第18話「集まる情報」
街に戻ったルートたちは、まず月見亭へと足を向けた。玄関をくぐると、オーウェンが驚いたように顔を上げる。
「おう、帰ってきたか。……なんだ、ゼクスとシィナも一緒に泊まるのか」
「実は、色々あって。少し詳しい話、聞いてもらえますか」
ルートの言葉に、オーウェンは何かを察したように頷き、食堂の奥の個室へと案内してくれた。
そこで、ルートたちはこれまでの経緯――行方不明者の真相、この世界が実在する世界であること、運営の思惑、そしてイグナイトへ向かう計画――を、かいつまんで説明した。
全てを聞き終えたオーウェンは、しばらく黙り込んだ後、深く息を吐いた。
「……そうか。薄々、只事じゃねえとは思っていたが、そこまでの話だったとはな」
「オーウェンさんは、信じてくれるんですか?」
「信じるも何も、お前らの目を見りゃ分かる。嘘をついてる目じゃねえ」
オーウェンは、腕を組みながら、真剣な表情で続けた。
「それに、俺も宿屋を長年やってりゃ、妙な話は色々聞いてきた。運営とやらが、この世界にとって『招かれざる客』だってのも、なんとなく察しはついてた」
「オーウェンさんも、何か知ってるんですか?」
「知ってるってほどじゃねえが……昔から、この街の周辺じゃ、奇妙な噂があった。『空から来た者たち』の話だ」
その言葉に、ルートたちは思わず顔を見合わせた。
「空から来た者たち……?」
「ああ。数十年前から、時折、この世界に不釣り合いな知識や技術を持った人間が、忽然と現れることがあったらしい。詳しいことは、俺も又聞き程度にしか知らねえが」
オーウェンの話に、アシュルが静かに口を挟んだ。
「それは、恐らく、初期の『座標』を通じて、偶然この世界に迷い込んだ者たちのことだろうな」
「アシュル、それって……」
「運営が意図的にシステムを構築する前から、この座標は、不完全ながら存在していたのだろう。偶発的に、僅かな者が、こちら側に渡ってきていた可能性がある」
その推測に、オーウェンは驚いたように目を見開いた。
「なるほどな……。ってことは、俺たちが思ってるより、この現象はずっと昔から続いてたってことか」
「かもしれない」
その情報に、ルートは新たな緊張感を覚えた。運営が意図的に始めたことだと思っていた現象が、実はもっと根深い、古くからの謎に繋がっているのかもしれない。
翌日、ルートたちはギルドを訪れ、シルヴァンとコハクにも同様の話を共有することにした。
話を聞いたシルヴァンは、これまでにない真剣な表情で腕を組んだ。
「―なるほど。まさか、そこまでの話だったとは…」
「シルヴァンさんは、驚かないんですか?」
ルートが尋ねると、シルヴァンは小さく苦笑した。
「正直に言えば、驚いてはいる。だが……実を言うと、私自身、若い頃に一度、似たような『違和感』を覚えたことがあってな」
「違和感?」
「かつて、私が召喚士として絶頂期にあった頃、ある依頼で、奇妙な人間の集団と遭遇したことがある。妙な言葉遣いで、見たこともない道具を持っていた。今思えば、あれは――」
「プレイヤー、だったのかもしれませんね」
コハクが静かに補足すると、シルヴァンは頷いた。
「そうかもしれん。当時は、深く追及もせず、そのまま別れてしまったが……」
シルヴァンは、しばらく考え込んだ後、真剣な眼差しでルートを見つめた。
「ルート殿。この話、ギルドとしても、看過できない。正式に、ギルドとして調査協力を申し出よう」
「え……いいんですか?」
「もちろんだ。この街の、そしてこの世界の平穏を守ることは、ギルドの使命でもある。それに――」
シルヴァンは、アシュルへと視線を向けた。
「規格外の召喚獣殿の力になれることは、私個人としても、この上ない光栄だ」
その言葉に、アシュルが呆れたように肩をすくめる。
「相変わらず、そこは変わらんのだな」
「当然だ! 召喚獣への愛は不変だ!」
その豪快な笑いに、その場の空気が少し和んだ。コハクも、苦笑しながら口を開いた。
「調査依頼という形で、正式に依頼票を発行しておきますね。魔物の異常発生の原因究明、そして可能であれば、行方不明者の救出も視野に入れて」
「ありがとうございます、コハクさん」
「いえ。私も、皆さんの力になりたいので」
コハクは、そう言いながら、少し照れたように尻尾を揺らした。
その後、シルヴァンから、これまでに寄せられた魔物異常発生の報告地点を、詳細にまとめた資料を受け取った。地図上には、いくつもの印がつけられている。
「これを見ると、被害の地点が、ある一定の方向に集中しているように見えるな」
アシュルが地図を指差しながら言う。ルートも、その指の先を追った。
「確かに……北東方向に、点が集まってる」
「北東、というと……」
ゼクスが呟いた。
「イグナイトの方向と、近くないか?」
その指摘に、一同は思わず息を呑んだ。
「もしかして、魔物の異常発生も、リサさんの失踪も、繋がってるのかもしれませんね」
シィナの言葉に、ルートは頷いた。
「うん。一つずつ調べていけば、きっと繋がりが見えてくるはずだ」
新たな手がかりを胸に、ルートたちは、明日からの本格的な調査に向けて、装備と準備を整えることにした。
街の喧騒の中、ルートはふと、これまでの道のりを振り返った。冴えない現実から逃げるようにこの世界に来て、気づけば、多くの仲間と、守るべきものができていた。
「アシュル、なんだか、不思議な気分だよ」
「何がだ」
「最初は、ただ自分の居場所が欲しかっただけなのに。今は、こんなにたくさんの人と繋がってる」
その言葉に、アシュルは静かに微笑んだ。
「それが、お前という人間の、本来の在り方なのかもしれないな」
夕暮れの街並みを歩きながら、ルートたちは、明日からの調査への決意を新たにしていた。




