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最弱職の召喚士ですが、初召喚で太古の神獣と契約したら現実に戻れなくなりました  作者: あげまんじゅう


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第58話「絆を選ぶ」

浮遊島から戻って数日、屋敷にはいつも通りの穏やかな日常が流れていた。王家から託された貴重な資料の解読をシルヴァンに依頼するため、ルートたちはその日ギルドへと足を運ぶことになっていた。

 朝食の席で、リュゼリアが古書の写しを丁寧に整理しながら言った。

「この資料、専門的な古代文字が多くて、私だけでは読み解くのに時間がかかりそうなの。シルヴァンさんの知識を借りられれば助かるわ」

「うん、そうだね。今日、みんなで持っていこう」

 ルートの言葉に、シィナとゼクスも頷いた。

「私も、資料整理のお手伝いをしますね」

「俺は、力仕事なら任せてくれ」

 それぞれの言葉に、朝の食卓は和やかな空気に包まれていた。

「アシュル、カインも一緒に来る?」

 ルートの問いに、アシュルは少し考えるように視線を落とした。

「――いや。今日は少し屋敷に残っていたい」

 その珍しい返答に、ルートは驚いたようにアシュルを見つめた。

「珍しいね、アシュルがそんなこと言うの」

「たまには、こういう日もあるだろう」

 アシュルの素っ気ない返答に、ルートはそれ以上深くは追及せず頷いた。

「分かった。じゃあ行ってくるね」

 こうしてルート、ゼクス、シィナ、リュゼリアはギルドへと出かけていき、屋敷にはアシュルとカインだけが残されることになった。

 リビングで静かに茶を飲んでいたアシュルの元に、カインが静かに歩み寄ってきた。

「――今日は珍しく、お残りになるのですね」

「貴様も残っているだろう」

「ええ、私は元々、ルート様の留守を屋敷で守るのが役目ですので」

 その生真面目な返答に、アシュルは小さく笑った。

「本当に貴様は変わらないな」

「変わらないのは、あなたも同じでは?」

 その軽い応酬に、二体の間にはこれまでと同じ穏やかな空気が流れていた。

 しばらくの沈黙の後、アシュルはふと真剣な表情で口を開いた。

「――貴様に話しておきたいことがある」

 その改まった口調に、カインは静かに姿勢を正した。

「なんでしょうか」

「以前少し話した、私の過去のこと――リエナと彼女の獣の悲劇について、覚えているか」

「もちろんです」

「あの悲劇のこと、実はまだ貴様には話していない部分がある」

 その告白に、カインは静かに耳を傾けた。

「私はあの悲劇の後、絆というものを恐れ封印を選んだ。だが、それだけではなかった」

 アシュルは静かに続けた。

「私はリエナと彼女の獣が示していた、あの深い絆を、心のどこかで羨んでいた。だからこそ、それが失われた時、これ以上ないほどの絶望を感じたのだ」

 その率直な告白に、カインはしばらくの間、言葉を失っていた。

「私はあの絶望を、二度と味わいたくないと思った。だから誰とも深く関わらないことを選んだ。……ルートと出会うまでは」

 アシュルは静かにカインを見つめた。

「ルートと出会い、そして貴様と出会って、私は少しずつ変わってきたと思う。絆を恐れるのではなく、選び取ることができるようになってきた」

 その言葉に、カインは深く頷いた。

「私も、あなたの変化を感じておりました」

「――そして今、私ははっきりと気づいたことがある」

 アシュルの声がわずかに震えた。

「貴様のことを、私は単なる同僚以上の存在として見ている。それは恐らく特別な想いなのだろう」

 その告白に、カインは大きく目を見開いた。

「――アシュル……」

「勘違いするなよ。これは私にとっても初めての感情だ。うまく言葉にできているか自信がない」

 少し慌てたように続けるアシュルに、カインは静かに、しかし確かな温かさを込めて微笑んだ。

「――いいえ、十分に伝わっております」

「――そう、か」

 アシュルは少し安堵したように息を吐いた。

「実は私も、同じ想いを抱いておりました」

 その告白に、今度はアシュルが驚く番だった。

「貴様も……?」

「ええ。最初はルート様を巡るライバル心だと思っておりました。ですが、海底遺跡でのあの一件から――あなたの存在が私にとってかけがえのないものになっていることに気づいたのです」

 その真摯な告白に、アシュルはしばらくの間、言葉を失っていた。

「私たちは……」

「ええ。同じ想いを抱いていたのですね」

 二体はしばらくの間、互いを見つめ合った。これまでのライバル関係の中で育まれてきた確かな信頼と、そして今はっきりと自覚した特別な感情。

「アシュル」

「なんだ」

「これから、あなたと共にこの想いを育んでいっても、よろしいでしょうか」

 その率直な問いかけに、アシュルは静かに、しかし確かな決意を込めて頷いた。

「――ああ。私も同じことを望んでいる」

 その答えに、カインは心から嬉しそうな表情を浮かべた。

「では、これより私たちは――」

「ああ。正式に共に歩んでいく関係だ」

 その宣言と共に、二体の間にこれまでとは明らかに違う温かい空気が流れた。

「もっとも」

 アシュルが少しいたずらっぽく続けた。

「ルートへの想いが変わるわけではない。それだけは忘れるな」

「もちろんです。それは私も同じこと」

 その揃った答えに、二体は思わず顔を見合わせて笑った。

 夕方、ギルドから戻ってきたルートたちを、いつも通りアシュルとカインが出迎えた。だが、その纏う空気にはこれまでとは明らかに違う穏やかさが宿っていた。

「ただいま、二人とも」

「おかえりなさい、ルート様」

「おかえり」

 その言葉の中に確かな変化を感じ取ったのか、ルートは少し不思議そうに二体を見つめた。

「なんか今日、二人ともすごく穏やかな雰囲気だね」

 その指摘に、アシュルとカインはそれぞれ少し照れくさそうに視線を交わした。

「――実は報告することがある」

 アシュルの言葉に、ルートは興味深そうに首を傾げた。

「報告?」

「私とカインは……その、正式に想い合う関係になった」

 その告白に、ルートの目が大きく見開かれた。

「本当に!? やった、おめでとう、二人とも!」

 ルートの心からの喜びに、シィナとリュゼリアも驚きと共に笑顔を浮かべた。

「まあ、素敵! おめでとうございます!」

 シィナの祝福に、リュゼリアも優しく微笑んだ。

「ふふ、やっぱりそうだったのね。なんとなく、そんな予感がしていたわ」

 ゼクスも感慨深そうに頷いた。

「アシュルとカインが、な。……なんか不思議な気分だ」

 その皆の温かい祝福に、アシュルとカインはそれぞれ少し照れくさそうに、しかし確かな幸福感と共に頷いた。

「――ありがとう、皆」

「私たちの幸せを喜んでいただけること、この上ない喜びです」

 その夜、賑やかな夕食の席で、二体の新しい関係を祝うささやかな宴が開かれた。

「これから二人がどんな関係を築いていくのか楽しみだね」

 ルートの言葉に、アシュルは静かに微笑んだ。

「まだ始まったばかりだ。だが――」

 アシュルは隣に座るカインへと視線を向けた。

「この道を共に歩んでいけることを嬉しく思っている」

 その素直な言葉に、カインは静かに頷いた。

「私も同じ想いです」

 窓の外、二つの月がこの新しい絆の始まりを静かに見守っていた。

 賑やかな笑い声と温かい料理の香りに包まれながら、屋敷の夜はこれまで以上に幸せな雰囲気に包まれていくのだった。

 夕食を終えた後、片付けを終えたルートは庭に出て夜空を見上げていた。そこへ猫の姿になったアシュルが静かに隣に腰を下ろす。

「アシュル、今日は本当におめでとう」

 改めてのルートの言葉に、アシュルは静かに微笑んだ。

「ありがとう。……自分でも、まだ少し不思議な気持ちだ。誰かをこれほどまでに特別に想う日が来るとは思っていなかったからな」

「そういう気持ち、大事にしてね」

「ああ」

 しばらくの沈黙の後、アシュルがふと口を開いた。

「ルート」

「なに?」

「これからも貴様が幸せであること。それが私にとって、そして恐らくカインにとっても何よりの願いだ」

 その素直な言葉に、ルートは温かい気持ちで頷いた。

「うん、僕もアシュルとカインが幸せでいてくれること、心から願ってるよ」

 夜空に浮かぶ二つの月を見上げながら、二人はしばらくの間穏やかな沈黙を共有していた。

 この日生まれた新しい絆。それはこれからこの屋敷に静かに、そして確かな温かさをもたらしていくことになる。まだ誰も、その先にどんな未来が待っているのか知る由もなかった。

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