果てない願い
川のせせらぎで目を覚ました。
目の前には穏やかに流れる川と石が地面に転がっている。
「目覚ましたか坊主」
声がした方を見ると、水に濡れて体毛がしんなりとなっているフレインが座っていた。
黒い体毛が身体にぴったり張り付き、見慣れたシルエットが細身に変化している。
「・・・ここは?」
「崖下の川だな、結構流されちまった」
「ミラは!?」
「さぁな・・・崖下に落ちたのは俺と坊主だけだからな」
「ミラ・・・」
「あの嬢ちゃんなら大丈夫だろう。奴らとは崖を挟んでいたし、隠者のカードも持ってる。逃げ切るのは用意だろう」
「そうかな・・・」
確かにカードを持っているとはいえ、ミラは女性だ。
剣で武装したあの騎士達に捕まったら力では対抗できないだろう。
「まぁ嬢ちゃんを信じて俺たちも強盗騎士団の根城に向かうしかないな・・・その前に休憩が先だが」
そう言うとフレインは石の上で横になった。
「落ちた時どこか打ったの?」
「いやあの騎士が持っていたカードのダメージが残ってる。この崖を登る体力は今の俺にはない」
「そっか・・・」
ミラのことが心配だが今はフレインの回復を待つしかない。
僕一人で先へ行ったとしても強盗騎士団の根城はわからないし、あの騎士達をどうすることもできない。
僕とフレインの沈黙の間を川の音が誤魔化すように響き渡った。
「・・・坊主。坊主はカードを集めて何を願うんだ?」
沈黙を破るように口にしたフレインの言葉に僕は考え込んだ。
「カードを集めて何を叶えるのか・・・か」
確かに考えたことがなかった。
なんとなくミラに言われてここまでついてきたが、願いなんて考えてもいない。
それにミラの願いも聴いていない。
「記憶を取り戻したいかな・・・ここに来てからの記憶がないから僕がここに来る前に何をしていたのか知りたい」
「・・・そうか。自分の存在に対する解答が願いか」
「そういうフレインは何を願うの?」
僕の質問にフレインは横たわりながら静かに目を閉じた。
そしてゆっくり目を開けると空を見つめた。
「人として死にたいのさ」
「人として・・・死にたい?」
「そうだ。俺たち獣人は最後人の姿で死なない・・・だから人の姿で死にたいんだ」
フレインの声色はどこか悲しそうだった。
まるでどうすることできない運命を知っているようなような、川の流れに必死に抗うような、そんな世界のことわりを壊そうとしているように感じた。
「獣人としてせめて獣としてではなく人として死にたい・・・それが俺の願いだ」
「人として死にたい・・・」
何故だろうフレインの願いを聴くと、自分も近しいよな経験をしたことのあるように感じる。
人として死なないことが、苦痛であることを知っているような気がする。
「まぁ過ぎた願いだな。坊主もう少し休んだら崖を登るぞ」
「崖を登るってどうやって?」
フレインは濡れたズボンのポケットから一枚のカードを取り出した。
「月で氷の足場を作って上に登る」
「なるほど、だけど強盗騎士団の根城はどうするの?」
僕の質問にフレインはニヤリと笑うと、自身の鼻をトントンと指で叩いて見せた。
「狼の嗅覚を舐めるなよ」
「そ、そうかその手があったか!」
僕とフレインは氷の足場を形成し崖を登ると、フレインの鼻を頼りに森の奥にある強盗騎士団の根城へと向かった。




