人として死ねない畜生
山中で夜を明かし、僕達は森の中を歩いていた。
岩が少なくなったと思ったら今度は森や林だらけで蒸し暑い。
「あ、暑い・・・フレインは暑くないの?」
モフモフの毛皮に包まれたフレインに質問すると、フレインは笑みを見せた。
「あぁ、暑くないねぇ。鍛錬の仕方が違うからな」
「嘘よ、セイ。こいつ月の力で涼んでるわ」
女教皇の力を使い目を緑に光らせたミラがフレインの嘘を見抜くと、フレインは誤魔化すように笑った。
「アハハ、悪い、悪い。ほらお前らにも月の氷で涼ませるからさ」
フレインはそう言うとポケットに入れていた月のカードを出した。
月のカードからはひんやりとした冷たい風が出ていた。
まるで小さいエアコンのようだ。
「ずるいなぁ〜フレインは」
「ごめんって」
そんなことを話して歩いていると、地面を割るようにできた崖が目の前にで来ていた。
下は川が流れており、水の音が聴こえる。
「崖か・・・近くに橋があるかもね。どっちにいこうかしら、ねぇセイ?」
ミラが話しかけてきたが僕の心はその言葉に答えを返す余裕はなかった。
――この場所に見覚えがあったからだ。
始めてこの世界に来た時に、仮面の男に追いかけ回され突き落とされたあの場所だ。
「セイ聴いてるの?」
ミラの言葉にふと我に返った。
「・・・え? あぁ、うん」
「大丈夫か? 坊主」
「だ、大丈夫」
二人が心配した様子で僕の顔を見てくる。
今どんな表情をしているのかすら、自分でもわからない。
不安になることはあっても不安を表情に出すことがなかったから。
自分がどんな顔をしているのかわからずに顔に触れようとした時――。
ヒュンという風を切る音が耳元を通り過ぎたのを感じた。
そして音がした物体は地面に突き刺さった。
地面に突き刺さった物体は矢だった。
「ミラ、セイ、伏せてろ! どっかから狙撃されてるぞ!」
フレインが槍を構えて、僕の頭を押さえつけるように地面に押し付けた。
ミラもフレインの言葉を聴いて地面に伏せた。
フレインは周りを見渡すと、何かを見つけたのかポケットから月のカードを取り出した。
「No.XVIII 月起動!」
フレインが持つ月のカードが水色に輝くと空中に氷柱を作り出した。
フレインが方向を指差すと、氷柱は指を指した方角へと飛んでいった。
氷柱は森の中へと飛んでいくと、遠くで氷柱が何かに刺さったような音が木霊してきた。
「強盗騎士団かもな、仕方ねぇ。崖に氷の橋をかける! ここを渡るぞ!」
フレインはそう言うと月のカードを振った。
離れた崖を繋ぐように氷の橋ができた。
「この橋はそんなに持たねぇ。嬢ちゃん先行け!」
ミラは先に氷の橋を渡るが、橋が氷でできているため滑らないように慎重にゆっくりと渡っていた。
ミラが氷の橋を渡りきったことを確認すると、僕も氷の橋の上を歩く。
足の裏に力を入れないと滑って崖から落ちてしまいそうだ。
橋の中心まで来た時だった、矢が飛んできた後ろの森から何人かの足音が聞こえてきた。
森の中から足音を立てながら白い鎧を身に纏った男達が出てきた。
鎧には金色の荊棘があしらわれていた。
前にも見たことのあるエンブレム。フォーチュン王国の騎士達だ。
「おやおやこれは女と子供・・・そして畜生一匹とは」
一人の男がゆっくりとこちらに歩みを進める。
細い目に嫌味そうに笑った顔、金色の長い髪をした男だった。
「フォーチュン王国騎士団長・・・リューン・アベルタ」
「畜生にまで私の名が知れ渡っているとは・・・私も有名になったものだ」
「その挑発をやめろ! 獣人を舐めてると首の骨へし折るぞ!」
フレインは鋭い牙を口から覗かせ、毛皮は逆立っていた。
「首の骨をへし折る? 食い殺すの間違いでは! 人として死ぬことのできない畜生風情が」
「貴様! 言わせておけば!」
フレインが槍を構え、リューンに突進した時だった。
リューンは腰に携えた剣を抜くこともせず、ポケットから一枚のカードを取り出した。
そのカードには灰色の石で作られた塔が描かれていた。
その塔には落雷が落ちている。
「No.XVI 塔起動・・・」
カードから灰色の光が輝くと、フレインの足元がオレンジ色に光出した。
オレンジ色の光は大地を突き破り、まるで大地のエネルギーをフレインにぶつけるように爆発した。
「ぐわぁぁぁぁぁ!!」
「フレイン!」
フレインは足元のオレンジ色の爆発を喰らい吹き飛ばされた。
そして崖下へと落ちていった。
「うわぁ!?」
フレインが崖下に落ちると同時に足元の氷の橋が砕けた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
僕はフレインの後を追うように崖下へと真っ逆様に落下していった。
「セイィ! フレイン!」
最後に聴こえたのはミラが僕達の名前を呼ぶ声だった。
それが聞こえたのを最後に再び僕の体を冷たい川の水が包み込んだ。




