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最弱職の召喚士ですが、初召喚で太古の神獣と契約したら現実に戻れなくなりました  作者: あげまんじゅう


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第26話「新たなる契約」

決行の日の朝、ルートたちは最終確認のため、宿の裏庭に集まっていた。装備を身につけ、それぞれが緊張した面持ちで、これから始まる潜入作戦について、頭の中で何度もシミュレーションを重ねている。


「ルート、少しいいか」


 準備を進めるルートに、アシュルが静かに声をかけた。


「どうしたの、アシュル」


「今日の作戦について、一つ、提案がある」


 その改まった口調に、ルートは手を止めて、アシュルに向き直った。


「提案?」


「お前は、召喚士だ。これまで契約していたのは、私一体だけだった」


「うん、それが?」


「本来、召喚士という職業は、一体の召喚獣としか契約できない。それが、この世界における、召喚術の絶対的な理だ。複数の契約など、通常であれば、あり得ない」


「だが…お前はもう一人召還できる」


「え、そうなの???」


「お前が、規格外だからだ」


 アシュルは、まっすぐにルートを見つめた。


「私という、本来契約できるはずのない『柱』の成れの果てと契約できた時点で、お前は既に、この世界の理から外れた存在になっている。ならば、二体目の契約も、不可能ではないはずだ」


「そんなこと、できるの……?」


「保証はできん。だが、お前のこれまでの成長を見ていれば、可能性は十分にあると、私は考えている」


 その言葉に、ゼクスとシィナも興味深そうに耳を傾けていた。


「でも、アシュル。もう一体契約するって、簡単にできるものなの?」


 ルートの問いに、アシュルは少し考えるように視線を落とした。


「簡単ではない。だが、お前の中に眠る力は、まだ全てが開花したわけではない。今のお前になら、新たな契約の儀式を行うだけの、素地があるはずだ」


「でも、どうして、今、このタイミングで?」


「今夜の作戦は、二手に分かれて動く必要がある。もう一体、信頼できる戦力がいれば、より確実に、リュゼリアを救出できるはずだ。……それに」


 アシュルは、少し言葉を選ぶように、続けた。


「お前の力が育つほど、この世界に及ぼす影響も大きくなる。ならば、正しい方向に、その力を使いこなせるようになっておくべきだ」


「アシュルは、いいの? 僕が、他の召喚獣と契約しても」


 その問いかけに、アシュルは、一瞬だけ、複雑な表情を見せた。それから、ふっと小さく笑う。


「正直に言えば、複雑な気持ちがないわけではない。だが、お前を守るためなら、私は、多少の嫉妬など、飲み込んでみせよう」


「アシュル……」


「それに」


 アシュルは、悪戯っぽく目を細めた。


「たとえ、どんな相棒が現れようと、私が、お前にとって最初の、そして最も特別な存在であることは、変わらないだろうからな」


 その自信に満ちた言葉に、ルートは思わず笑ってしまった。


「うん、それは、間違いないよ」


「なら、話は早い。さっそく、儀式を行うぞ」


 アシュルは、そう言うと、街の外れにある、小さな祠へとルートを案内した。かつて、召喚士たちが新たな契約を結ぶ際に使われていたという、古い祭壇があるという。


「ここで、新しい召喚の儀式を行う。お前の中の力を、もう一度、外に向けて解き放つイメージだ」


「分かった」


 ルートは、祭壇の前に立ち、目を閉じた。以前、初めての召喚を行った時とは、また違う緊張感が、胸の奥に広がっていく。


「深く息を吸って、お前の中にある力を、静かに呼び覚ませ」


 アシュルの声に導かれるように、ルートは、体の奥にある熱を、意識の中心に据えた。以前よりも、はるかにスムーズに、その力を感じ取ることができた。


「――来い」


 その一言と共に、祭壇の魔法陣が、淡い光を放ち始めた。光は次第に強さを増し、やがて、渦を巻くように、一点へと収束していく。


 光の中心から、何かが姿を現し始めた。

 最初に見えたのは、漆黒の鱗に覆われた、小さな竜の姿だった。手のひらに乗るほどの大きさで、鋭い瞳が、真っ直ぐにルートを見つめている。


「これが……」


 小さな竜は、しばらくルートを見つめた後、ゆっくりと瞬きをした。その瞳には、これまで見たどんな存在とも違う、強い忠誠の光が宿っていた。


「――ようやく、お会いできましたね、我が主」


 その声は、想像していたよりも、はるかに落ち着いた、若い男の声だった。


 次の瞬間、竜の体が、淡い光に包まれた。光が収まると、そこに現れたのは、漆黒の翼を持つ、鋭く整った顔立ちの青年だった。執事のような、洗練された黒い衣装に身を包み、その所作の一つ一つに、隙のない気品が漂っている。


「初めまして、我が主。私の名は、カインと申します」


 カインは、恭しく片膝をつき、深く頭を垂れた。


「え、あの……初めまして、カイン。僕は――」


「存じております。結城陽翔様、こちらでのお名前はルート様、ですね」


 その即答に、ルートは驚いて目を瞬かせた。


「なんで、僕の名前を……」


「契約の瞬間、主の全てが、私の中に流れ込んでまいりました。あなた様のこれまでの歩み、その心の強さ――全て、存じております」


 カインの声には、深い敬意と、隠しきれない熱が滲んでいた。


「ルート様。私は、この瞬間より、あなた様の剣となり、盾となり、そして、あなた様の全てを、この身に代えても守り抜くことをお誓いいたします」


 その宣言に、ルートは思わずたじろいだ。契約したばかりだというのに、既にこれほどまでの忠誠を示す存在は、初めてだった。


「あ、ありがとう、カイン。よろしくね」


「もったいないお言葉です」


 カインは、恭しく礼をしながらも、その視線を、ちらりとアシュルへと向けた。


「――貴殿が、先に契約されていた、規格外の召喚獣殿ですか」


「そうだ。アシュルという」


 アシュルが、腕を組みながら、値踏みするようにカインを見つめた。


「随分と、様になった佇まいだな。だが、忠誠心だけで、主を守り切れるとは思わないことだ」


「無論、承知しております。ですが」


 カインは、静かに、しかし確かな決意を込めて言った。


「私も、ルート様のために、この身にできる全てを尽くす所存です。……貴殿には、負けません」


 その宣戦布告めいた言葉に、アシュルは、驚いたように片眉を上げた。それから、面白がるように、口の端を上げる。


「ほう。良い心意気だ。だが、私は、お前などに、簡単には主を譲らんぞ」


「もとより、譲っていただくつもりなど、毛頭ございません」


 二体の召喚獣の間に、静かな、しかし確かな火花が散っていた。その様子を見ていたゼクスとシィナが、思わず顔を見合わせて苦笑した。


「なんか、面白いことになってきたな」


「ふふ、賑やかになりそうですね」


 ルートも、二人のやり取りに、思わず笑みをこぼした。


「二人とも、仲良くしてね」


「「仲良くする気はない」」


 声を揃えて即答する二体に、ルートはますます笑ってしまった。だが、その笑いの中に、確かな心強さも感じていた。頼れる仲間が、また一人――いや、一体、増えたのだ。


「さて」


 アシュルが、真剣な表情に切り替えながら言った。


「新しい戦力も加わったことだし、改めて、今夜の作戦を確認しよう」


 その言葉に、一同は頷き、祠を後にして、宿へと戻っていった。


 道すがら、カインは、ルートの隣にぴったりと寄り添うように歩いていた。


「ルート様、今夜の作戦、私も全力を尽くします。何なりとお申し付けください」


「うん、頼りにしてるよ、カイン」


 その素直な言葉に、カインの表情が、わずかに緩んだ。


「もったいないお言葉です。この身が朽ちようとも、あなた様をお守りすると誓います」


「そこまでしなくていいからね……無事に、みんなで帰ろう」


 ルートの気遣いに、カインは、少し驚いたように目を見開いた後、静かに微笑んだ。


「――承知いたしました」


 夕暮れの街並みを歩きながら、五人と二体は、それぞれの決意を胸に、今夜の決行に向けて、静かに気持ちを高めていった。

カイン…つおい

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