第39話「新しい力の実感」
に戻ったルートたちは、まず、ギルドへと調査結果を報告することにした。
「――なんと。召喚術衰退の背景に、そこまでの真相があったとは」
シルヴァンは、報告を聞き終えると、深く感じ入ったように呟いた。
「にわかには信じがたい話だが、お前たちの纏う気配、確かに、以前とは違う。何か、大きな変化があったのだろうな」
「はい。あの遺跡で、核を解放したことで、僕たちも、力の一端を取り戻したみたいです」
ルートの説明に、コハクも、興味深そうに頷いた。
「これは、ギルドとしても、重要な記録として残しておく必要がありますね。今後、同じような『核』が見つかった際の、参考にもなるでしょうから」
「うむ。この件は、私からも、上層部へ、慎重に報告しておこう。……お前たちが担っているものの大きさ、改めて実感するな」
シルヴァンの真剣な言葉に、ルートたちは、静かに頷いた。
報告を終え、家へと戻る道すがら、ルートは、自らの内に宿る、新しい力の感覚を、まだ持て余していた。
「アシュル、この感じ、まだ、慣れないや」
「当然だろう。急激な変化だ。少しずつ、体に馴染ませていく必要がある」
アシュルの言葉に、ルートは頷いた。
家に戻ると、リュゼリアが、工房から顔を出し、驚いたように目を見開いた。
「あら、皆さん、雰囲気が、随分と変わったわね」
「分かりますか?」
「ええ、纏う魔力の質が、はっきりと違うもの。……何か、大きな出来事があったのね」
その鋭い観察眼に、ルートは、苦笑しながら、遺跡での出来事を、かいつまんで説明した。
「そう……召喚術の核、か。それなら、装備の調整も、必要になるかもしれないわね」
リュゼリアは、そう言うと、早速、皆の武具の状態を確認し始めた。
その日の夕方、庭で、ルートは、新しい力を試すため、軽く素振りを行うことにした。
「アシュル、見ててくれる?」
「ああ、任せろ」
ルートが、片手剣を構え、意識を集中させる。以前よりも、はるかに滑らかに、体の奥から、力が湧き上がってくるのを感じた。
「――行くよ」
振るった一撃は、これまでとは、明らかに異なる、鋭さと重みを伴っていた。空気を切り裂く音が、庭に響き渡る。
「おお……」
その様子を見ていたゼクスが、思わず声を上げた。
「なんか、動きが、前より格段に鋭くなってないか?」
「うん、僕自身も、驚いてる」
ルートは、自らの手のひらを見つめながら、静かに実感を噛み締めた。
「アシュル、この力、うまく使いこなせるようになるかな」
「なる。お前なら、必ず」
アシュルの確信めいた言葉に、ルートは、力強く頷いた。
カインもまた、庭の隅で、自らの新しい力を確かめていた。漆黒の魔力が、以前よりも、鮮明に、そして力強く、その手のひらに集束していく。
「これは……以前よりも、遥かに精密な制御が可能なようです」
カインの呟きに、アシュルが、興味深そうに近づいた。
「見せてみろ」
「畏まりました」
カインが、漆黒の魔力弾を、庭の的に向けて放った。その威力は、明らかに以前とは一線を画するものだった。
「――ほう。悪くない」
アシュルの素直な評価に、カインは、少し誇らしげに微笑んだ。
「貴様にそう言われるとは、光栄です」
「調子に乗るなよ」
軽口を交わし合う二体の様子に、シィナが、微笑ましそうに見守っていた。
その夜、夕食の席で、リュゼリアが、改めて、皆に向き直った。
「これから、皆さんの力が、さらに大きくなっていくのなら、私も、それに見合う武具を、用意していかないとね」
「よろしくお願いします、リュゼリアさん」
ルートの言葉に、リュゼリアは、優しく微笑んだ。
「任せて。皆さんが、安心して力を振るえるように、精一杯、腕を振るうから」
その温かい言葉に、一同は、静かな安堵を覚えた。
窓の外、二つの月が、穏やかな夜を照らしていた。新しい力を得た喜びと、これから向き合っていくべき、大きな謎への予感。その両方を胸に抱きながら、ルートたちは、静かな夜を過ごしていた。
「ねえ、アシュル」
自室に戻ったルートが、ふと、隣にいるアシュルに声をかけた。
「なんだ」
「これから、他の核も、見つけていくんだよね」
「ああ。この世界のどこかに、まだ、いくつかの核が眠っているはずだ。少しずつ、探していく必要がある」
「うん。焦らず、一つずつ、やっていこう」
その言葉に、アシュルは、静かに頷いた。
「お前と一緒になら、どんな道のりも、乗り越えられる気がするな」
その珍しく素直な言葉に、ルートは、驚いたように目を瞬かせた。
「アシュル……」
「――今の言葉は、忘れろ」
少し照れくさそうに、視線を逸らすアシュルに、ルートは、思わず笑ってしまった。
新しい力と共に、新しい日々が、また一つ、静かに積み重なっていくのだった。




