第57話「時が紡ぐもの」
王の魂に、見守られながら、一同は、核を、囲むように、円になって、立った。
「今回は、これまでとは、少し、違う、想いを、込める、必要が、あるかもしれない」
アシュルの、言葉に、ルートは、真剣な、表情で、頷いた。
「時を、司る、核……何を、思い描けば、いいんだろう」
ルートの、問いに、王の魂が、静かに、口を、開いた。
「時とは、単なる、過去から、未来への、流れでは、ない。それは、人が、何かを、大切に、想い、積み重ねてきた、記憶の、集積でも、ある」
その、言葉に、一同は、静かに、耳を、傾けた。
「この、核に、応えるためには、恐らく――お前たちが、これまで、この世界で、積み重ねてきた、時間そのものへの、想いが、必要になるだろう」
その、説明に、ルートは、深く、頷いた。
「みんな、これまでの、旅を、思い出してみよう」
その、言葉に、一同は、それぞれ、目を、閉じ、静かに、意識を、集中させていった。
ルートの、脳裏に、これまでの、旅の、記憶が、次々と、蘇ってきた。冴えなかった、元の世界での、日々。初めての、召喚で、アシュルと、出会った、あの、衝撃的な、瞬間。忘却の迷宮での、戦い。ゼクスとの、出会い。シィナとの、絆。リュゼリアとの、出会いと、少しずつ、育まれてきた、想い。カインとの、契約。氷雪の遺跡、妖精の森、海底遺跡――それぞれの場所で、経験してきた、様々な、出来事。
(この、全ての、時間が、僕にとって、かけがえのない、宝物なんだ)
その、想いが、胸の、奥から、静かに、溢れ出してくるのを、感じた。
ゼクスもまた、目を、閉じながら、これまでの、道のりを、静かに、振り返っていた。リュゼリアとの、再会。シィナとの、少しずつ、育まれてきた、関係。そして――これから、共に、歩んでいきたい、未来への、想い。
シィナは、この、世界で、出会った、全ての、大切な、人々との、時間を、静かに、思い描いた。そして――いつか、来るかもしれない、別れの、日のことも、恐れずに、今、この、瞬間の、幸せを、大切にしたいという、想いを、強く、抱いた。
リュゼリアは、ゼクスとの、姉弟のような、絆、そして――ルートとの、まだ、始まったばかりの、しかし、確かな、想いを、静かに、噛み締めた。
カインは、ルートへの、深い、想いと共に――最近、少しずつ、育まれてきた、アシュルとの、静かな、絆についても、そっと、想いを、馳せた。
アシュルもまた、これまでの、長い、封印の、時間、そして――ルートとの、出会いによって、再び、動き出した、自らの、時間の、流れを、静かに、噛み締めていた。
(この、子たちと、過ごす、時間が――私にとって、これほどまでに、大切なものに、なるとは)
その、静かな、想いが、それぞれの、胸の内から、核へと、注がれていった。
やがて、核が、これまで見てきた、どの核よりも、眩い、しかし、どこか、優しい、光を、放ち始めた。光は、次第に、渦を、巻き、玉座の間、全体を、優しく、包み込んでいった。
「封印が……解けていく……!」
王の魂の、声にも、確かな、感慨が、滲んでいた。
光が、一同の、体を、優しく、包み込んでいく。ルートは、これまで以上に、大きな、力の、奔流を、体の、奥底から、感じた。同時に――不思議な、感覚が、頭の中を、駆け巡った。
まるで、これまでの、この世界の、様々な、時代の、断片が、走馬灯のように、脳裏を、過っていく。ヴェルダによる、封印の、瞬間。アシュルたちが、まだ、平和に、暮らしていた、遥か昔の、時代。そして――この、世界と、ルートたちの、故郷を、繋ぐ、扉が、初めて、開かれた、瞬間。
「これは……」
ルートが、驚きの、声を、漏らした。
「時の、記憶の、一端が、見えているのだろう。この、核の、力が、解放されたことで、な」
アシュルの、言葉に、ルートは、深く、頷いた。
やがて、光が、収まっていくと、核は、静かに、その、輝きを、和らげながら、玉座の間に、穏やかな、光を、放ち続けていた。
「これで、四つ目の、核が、解放されたのですね」
シィナの、言葉に、一同は、頷いた。
「ああ。だが――」
アシュルが、少し、真剣な、表情で、続けた。
「今回の、核の、解放は、これまでとは、少し、違う、影響を、もたらすかもしれない」
その、言葉に、王の魂が、静かに、頷いた。
「その、通りだ。この、核の、力が、解放されたことで、この、世界と、あなた方の、故郷を、繋ぐ、扉の、在り方にも、何らかの、変化が、生じるだろう」
「それって、具体的には、どんな、変化が……?」
ルートの、問いに、王の魂は、静かに、首を、振った。
「それは、私にも、正確には、分からない。だが――一つ、確かなことが、ある」
「確かなこと?」
「この、力が、正しく、活かされれば、いつか、あなた方が、望む、未来――故郷への、帰還、あるいは、この、世界との、正しい、繋がり方を、見つけ出す、手がかりに、なるはずだ」
その、言葉に、ルートの、胸に、複雑な、想いが、去来した。
(故郷に、帰る、手がかり……)
その、可能性に、心が、動かないと、言えば、嘘になる。だが、同時に――この、世界で、築いてきた、絆を、失いたくないという、想いも、確かに、あった。
その、複雑な、表情に、気づいたのか、リュゼリアが、そっと、ルートの、隣に、寄り添った。
「大丈夫よ、ルート君。今、すぐに、答えを、出す、必要は、ないわ」
その、優しい、言葉に、ルートは、静かに、頷いた。
「うん……ありがとう、リュゼリアさん」
その、様子を、見守っていた、王の魂が、静かに、微笑んだ。
「あなた方の、絆、本当に、美しいものだな。……私にも、かつて、そのような、大切な、人々が、いた」
その、言葉に、一同は、静かに、耳を、傾けた。
「私の、治世が、崩壊する、その、瞬間まで、共に、あった、家族、そして、忠実な、家臣たち。彼らのことを、思うと、今でも、胸が、締め付けられる」
その、悲しげな、告白に、ルートは、真剣な、表情で、問いかけた。
「王様、あなたも、もう、成仏、できるんですよね?」
その、問いに、王の魂は、静かに、頷いた。
「ああ。この、核が、正しい、形で、解放された、今、私の、魂も、ようやく、安らぎを、得られるだろう」
王の魂は、静かに、一同を、見渡した。
「最後に、一つ、頼みが、ある」
「なんでしょうか」
「この、島に、眠る、王家の、財産――その、一部を、あなた方に、託したい。これから、あなた方が、歩む、道のりの、助けと、なることを、願って」
その、申し出に、ルートは、少し、驚いた。
「そんな、大切なもの、僕たちが、頂いても、いいんですか?」
「もちろんだ。あなた方こそ、その、財産を、正しく、活かせる、者たちだと、確信している」
王の魂は、そう言うと、玉座の、奥にある、隠し扉を、静かに、示した。
「あそこに、王家の、宝物庫が、ある。中には、様々な、財宝、そして――かつて、召喚術が、最も、栄えていた、時代の、貴重な、資料が、眠っているはずだ」
その、言葉に、一同は、興味深そうに、頷いた。
王の魂に、案内されるまま、一行は、宝物庫へと、足を、踏み入れた。そこには、長い、年月を、経てもなお、その、輝きを、失っていない、様々な、財宝が、静かに、眠っていた。
「これは、すごい……」
ゼクスが、思わず、感嘆の、声を、漏らした。
「特に、これを、見てほしい」
王の魂が、示したのは、一冊の、古びた、書物だった。表紙には、見たことのない、古代文字で、何かが、記されている。
「これは……」
アシュルが、その、書物を、手に取り、慎重に、ページを、めくった。
「――召喚術の、原初の、記録に関する、詳細な、資料だ。恐らく、他の、核を、解放する上でも、重要な、手がかりに、なるだろう」
その、発見に、一同の、表情に、希望の、光が、宿った。
「王様、本当に、ありがとうございます」
ルートの、感謝の、言葉に、王の魂は、静かに、微笑んだ。
「礼を、言うのは、こちらの方だ。あなた方のおかげで、私も、この、長い、彷徨いから、ようやく、解放される」
王の魂は、静かに、光の粒子となって、その、姿を、薄れさせていった。
「どうか、これからも、この、世界を――そして、あなた方自身の、幸せを、大切にしてほしい」
その、最後の言葉を、残し、王の魂は、静かに、空へと、昇っていった。その、表情には、これまでにない、安らぎに、満ちた、微笑みが、浮かんでいた。
「王様……」
ルートは、静かに、その、光を、見送った。
玉座の間に、静寂が、戻る。だが、その、静けさは、これまでの、緊張とは、違う、穏やかな、ものだった。
「さて、これで、この島での、目的は、果たせたな」
アシュルの、言葉に、一同は、頷いた。
「行方不明になっていた、冒険者の方々の、魂も、これで、救われたんですね」
シィナの、問いに、アシュルは、静かに、頷いた。
「ああ。核の、歪みが、正されたことで、彼らの、魂も、正しく、安らぎを、得られたはずだ」
その、言葉に、一同は、静かな、達成感を、噛み締めた。
宝物庫から、財宝と、貴重な、資料を、持ち帰る、準備を、整えながら、ルートは、ふと、これまでの、旅を、振り返った。
(四つの核を、解放して、色んなことが、分かってきた。でも、まだ、知らないことも、たくさんある)
特に、時の核が、もたらす、可能性――故郷への、帰還の、手がかりについては、まだ、はっきりとした、答えが、見えていなかった。
「ルート、大丈夫か? なんか、難しい、顔してるぞ」
ゼクスの、心配そうな、声に、ルートは、はっと、我に返った。
「うん、大丈夫。ちょっと、色々、考えてただけ」
「そうか。……まあ、焦る、必要は、ないさ。俺たちは、これからも、一緒に、いるんだから」
その、力強い、言葉に、ルートは、温かい、気持ちで、頷いた。
「うん、ありがとう、ゼクス」
夕暮れ時、財宝と、資料を、抱えた一行は、浮遊島を、後にすることにした。上昇気流とは、逆に、今度は、緩やかに、下降しながら、地上へと、戻っていく。
眼下に広がる、夕日に、染まった、雲海の、景色を、眺めながら、ルートは、静かに、これからの、旅路に、想いを、馳せていた。
「アシュル」
「なんだ」
「これから、まだ、色んなことが、待ってるんだろうね」
その、問いに、アシュルは、静かに、微笑んだ。
「ああ。だが、お前になら、そして、私たち、皆でなら――どんな、困難も、乗り越えて、いけるだろう」
その、確信めいた、言葉に、ルートは、深く、頷いた。
地上に、降り立った一行は、街への、帰路に、つきながら、それぞれの、胸に、新たな、決意と、そして――少しずつ、育まれてきた、確かな、絆を、静かに、抱いていた。
浮遊島編は、こうして、一つの、区切りを、迎えた。だが、時の核が、もたらした、可能性――それは、これから、ルートたちの、運命に、大きな、影響を、及ぼしていくことになる。
その、真実が、明らかになるのは、まだ、もう少し、先の、ことだった。




