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最弱職の召喚士ですが、初召喚で太古の神獣と契約したら現実に戻れなくなりました  作者: あげまんじゅう


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第25話「黒鉄商会」

翌朝、宿で落ち合ったルートたちは、それぞれが集めてきた情報を持ち寄った。


「まず、俺から報告する」


 ゼクスが、少し疲れた様子で口を開いた。


「鍛冶師仲間何人かに話を聞いたが、『黒鉄商会』って名前を知ってる奴は、ほとんどいなかった。ただ、一人だけ、妙なことを言ってた奴がいる」


「妙なこと?」


「その商会、表向きは希少鉱石の取引をしてるらしいんだが、扱ってる品の質にしちゃ、金払いが異様にいいらしい。しかも、取引相手を選ぶ時、妙に慎重だったって話だ」


「怪しいですね……」


 シィナが、眉をひそめながら呟いた。彼女もまた、街の商人たちから集めた情報を報告した。


「私の方でも、似たような話を聞きました。黒鉄商会の商館は、街の北側にあるようなのですが……普段、人の出入りがほとんどないそうです。倉庫街の奥、一番大きな建物がそれだとか」


「北側の倉庫街……昨日、僕とアシュルが見た場所と、近いかもしれない」


 ルートの言葉に、アシュルが頷いた。


「昨日感じた魔力の残滓も、その方向から漂ってきていた。恐らく、間違いないだろう」


 情報が一つに繋がっていく感覚に、一同の間に緊張が走った。

 朝食を終えたテーブルの上には、これまで集めた情報が、少しずつ整理されていった。オーウェンも、宿の主人として、街の噂話をいくつか聞き集めてくれていた。


「そういえば、俺の方でも、少し気になる話を聞いたぜ」


 厨房から顔を出したオーウェンが、ぽつりと言った。


「黒鉄商会の連中、ここ最近、頻繁に、鉱山の奥から荷物を運び出してるらしい。それも、夜中にこっそりとな」


「夜中に……?」


「ああ。普通の商売なら、堂々と昼間にやりゃいい話だ。それを、わざわざ人目を避けてやってるってのは、よっぽど後ろ暗いことをしてる証拠だろうよ」


 オーウェンの証言に、一同はさらに緊張を強めた。


「オーウェンさん、ありがとうございます。すごく参考になります」


「礼はいらねえよ。それより、無茶だけはするなよ。お前らのことは、俺も、ここに来る前から見てきたガキどもと同じように、心配してるんだからな」


 その言葉に、ルートは温かい気持ちで頷いた。


「今日、その商館を調べてみよう。ただし――」


 アシュルが、真剣な表情で続けた。


「相手が運営関係者だとすれば、生半可な調査では、すぐに気取られる。慎重に、周到に動く必要がある」


「どうやって調べる?」


「まずは、外から観察する。商館の出入り、警備の様子、そういったものを、じっくりと見極めるべきだ」


 アシュルの提案に、一同は頷いた。


 その日の午後、ルートたちは、倉庫街の物陰に身を潜めながら、問題の商館を観察することにした。大きな石造りの建物は、外見こそ普通の商館のようだったが、よく見ると、窓には全て、分厚い鉄格子が嵌められていた。


「あれは、明らかに、普通の商館の造りじゃないな」


 ゼクスが、小声で呟いた。


「ああ。まるで、何かを閉じ込めておくための建物みたいだ」


 ルートの言葉に、シィナが息を呑んだ。


「もしかして、リュゼリアさんが、あの中に……」


「可能性は高い。だが、確証はまだない」


 アシュルが、冷静に状況を分析しながら言った。


 物陰に潜んだまま、時間はゆっくりと過ぎていった。ルートは、緊張と焦りを抑えながら、じっと商館を見つめ続けていた。


「なあ、ゼクス。大丈夫か」


 ルートが小声で尋ねると、ゼクスは、硬い表情のまま頷いた。


「大丈夫…なわけ…ねえ…。……こうしてじっと待ってるだけの時間が、一番きつい」


「うん、分かるよ」


「早く、あの中に踏み込んで、リサを連れ出してやりたい。だが、頭では、今は我慢すべきだって分かってる」


 その葛藤を滲ませる声に、シィナが、静かに寄り添うように言葉をかけた。


「ゼクスさん、私たちも、同じ気持ちです。だからこそ、確実に、リュゼリアさんを助け出せる方法を選びましょう」


「……ああ、そうだな」


 しばらく観察を続けていると、商館の裏口から、フードを被った数人の人影が出入りしているのが見えた。その動きは、明らかに一般的な商人のものとは異なり、統率の取れた、訓練された者たちの所作だった。


「あれは、運営の関係者で間違いなさそうだな」


 アシュルの言葉に、ルートは拳を握りしめた。


「今すぐにでも、突入したい気持ちはあるけど……」


「気持ちは分かるが、冷静になれ。今の戦力で、正面から突っ込めば、返り討ちに遭う可能性が高い。それに、リュゼリアが人質に取られるような事態になれば、取り返しがつかない」


 アシュルの忠告に、ルートは深呼吸をして、逸る心を抑えた。


「そうだね……。慎重に、動こう」


 一行は、しばらくの間、商館の警備パターンや、人の出入りする時間帯などを、根気強く観察し続けた。フードの人影は、おおよそ二時間おきに交代しているようで、その間隔や人数を、シィナが丁寧に記録していく。


「これで、ある程度の傾向が掴めそうですね」


「ああ。地道な作業だが、無駄にはならないはずだ」


 アシュルの言葉に、一同は頷きながら、さらに観察を続けた。

 日が暮れる頃、ようやく、ある程度の規則性が見えてきた。


「どうやら、夜間は警備が手薄になるようですね」


 シィナが、記録した情報を確認しながら言った。


「夜半過ぎ、警備の交代のタイミングで、一瞬だけ、裏口の監視が手薄になる時間帯がある」


 アシュルの分析に、ゼクスが身を乗り出した。


「そこを突けば、中に入れるってことか?」


「可能性はある。だが、もう少し、確実な情報が欲しい。特に、建物内部の構造だ」


 その時、ルートの視界の端に、見覚えのある人影が映った。


「――あれ、ラーグさん?」


 少し離れた場所から、フードを被った人物が、こちらに向かって歩いてきていた。


「奇遇だな。お前たちも、この商館に目をつけていたか」


 ラーグは、静かにそう言いながら、一行の元へと歩み寄ってきた。


「ラーグさん、この商館のこと、知ってるんですか?」


「ああ。運営の非公式な物資調達、そして――『特殊素材』の一時保管に使われている拠点の一つだ」


「特殊素材、って……」


「お前たちの探している女性、リュゼリアも、恐らく、その『特殊素材』として、この施設のどこかに、囚われているだろう」


 その言葉に、ゼクスが思わず前に出た。


「本当か!? リサが、ここに……!」


「断定はできない。だが、可能性は高い」


 ラーグは、懐から、一枚の図面を取り出した。


「これは、この商館の、大まかな内部構造図だ。私の伝手で、なんとか手に入れた」


「ラーグさん……」


「地下に、隔離用の施設があるようだ。恐らく、そこに、彼女は囚われているだろう」


 その情報に、一同の間に、緊張と共に、希望の光が灯った。


「これなら、計画が立てられる」


 アシュルが、図面を覗き込みながら、真剣な表情で呟いた。


「だが、油断はするな。この施設には、それなりの戦力が配置されているはずだ。特に――」


 ラーグが、言葉を切り、深刻な表情で続けた。


「リュゼリアの力を研究するために配置された、特別な監視者がいる可能性がある。彼女の力は、それだけ、運営にとって価値のあるものだということだ」


 その警告に、ルートたちは、緊張した面持ちで顔を見合わせた。


「いつ、決行する?」


 ゼクスの問いに、アシュルは、しばらく考えた後、答えた。


「明日の夜、警備の手薄になる時間を狙う。それまでに、装備と作戦を、完全に整えておく必要がある」


「分かった」


 一同は、それぞれの覚悟を胸に、明日の夜への準備を始めた。


 宿に戻った一行は、部屋に集まり、ラーグから受け取った図面を広げながら、具体的な作戦を練り始めた。


「この図面を見る限り、地下への入り口は、恐らくここだ」


 アシュルが、図面の一点を指し示した。


「一階の警備を突破した後、この階段から地下に降りる。だが、地下には、恐らく、さらに厳重な警備が敷かれているはずだ」


「俺とアシュルが、正面から突破する。その間に、ルートとシィナで、リサの捜索と救出を頼めるか」


 ゼクスの提案に、ルートは頷いた。


「うん、任せて。シィナ、一緒に頑張ろう」


「はい、私も、全力を尽くします」


 シィナが、力強く頷き返した。


「もし、想定外の事態が起きた場合は、無理をせず、一旦撤退することを優先しろ。リュゼリアを助け出すためとはいえ、お前たちが命を落としては、元も子もない」


 アシュルの忠告に、全員が真剣な表情で頷いた。

 作戦の詳細を詰め終えた頃には、既に夜も更けていた。それぞれが装備の最終確認を行いながら、明日への緊張を、静かに高めていく。


「なあ、アシュル」


 ルートは、装備を整えながら、隣にいるアシュルに声をかけた。


「明日、僕たち、ちゃんとリュゼリアさんを助け出せるかな」


「不安か」


「うん、正直、少し」


 その素直な吐露に、アシュルは、優しく微笑んだ。


「大丈夫だ。お前は、この数週間で、着実に力をつけてきた。それに――」


 アシュルは、ルートの手を、そっと握った。


「私が、必ず、お前を守る。だから、恐れず、前だけを見ていろ」


 その言葉に、ルートの不安が、少しずつ和らいでいくのを感じた。


「うん。ありがとう、アシュル」


「礼を言うのは、まだ早い。全てが終わった後に、改めて言え」


 いつもの素っ気ない口調だったが、その手の温もりは、これまでにないほど、優しく、力強かった。


 宿への帰り道、ゼクスは、静かに夜空を見上げていた。


「リサ……もう少しだけ、待っててくれ」


 その呟きに、ルートは、そっと彼の肩に手を置いた。


「絶対に、助け出そう」


「ああ」


 二人の決意を乗せた夜空に、二つの月が、静かに輝いていた。

リュゼリアやっと救出!!!!できるのか!!!!

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