第34話「賑やかな祝宴」
「そういえば、まだ、ちゃんとした引っ越し祝いをしてなかったよね」
夕食の席で、ルートがふと切り出した。
「確かに。バタバタしてて、それどころじゃありませんでしたね」
シィナの言葉に、リュゼリアも頷いた。
「せっかくの新しい家だもの。お世話になった人たちを招いて、ささやかなパーティでもしましょうか」
「それ、いいな。誰を呼ぶ?」
ゼクスの問いに、ルートは、これまで関わってきた人々の顔を思い浮かべた。
「まずは、シルヴァンさんとコハクさん。それから、ガルドさんにも、ぜひ来てもらいたいな」
「オーウェンさんも、忘れちゃいけませんね」
シィナの言葉に、一同は頷いた。
「よし、決まりだ。今度の休みに、みんなで準備しよう」
こうして、新しい家での、初めてのパーティの計画が始まった。
当日、朝から、家の中は、慌ただしい準備で溢れていた。
「料理は、俺とリサで担当するからな」
ゼクスが、腕まくりをしながら、キッチンで意気込んでいた。リュゼリアも、楽しそうに、食材の下ごしらえを進めている。
「シィナちゃんは、テーブルの飾り付け、お願いできる?」
「はい、任せてください」
シィナは、庭から摘んできた花を、テーブルに丁寧に飾り付けていった。
一方、アシュルとカインは、それぞれ、部屋の掃除と、家具の配置換えを担当していた。
「これで、来客を迎える準備は、万全だな」
「私も、同意見です。ルート様に、恥ずかしい思いをさせるわけには、まいりませんので」
二体は、珍しく、協力的に作業を進めていた。
午後になると、招待した客人たちが、次々と屋敷を訪れ始めた。
「おお、これは、立派な屋敷だな!」
真っ先にやってきたのは、豪快な声と共に現れた、シルヴァンだった。
「シルヴァンさん、来てくださって、ありがとうございます」
「なんの、なんの! こちらこそ、招待していただき、光栄の極みだ!」
その後ろから、コハクも、少し照れくさそうに顔を出した。
「お邪魔します。素敵なお家ですね」
「コハクさん、ようこそ」
しばらくして、ドワーフのガルドも、大きな酒瓶を抱えて到着した。
「よう、坊主! 引っ越し祝いに、とっておきの酒を持ってきたぞ!」
「ガルドさん、ありがとうございます!」
最後に、オーウェンが、少し照れくさそうに、手土産を抱えてやってきた。
「邪魔するぞ。……いい家じゃねえか」
「オーウェンさん、来てくれて嬉しいです」
こうして、屋敷のリビングには、これまで街で出会ってきた、大切な人々が集まった。
「それでは――」
ルートが、皆の顔を見渡しながら、乾杯の音頭を取った。
「今日は、僕たちの新しい家に、みんな来てくれて、本当にありがとうございます。これからも、よろしくお願いします!」
「「「乾杯!」」」
賑やかな声と共に、グラスが打ち鳴らされた。
パーティは、和やかに進んでいった。ゼクスとリュゼリアが腕を振るった料理は、どれも絶品で、客人たちからも、次々と賞賛の声が上がった。
「うまい! さすが、リサちゃんの料理だ!」
オーウェンが、豪快に料理を頬張りながら言った。
「ゼクスさんの腕前も、なかなかのものですよ」
リュゼリアの言葉に、ゼクスは、少し照れくさそうに笑った。
シルヴァンは、相変わらず、カインとアシュルを見つけると、目を輝かせて話しかけていた。
「カイン殿、アシュル殿! お二人が、家事の分担で競い合っているという噂を聞いたのだが、本当か!?」
「――どこから、その情報を」
カインが、珍しく困惑した表情を浮かべた。
「街の噂というのは、侮れないものでな! いやはや、規格外の召喚獣同士の、家庭内での攻防……実に、興味深い!」
「シルヴァンさん、その辺で……」
ルートが苦笑しながら止めに入るが、シルヴァンの好奇心は、留まるところを知らなかった。
ガルドは、リュゼリアの新しい工房を見せてもらい、鍛冶師同士、専門的な話に花を咲かせていた。
「ほう、この炉の配置は、なかなか考えられているな」
「ガルドさんの工房を参考にさせてもらったんです」
「そりゃあ、光栄だ。今度、素材の融通も、してやろう」
二人の会話に、鍛冶師としての、確かな信頼関係が感じられた。
コハクは、シィナと共に、庭で穏やかに談笑していた。
「シィナさんも、随分と、逞しくなりましたね。最初にギルドにいらした頃と比べて」
「そうですか? 自分では、あまり実感がないんですけど」
「いえ、確かに。皆さんと一緒に過ごす中で、少しずつ、成長されているのが分かります」
その言葉に、シィナは、嬉しそうに微笑んだ。
夕暮れ時、パーティも、そろそろ終盤に差し掛かった頃、オーウェンが、少ししんみりとした様子で、ルートに声をかけた。
「なあ、ルート。お前らが、ここまで、多くの人に囲まれるようになるとはな」
「オーウェンさんのおかげでもありますよ。最初に泊まった時、色々、気にかけてくれたから」
「そうか。……なら、俺も、少しは、役に立てたってことか」
その照れくさそうな笑みに、ルートは、温かい気持ちで頷いた。
「これからも、よろしくお願いします、オーウェンさん」
「ああ。こちらこそだ」
賑やかな笑い声と、温かい料理の香りに包まれながら、パーティは、夜遅くまで続いた。
窓の外、二つの月が、この賑やかな一夜を、静かに見守っていた。
ルートは、集まった人々の顔を、一人一人、見渡しながら、静かな幸福感を噛み締めていた。
(この街で、こんなにも多くの人と、繋がることができた)
冴えなかった現実の自分からは、想像もできなかった光景。だが、今、確かに、ここに、自分の居場所があった。
「アシュル、カイン」
ルートが、そっと呼びかけると、二体の召喚獣が、それぞれ、静かに彼の元に寄り添った。
「今日、みんなに囲まれて、すごく幸せだったよ」
「それは、何よりだ」
「ルート様が幸せであることこそ、私にとって、最大の喜びです」
その言葉に、ルートは、優しく微笑んだ。
賑やかな祝宴の夜は、こうして、温かい余韻を残しながら、静かに更けていったのだった。
暑い…溶けるよー




