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最弱職の召喚士ですが、初召喚で太古の神獣と契約したら現実に戻れなくなりました  作者: あげまんじゅう


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第30話「新しい拠点」

ギルドでの騒動から数日後、ルートたちは、これからの拠点について、月見亭の食堂で話し合っていた。

「なあ、みんな。そろそろ、宿屋暮らしも、限界があると思うんだ」

 ルートが切り出すと、シィナが頷いた。

「確かに、人数も増えましたし、それぞれの部屋を確保するのも、手狭になってきましたね」

「家を持つ、ってことか?」

 ゼクスの問いに、ルートは頷いた。

「うん。みんなで暮らせる家があれば、色々と便利だと思うんだ。作戦会議もしやすいし……」

 ルートは、ちらりとリュゼリアへと視線を向けた。

「リュゼリアさんの工房も、新しく構えられるかもしれない」

 その言葉に、リュゼリアは、少し驚いたように目を瞬かせた。

「私の工房のこと、気にかけてくれていたのね。ありがとう。でも……」

「でも?」

「イグナイトに、まだ、私の工房が残っているの。半年も放置してしまったけれど、道具も設備も、そのまま残してきたから」

 その言葉に、ルートは、はっとした。

「そうか……リュゼリアさんの工房、こっちに来る前に、ちゃんと考えないといけなかったね」

「ふふ、気にしないで。あの工房には、思い入れもあるけれど……正直に言えば、あそこには、辛い記憶も、たくさん染みついてしまったから」

 リュゼリアは、少し寂しそうに、しかし、どこか吹っ切れたような表情で続けた。

「もし、皆さんの家に、私の作業場を作らせてもらえるなら、私は、そちらの方が嬉しいわ。イグナイトの工房は、いずれ、道具だけ引き取りに行きましょう」

「それなら、決まりだね」

 ルートの言葉に、リュゼリアは、優しく微笑んで頷いた。

「ええ。ゼクスの傍にいられる方が、私にとっても、心強いもの」

 その一言に、ゼクスが、照れくさそうに視線を逸らした。

「そんな畏まった言い方すんなよ、リサ」

「あら、本当のことじゃない」

 姉弟のようなやり取りに、シィナが、微笑ましそうに二人を見守っていた。

 カウンターの奥から、オーウェンが話を聞きつけ、興味深そうに口を挟んできた。

「家探しか。俺の知り合いに、不動産を扱ってる奴がいる。紹介してやろうか?」

「本当ですか? ありがとうございます、オーウェンさん」

「礼はいらねえよ。ただ――」

 オーウェンは、少し寂しそうな表情を見せた。

「お前らが出て行っちまうのは、ちょいと寂しい気もするがな」

「オーウェンさん……」

「まあ、家を持っても、飯くらいは食いに来てくれよ。お前らの顔が見えないと、なんか調子が狂っちまう」

 その照れくさそうな言葉に、ルートたちは、思わず笑みをこぼした。

「もちろんです。オーウェンさんのご飯が恋しくて、絶対、通っちゃいますよ」

「そうか、そうか。なら、良い物件を紹介してやらんとな」

 オーウェンは、そう言うと、嬉しそうに厨房へと戻っていった。

 数日後、オーウェンの紹介で、街の一角にある不動産業者を訪れたルートたちは、いくつかの物件を見て回ることになった。最初に案内された物件は、こぢんまりとしていたが、大所帯で暮らすには手狭すぎた。二件目は、立地は良かったものの、庭がなく、工房を構えるスペースが確保できそうになかった。

「うーん、なかなか、ちょうどいい物件って、見つからないもんですね」

 シィナが、少し疲れた様子で呟いた。三件目の物件へと向かう道中、不動産業者の男が、ふと思い出したように言った。

「そういえば、もう一件、少し価格は張りますが、良い物件がございます。以前、裕福な商人が住んでいた屋敷でしてね」

 その案内で辿り着いたのは、街の中でも落ち着いた区画にある、しっかりとした石造りの屋敷だった。大きな門をくぐると、ゆったりとした庭と共に、立派な建物が広がっている。

「わあ、素敵な家ですね」

 シィナが、感嘆の声を上げた。ゼクスも、感心したように屋敷を見渡している。

 玄関ホールは広く、いくつもの部屋が、廊下を挟んで並んでいた。二階には、それぞれが個室として使える部屋が十分な数あり、一階には、リビングや食堂として使えそうな広い空間もあった。

「これなら、みんなで暮らすのに、十分な広さだね」

 ルートの言葉に、一同は頷いた。屋敷の奥、庭に面した一角には、以前、何かの作業場として使われていたと思われる、広い部屋があった。

「ここ、もしかして……」

 リュゼリアが、その部屋に足を踏み入れると、目を輝かせた。

「換気も良くて、火を扱う作業にも向いてそう。窓も大きくて、明かりも十分に入る。ここを、工房として使わせてもらえたら、きっと、良い仕事ができるわ」

「工房用のスペースも、確保できそうです」

 シィナが、満足そうに頷いた。

「ここに決めよう」

 ルートの一声で、一同は、この屋敷を新しい拠点とすることに決めた。

 契約の手続きを終え、いよいよ引っ越しの日がやってきた。それぞれの荷物を運び込みながら、屋敷の中は、慌ただしくも、賑やかな空気に包まれていた。

「ルート様、この荷物は、どちらに置けばよろしいでしょうか」

 カインが、恭しく尋ねながら、大きな木箱を軽々と運んでいた。

「あ、それは、僕の部屋に置いてくれるかな」

「畏まりました」

 カインは、そう言うと、迷いのない足取りで、二階のルートの部屋へと向かった。その働きぶりに、ゼクスが感心したように呟いた。

「カイン、力持ちだな。荷物運び、全部一人でやってくれてるじゃないか」

「当然のことです。ルート様の周りのことは、全て、私が引き受けたいと思っておりますので」

 その返答に、ゼクスは苦笑しながら、自分の荷物を運び続けた。

 一方、リュゼリアは、数日かけてイグナイトから運び込んだ道具を、新しい工房のスペースに、丁寧に配置していった。

「ここに炉を置いて、こっちに作業台を……ふふ、想像するだけで、わくわくするわね」

 その様子を見ていたシィナが、微笑みながら声をかけた。

「リュゼリアさん、本当に、お仕事が好きなんですね」

「ええ。鍛冶は、私にとって、大切な生きがいだから」

 リュゼリアは、そう言いながら、優しく微笑んだ。だが、ふと、その表情に、一瞬の陰りが差した。

「イグナイトの工房を、片付けに行った時ね……正直、少し、怖かったの。あの場所に、また、あの日の記憶が、蘇るんじゃないかって」

「リュゼリアさん……」

「でも、意外と、平気だった。多分、もう、一人じゃないからだと思う」

 その言葉に、シィナは、温かい気持ちで頷いた。

「私たちも、リュゼリアさんが、ここで、安心して仕事できるように、応援してます」

「ありがとう、シィナちゃん」

 リュゼリアは、そう言うと、改めて、新しい工房を見渡した。

「それに――」

「それに?」

「みんなの武具を、もっと良いものにできたら、皆さんが危険な目に遭う可能性を、少しでも減らせるでしょう。それが、今の私にできる、一番の恩返しだと思っているの」

 その言葉に、シィナは、深く頷いた。

 夕方になる頃には、大まかな荷物の整理が終わり、一同は、リビングに集まって一息ついていた。

「これで、ようやく、みんなの新しい家、って感じだね」

 ルートの言葉に、皆が頷いた。窓から差し込む夕日が、新しい拠点を、温かく照らしていた。

「アシュル、カイン、これから、ここが、みんなの拠点になるよ」

 ルートの言葉に、二体の召喚獣は、それぞれの反応を見せた。

「悪くない選択だ。ここなら、お前を守るための拠点として、十分な機能を持たせられる」

「ルート様がお選びになった場所であれば、どこであろうと、私にとっては最良の場所です」

 二人の対照的な反応に、ルートは思わず笑ってしまった。

 その夜、新しい家での第一夜を祝うため、一行は、久しぶりに月見亭を訪れることにした。

「おう、引っ越しは無事に終わったか」

 オーウェンが、嬉しそうに一行を出迎えた。

「はい。でも、オーウェンさんの飯が恋しくて、さっそく来ちゃいました」

 ルートの言葉に、オーウェンは、豪快に笑った。

「そりゃあ、いつでも歓迎だ。お前らが、いつまでも、うちの常連でいてくれるなら、それに越したことはねえよ」

 温かい料理と、賑やかな会話に囲まれながら、一行は、新しい生活の始まりを、静かに、しかし確かな喜びと共に、噛み締めていた。

「リュゼリアさん、工房、明日から、本格的に使えそうですか?」

 ルートの問いに、リュゼリアは、笑顔で頷いた。

「ええ。まずは、皆さんの武具の点検と、手入れから始めるつもりよ。特に、ルート君の短剣、そろそろ新調した方がいいかもしれないわね」

「本当ですか? ありがとうございます」

「ふふ、任せて。恩返し、しっかりさせてもらうから」

 その時、カウンターの奥で、オーウェンが、ふと何かに気づいたように顔を上げた。

「そういや、リサちゃんは、これから、この街に、ずっと住むのか?」

 その問いに、リュゼリアは、少し考えるように視線を落とした。

「そうですね……今は、ゼクスや、皆さんの傍にいたい気持ちが、一番強いです。イグナイトに戻ることも、考えないわけではないけれど」

「なら、うちの常連にも、ぜひ加わってくれよ。ゼクスの姉貴分なら、俺にとっても、大事な客だ」

 オーウェンの温かい言葉に、リュゼリアは、嬉しそうに微笑んだ。

「ありがとうございます、オーウェンさん。よろしくお願いしますね」

 賑やかな夜は、笑い声と共に、更けていった。新しい拠点、新しい生活。それぞれの想いを胸に、一行は、明日への期待を膨らませていたのだった。

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