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最弱職の召喚士ですが、初召喚で太古の神獣と契約したら現実に戻れなくなりました  作者: あげまんじゅう


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第16話「扉の起源」

野営地の焚き火を囲むように、ルート、アシュル、ゼクス、シィナ、そしてフードの人物が輪になっていた。


「まずは名乗っておこう。この程度の情報開示なら、支障はないはずだ」


 フードの人物は、静かにフードを下ろした。現れたのは、白髪交じりの短髪と、鋭い眼光を持つ、初老の男の顔だった。


「私の名は、ラーグ。かつて運営の技術部門で、中枢に近い場所にいた者だ」


「元運営の人……?」


「ああ。今は、内部から抜けて、独自に動いている」


 ラーグは、焚き火の炎を見つめながら、静かに語り始めた。


「まず、お前たちが薄々気づいている通り、この世界は実在する。お前たちの世界とは全く異なる歴史を歩んできた、独立した世界だ」


「その世界と、僕たちの世界を繋いでるのが、運営ってことですよね」


「正確には、運営が『発見した』、というべきだろう。数年前、運営の研究チームが、ある特殊な技術実験の過程で、偶然にもこの世界へと繋がる『座標』を発見した」


「座標……?」


「異なる世界同士を繋ぐ、極めて不安定な接点のようなものだ。本来なら、ほんの一瞬しか維持できない現象だったはずだ。だが――」


 ラーグは、一度言葉を切り、アシュルへと視線を向けた。


「アシュル殿。あなたの存在が、この座標を安定化させる『触媒』になっている可能性が高い」


 その言葉に、アシュルの表情が硬くなった。


「……やはり、そういうことか」


「アシュル、どういうこと?」


 ルートが尋ねると、アシュルは重い口を開いた。


「私は元々、この世界の『均衡』を司る存在の一柱だった。だが、遥か昔、ある出来事をきっかけに、力を封じられ、深い眠りについた」


「ある出来事、って?」


「今は、まだ話せん。……だが、私の目覚めが、この座標の安定化と関係しているのなら、皮肉なものだな。私を目覚めさせたお前が、結果として、多くの人間をこの世界に引きずり込む一因になったということだ」


 その自嘲めいた言葉に、ルートは首を振った。


「それは、アシュルのせいじゃないよ。運営が、その座標を利用しようとしたのが問題なんだから」


 ラーグが、静かに頷いた。


「その通りだ。座標の発見後、運営は本来なら慎重に研究を進めるべきところを、性急に『実用化』へと舵を切った。フルダイブ型VRの技術と組み合わせ、プレイヤーをこの世界へ送り込む物を急ごしらえで構築したのだまさか身体までとは思わなかったがな…」


「なんのために、そんな……」


「資源だよ」


 ラーグの声が、低く沈んだ。


「この世界には、お前たちの世界には存在しない、特殊な『力』が満ちている。魔力、あるいはそれに類するエネルギーと呼ぶべきものだ。運営の一部――特に上層部は、この力を、お前たちの世界に持ち帰る方法を研究している」


「力を、持ち帰る……?」


「詳細は、私にも全ては分からん。だが、行方不明になったプレイヤーたちの多くは、その研究のための『実験体』にされている可能性が高い。忘却の迷宮で見た、あの繭のような場所も、恐らくその一環だろう」


 その言葉に、シィナが顔を青ざめさせた。


「じゃあ、お姉ちゃんも、危うくそんな目に……」


「ああ。お前たちが救出できたのは、幸運だったと言えるだろう」


 ラーグは、焚き火の炎を見つめながら、静かに続けた。


「私を含む一部の運営関係者は、この方針に強く反対している。だが、上層部の権力は強大で、我々の声は、なかなか届かない」


「運営の中でも、対立してるんですよね」


「そうだ。お前たちを監視対象にした連中は、恐らく上層部の意向を汲んで動いている。危険因子として排除するか、あるいは利用するか…その判断を、まだ決めかねている段階だろう」


 ラーグは、そこで一度言葉を切り、真剣な眼差しでルートを見つめた。


「結城陽翔。お前と、アシュル殿の存在は、この座標の安定化における最大の変数だ。お前たちがどう動くかによって、この現象そのものの行方が変わる可能性がある」


「僕たちが、鍵ってこと……?」


「そうだ。だからこそ、上層部はお前たちを警戒している。同時に、我々のような者たちは、お前たちに希望を託している」


 その言葉の重みに、ルートは息を呑んだ。単に、自分が元の世界に戻りたいという個人的な願いだけではなく、この世界の運命、そして他の行方不明者たちの命が、自分たちの選択にかかっているのかもしれない。


「僕は、どうすればいい……?」


 ルートの問いに、ラーグは静かに首を振った。


「今すぐに、答えを出せる問いではない。だが、一つだけ言えることがある。この座標――お前たちが『扉』と呼ぶものの根源は、恐らく、この世界のどこかに実在する。それを見つけ、正しく制御する方法を見つけられれば、あるいは、全ての行方不明者を救い、正しい形で二つの世界を繋ぎ直すことができるかもしれない」


「それって、僕も、他のみんなも、元の世界に戻れるってこと?」


「可能性の話だ。だが、ゼロではない」


 その言葉に、ルートの胸に、小さな希望の灯がともった。


「その根源が、どこにあるか分かるんですか?」


「まだ、はっきりとは分からん。だが、手がかりはある」


 ラーグは、懐から古びた羊皮紙を取り出し、焚き火の光にかざした。そこには、この大陸の地図と、いくつかの印が記されていた。


「行方不明者の発生地点、そして異常な魔力反応が観測された地点を重ねると、ある一つの地域に集中していることが分かる」


「ここは……」


「大陸最果ての地、『忘却の大迷宮群』と呼ばれる地域だ。忘却の迷宮も、その入り口の一つに過ぎない」


 その地図を見つめながら、アシュルが小さく息を呑んだ。


「アシュル、知ってるの、その場所?」


「……ああ。私が、かつて封印されていた場所に、近い」


 その一言に、その場にいた全員が、緊張した面持ちで顔を見合わせた。


 しばらくの沈黙の後、それまで黙って話を聞いていたゼクスが、信じられないというように頭を振った。


「待ってくれ。ちょっと、整理させてくれ」


「ゼクス?」


「お前らが、別の世界から来た『プレイヤー』だってのは、まあ、なんとなく察してた。だが……運営とかいう連中が、俺たちの世界に土足で踏み込んで、勝手にこの世界の力を奪おうとしてるって話か? しかも、行方不明になってる連中を、実験体にしてるかもしれないって?」


 ゼクスの声には、隠しきれない怒りが滲んでいた。


「リサも、もしかしたら、そんな連中に……」


 その名前を口にした瞬間、ゼクスの拳が、強く握りしめられた。ラーグは、静かにその様子を見つめながら、頷いた。


「可能性は、否定できない。すまないが、今の段階で、断定的なことは言えない」


「くそ……」


 ゼクスは、しばらく俯いたまま、荒い息を整えていた。ルートは、そんな彼にどう声をかければいいか分からず、ただ静かに見守るしかなかった。


「ゼクス……」


「――ああ、悪い。少し、頭を冷やす」


 ゼクスは立ち上がり、焚き火から少し離れた場所に移動した。夜空を見上げながら、拳を握ったり開いたりを繰り返している。


 ルートは、少し迷ってから、彼の隣に歩み寄った。


「ゼクス、大丈夫?」


「大丈夫なわけ、ないだろ」


 ゼクスは、吐き捨てるように言った。だが、その声には、怒りだけでなく、深い戸惑いも滲んでいた。


「俺は、ずっとこの世界で生きてきた。運営なんてもんは、正直、遠い噂話くらいにしか思ってなかった。それが急に、俺の育ての親を巻き込んでる張本人かもしれないって言われて……頭が、ついていかねえよ」


「うん……当然だと思う」


「お前らは、その運営とやらの世界から来たんだろ。なのに、なんで平気な顔してんだよ」


 その問いに、ルートは少し考えてから、正直に答えた。


「平気なわけじゃないよ。僕だって、自分の世界がそんなことしてるなんて、信じたくない。でも――」


「でも?」


「運営がどんな組織だろうと、僕はもう、僕の意志で決めたいんだ。この世界の人たちを、行方不明になった人たちを、助けたい。それが、僕にできる、僕なりのけじめだと思うから」


 ルートの言葉に、ゼクスはしばらく黙り込んでいた。それから、深く息を吐き、夜空を見上げる。


「……お前、たまに、妙に真っ直ぐだよな」


「よく言われる」


「二回目だぞ、それ」


 軽口を挟みながらも、ゼクスの表情から、少しずつ険しさが抜けていった。


「なあ、ルート」


「なに?」


「俺は、お前らの世界の連中を、まだ完全には信用できねえ。だが……」


 ゼクスは、焚き火の方を振り返った。そこには、心配そうにこちらを見ているシィナと、静かに佇むアシュル、そしてラーグの姿があった。


「お前や、シィナや……あのアシュルとかいう規格外は、別だ。少なくとも、お前らと一緒にいれば、リサを見つけられる可能性が、一番高い気がする」


「ゼクス……」


「だから、一緒に行く。運営がどうとか、この世界の危機がどうとか、正直、まだ実感は湧かねえ。だが、リサを探すためなら、俺は、お前らと一緒に戦う」


 その宣言に、ルートは思わず笑みをこぼした。


「うん。一緒に行こう」


 二人は、焚き火の元へと戻った。ゼクスの表情には、まだ完全には晴れない不安が残っていたが、それでも、確かな決意が滲んでいた。


「話は聞かせてもらった」


 ゼクスは、ラーグに向き直り、真っ直ぐな視線を向けた。


「運営とやらの内情、もっと詳しく知りたい。俺の大切な人が、その渦中にいるかもしれないんだからな」


「……分かった。知っている限りのことは、話そう」


 ラーグは、静かに頷いた。その表情には、ゼクスの覚悟を認めるような、わずかな敬意が浮かんでいた。


 シィナも、二人の様子を見ながら、静かに口を開いた。


「私も、皆さんと一緒に戦います。姉を助けてもらった恩を、必ず返したいので」


「シィナさん……」


「それに、私自身、この世界の謎をこのままにはしておけません。姉のような目に遭う人を、これ以上出したくないですから」


 その言葉に、ルートは深く頷いた。四人――いや、アシュルを含めた五人の意志が、この瞬間、確かに一つに重なった。


「よし。それじゃあ、みんなで、忘却の大迷宮群を目指そう」


 ルートの言葉に、それぞれが力強く頷いた。焚き火の炎が、五人の顔を静かに照らしていた。


 物語は、いよいよ、この世界の核心へと近づいていく。

ゼクス…いいやん…

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