カードの力
ミラに連れられて、外に出ると大きな湖が目に写った。
目が眩むほどの日差しが、湖に反射しキラキラと水面を輝かせていた。
太陽の光が皮膚をジリジリと焼く感覚。眩しすぎる光が目を眩ませる。
光から逃げるように視界を後ろにやり、振り向くと木製の家が建っていた。
どうやら寝ていた場所は湖のほとりに建設された木製の家だったようだ。
「しかし、あんた変わった顔してるわね。顔が平たいし、髪も黒いし他のところから来たの?」
「え、髪?」
ミラの言葉を聴いて、顔の輪郭を両手でなぞるように触れる。
弾力のある頬、艶やかな肌、そして手に触れる糸のようなサラサラの髪。
湖の水を鏡のように反射させて、自身の顔を見てみると見覚えのない顔が写っていた。
いや見覚えがないわけではない。自身の顔だ。
あどけなさを残した、十代後半のような顔。
だけどこんな顔ではなかったような気がする。髪もここまで伸びていなかった。
いやこんな顔にはなれなかったんだ。
ここまで成長することはなかったんだ。
栄養が足りずに痩せ細っていたから。
「大丈夫?」
ミラの声で我に返った。自身の顔が写った水面から目線を離し、ミラの方を見る。
「う、うん大丈夫。ちょつとボーッとしてた」
「ならいいけど」
ミラはそういうと湖の奥を見るように、遠くを見始めた。
「これからどうするの? ミラ」
僕の問いかけに、湖を見ていたミラは振り返ると指を二本立てた。
「カードを集める。だけどそのためには二つの勢力を出し抜かなきゃいけない」
「二つの勢力?」
ミラは指を一本折って見せた。
「一つは巷を騒がせてる強盗騎士団。略奪を生業としている騎士崩れの集団。こいつらは情報によると三枚ほどカードを持っているらしいわ。そしてもう一つは――」
ミラが指を折ろうとした瞬間だった。後ろから金属が擦れるようなガチャガチャという音が響いてきた。
後ろを見ると、白い鎧を着た男達がこちらに向かって歩いてきていた。
白い鎧には金色の荊棘が巻きついたようなデザインと、薔薇の花のエンブレムが胸に刻印されていた。
「もう一つの勢力はあれよ。フォーチュン王国。彼らもカードを集めて国力の拡大を目論んでいる」
鎧を着た男達は五人おり、僕たちの前で立ち止まった。
「ミラ・リキッドだな?」
「ええ、そうよ」
ミラはあっさり素性を明かした。
それを聴くと男達は腰に下げた剣を一斉に抜いた。
「王国より、貴様を捕縛せよと命を受けている。おとなしく同行願おう」
「断ったら?」
なぜかミラは余裕そうにしていた。腰に下げた鞭にすら手をかける様子はない。
「手足を切って連行する。私は王からカードも預かっているしな」
「あっそ・・・なら遠慮はいらないわね」
ミラは腰のカードケースのような箱から、一枚カードを取り出した。
カードの裏にはⅥと刻印されており、表側には愛し合っている男女とその頭上には、ピンク色の大きなハートが浮かんでいた。
「No.Ⅵ恋人起動」
ミラの言葉と共に、カードがピンク色に光だした。
光はミラの手に溶け込むように、一体化した。
そしてミラは手をピストルのように親指を立て、薬指を銃口に見立てて、鎧を着た男達に向けた。
「バン!」
ミラの言葉と共に指の先からハートの弾丸が打ち出された。
ハートの弾丸は、先ほどまで話していた男に命中し、男は吹き飛ばされ地面に倒れた。
「バン! バン! バン! バン」
ミラは続いて鎧を着た男達にハートの弾丸を命中させた。
男達は次々に地面に倒れていく、撃たれた箇所から出血はなく、苦しそうな様子もなかったが、明らかに男達は気を失ったように倒れていた、
「急に殺すことないじゃないか!?」
汗を垂らしながら、ミラに話しかけるとミラは薬指の先にフッーと息を吹きかけた。
「殺してないわよ」
「え?」
男達は突如ゾンビのように起き上がった。
まるで糸で吊るされた人形のように、重力に逆らって立ち上がる。
そして目がとろけたように、虚な目をしていた。
「ミラ様〜愛しております〜」
「は?」
男達は突然、愛の言葉を吐き始めたのだ。
明らかに様子がおかしい。先ほどまでとは目が違うし、まるで別人のようだ。
「恋人はね、手から弾丸を放てるの。その弾丸に当たると相手は私に惚れてなんでも尽くしてくれるの。異性限定だけど」
ミラの手の平から、恋人のカードが出てくると、ミラはそれを腰のカードケースにしまった。
「ほら、カード持ってるでしょ。よこしなさい!」
「は〜い」
男はポケットからカードを取り出し、ミラはそれを受け取ると、女王様のように男の顎に蹴りを浴びせた。
男は蹴られた勢いで後方に吹き飛び、頭を打つが目はとろけたままだった。
ミラは受け取ったカードを眺めると、僕にカードを渡してきた。
「これは私じゃあ使いこなせないわね」
差し出されたカードを受け取ると、そこには力と書かれていた。
カードには犬のような獣を撫でる少年が描かれている。
裏面にはⅧと刻まれている。
「さぁあなた達、ぐずぐずしてないで拠点に戻って問題なしって報告しなさい」
「「「「「了解いたしました」」」」」
鎧を着た男達はミラに向かって敬礼すると、隊列を組み、元きた道を戻っていった。
僕はもらったカードを眺めながら、手触りを確かめる。
薄い紙ではなく、ラミネート加工されたような厚みのある紙。
力を込めれば折り曲げられるだろうが、元の形にすぐ戻りそうな固さを感じる。
「せっかくだから使ってみたら。カード」
ミラに言われ、僕はカードを指に挟み言葉を口にした。
「No.Ⅷ力起動」
カードの名前を口にすると、カードが赤く光だし、身体が赤い光に包まれた。
だがすぐに光は小さくなった。
特に身体に変化はなく、発光している部分もない。
ただ身体の底から力が溢れ出てくるような、生命力が満ち溢れるような感覚が身体を包み込んでいる。
近くにあった大岩を両手で覆うように掴んでみた。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
そんなに力を込めていないのに、大岩を持ち上げられた。
そして少し力を込めると大岩は粉々になった。
「す、すごい。これが力!」
「どうやら力は純粋な力の強化のようね」
「あれ? 力が抜けていく」
入っていた力が急に抜けて、倦怠感が襲ってきた。普段筋肉なんて使っていないからだろうか。
「あまりそのカードは身体に合わないような。多用しないほうがいいわ」
「う・・・そんなこともあるんだ」
ミラから手を差し出され、ミラの手に掴まりながら家の中に入ってベッドに横になった。
「これからどうするの?」
「王国からすべてのカードを奪うのは難しいし、さっきの騎士達がここに戻ってくるかもしれない。まぁここは借宿だけど」
ミラは外の湖を見てから、僕のベッドの前に歩いてきた。
ベッドに横になっている僕の足元に座ると、ミラは薬指を一本立てて見せた。
「まずはベンデガネという街を目指すは、そこで傭兵を雇う」
「傭兵!?」
「私達に足りないのは力! 王国の騎士やカードを奪いにくる刺客に対抗する力が必要なの。そのために傭兵を探すわ」
「なんでミラはそんなにカードを集めたいの? 何か叶えたい望みがあるの?」
僕の言葉にミラは目を逸らした。どこか悲しそうな顔をした後、誤魔化すように笑みを見せた。
「教えない・・・秘密のある女の方が色っぽいのよ」
そう話すと、ミラは部屋から出ていった。
窓の外を見ると、ミラは湖を見ながら黄昏ていた。
疲れた身体が眠れと瞼を重くする。
意識を眠気に任せて、眠りについた。
昔はなかなか眠れず、一人で孤独な夜を過ごしたなぁ。
寒くて、誰も話しかけてくれなくて寂しかった夜。
それが嫌で、それが悲しくて話し相手が欲しかった。
そのために友達を作ろうと頑張っていた。
毎日少ない体力を使って組み立てて、ようやく完成したんだ。
もう何を作っていたのかは思い出せないけど、作り上げた時とても嬉しかったんだ。
「ねぇそうでしょ。アルカナ・・・」
自分が無意識口にした言葉を最後に眠りについた。
それが物なのか、それとも人の名前なのかは思い出せないけど、その名前が自然と口に出た。




