィオレーナと申します」
「フィオレーナ様。改めて、よろしくお願いします」
ルートの丁寧な挨拶に、フィオレーナは優しく微笑んだ。
「堅苦しい挨拶は不要ですよ。……それより、これから具体的な話をさせてください」
フィオレーナは真剣な表情で続けた。
「運営という組織について、私たちも独自に情報を集めてきました。彼らの行動パターン、そして彼らが、この世界から何を得ようとしているのか」
「何か、分かったんですか」
アシュルの問いに、フィオレーナは頷いた。
「運営はこの世界の魔力――特に召喚術に関わる特殊なエネルギーを、彼ら自身の世界に持ち帰ろうとしている、というのが私たちの見立てです」
その説明は、既にラーグから聞いていた情報と一致していた。
「それに加えて」
フィオレーナは、さらに続けた。
「彼らは、この世界の住人たちの意識、あるいは魂そのものにも興味を示している、という情報もあります」
「魂に、ですか……?」
シィナが驚いたように問いかけた。
「ええ。詳しい目的までは、まだ掴めていませんが……もし、それが事実だとすれば、事態は私たちが考えている以上に深刻かもしれません」
その重大な情報に、一同の間に緊張が走った。
「私たち大魔導評議会は、これからあなた方と協力し、この世界の真実を明らかにしていきたいと考えています」
フィオレーナの力強い申し出に、ルートは深く頷いた。
「はい、こちらこそ、よろしくお願いします」
こうしてルートたちは、大魔導評議会という新たな心強い協力者を得ることとなった。
話し合いの終わりに、フィオレーナはふと思い出したように付け加えた。
「そういえば、皆さんの中に、召喚獣同士でご結婚された方がいらっしゃるとか。大魔導評議会にも、そのような前例がないか、少し調べさせていただいてもよろしいですか」
その思いがけない申し出に、アシュルとカインは思わず顔を見合わせた。
「――そんなことまで耳に入っているのですか」
アシュルの少し動揺した様子に、フィオレーナはいたずらっぽく微笑んだ。
「ふふ、学術的な興味は尽きないものですから。もし何か分かれば、お二人のこれからの参考になるかもしれません」
その言葉に、カインは静かに頭を下げた。
「お心遣い、感謝いたします」
その微笑ましいやり取りに、その場の空気が少しだけ和やかなものになった。
街を後にする道すがら、ルートはこれまでの旅を振り返りながら静かに決意を新たにしていた。
(一人で抱え込む必要はない。みんなで力を合わせれば、きっとこの世界を守れる)
その確かな想いを胸に、ルートたちは次なる旅路への一歩を踏み出していくのだった。




