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暗闇にいた

 目が覚めて最初に写ったのは、満点の星空だった。

 月の明かりと星の煌めきが夜空を彩っていた。

 重い身体を起こして、辺りを見渡すと果てしない暗闇が広がっている。

 最初に抱いたのは違和感というか、既視感。

 つい先ほどまで似たような同じ色に囲まれた場所にいたような気がするが思い出せない。

 突然頬に熱い感覚が伝ってきた。


「・・・涙?」


 自身の目から涙が垂れてきたことに気がつき、手で擦るがとめどなく流れてくる。

 理由はわからない――だけどとても悲しかったことだけは覚えている。

 心の中に穴が空いたような空虚な感覚と、悲しみで押しつぶされそうになっていた不安。

 何に対してかは思い出せないが、涙が流れてくる。

 涙を拭いて、潤んだ目が暗闇に慣れるころにはここがどこかわかった。

 ここは夜の森だった。周りには木々や草が生い茂っている。

 少なくともこの場所には見覚えはない。

 とりあえずこの場所から離れようと立ち上がると何か違和感があった。


「身体・・・こんなに軽かったっけ? それに寒い」


 何故か着物のような白く薄い服を着ていた。

 それに久しぶりに身体を動かしたような、自身の身体に懐かしさを感じた。

 何故こんな森の中に倒れていたのか、こんな服で寝かせられていたのか、そんな疑問を浮かべながらも森を歩く。

 とりあえず誰か人がいないか探さなければ、こんな夜の森の中で一晩過ごしたら凍え死んでしまう。

 方向もわからず歩いていると、ガサッという音がした。

 振り返ると、人影がそこにはあった。

 青い長い髪を後ろで纏めた、三十代の男。胸部を覆う軽装鎧と仮面舞踏会でつけるような銀の面が顔半分を覆っている。腰には鞘を下げていた。

 何故か中世のような剣を抜刀しており、顔がこわばって見えた。


「よかった! あの、ここってどこなんですか?」


「お前・・・カードを持っているな?」


「え?」


 目の前の仮面の男の言葉に疑問が浮かんだ。カードなんてもっていない。

 この服にはポケットなんてないし、ましてや持ち物なんて何もない。


「言っている意味がわかりません!」


「問答無用」


 仮面の男が剣を真一文字振りはらった。

 

「うわぁ!?」


 間一髪のところで剣を避け、必死に森の奥へと走って逃げる。

 何がなんだがわからないが、あの仮面の男だけはやばい。

 それだけは理解できる。

 神経が身体中を駆け巡り、脳に訴えかける。命を失いたくなければ逃げろと。

 腕と足を必死に動かして、暗闇を駆ける。

 あれ? こんなに腕や足は動かせたっけ? 

 こんなに腕や足に筋肉がついていたっけ?

 もっと細くて、もっと関節は強張っていたような。

 元々こんなに動かなくて、皮と骨しかなかったような。

 

「痛っ!」


 そんな疑問を忘れさせるかのように背中に痛みが襲った。

 背中から熱い液体が身体を垂れてくるのがわかった。

 いつのまにか背中を斬られていたのだ。

 振り返っても何もない暗闇が広がっていた。

 だけど背中には大きな切り傷が斜めに入っている。

 仮面の男の足音がどんどん近づいてきた。

 背中の痛みに耐えながら、必死に真っ直ぐ走る。

 だがすぐに立ち止まることになった。

 目の前は崖だったからだ。崖の底は何も見えない暗闇が広がっていた。

 崖の下から激しく水が流れる音が聞こえてくる。


「ここまでだ。カードを渡せ」


 剣を持った仮面の男が追いついて来き、手を出して見に覚えもない物を要求する。


「なんのことだがわからない! カードってなんだ!?」


「あくまでもしらをきるか。なら殺して奪うまで」


 仮面の男はズボンのポッケから何かを取り出した。長方形の形をした紙だ。

 カードには魔法陣を背にしたフードを被った人物が描かれていた。手には水晶を嵌め込んだような杖を持っている。


Noナンバー.Ⅰ 魔術師マジシャン起動」


 仮面の男の言葉と共に手に持った剣が黄緑色に輝いた。

 振るった剣は虚空を斬った。

 当然剣は届かず、何も切れていない。

 すると突然目の前に星が描かれた魔法陣が現れ、そこから斬撃が飛び出した。


「うっ!!」


 剣は右胸から左腹まで切り裂いた。

 先ほどまであった魔法陣は消え、空間は何も無かったかのように元に戻っていた。

 斬られた場所から血が止まらない。

 斬られた場所が焼けるように痛い。

 だけど不思議な感覚がまた身体を襲う。

 もっと身体を斬られていたような、何かを取り付けるために。

 ――何度も。

 ――何度も。

 ――何度も。

 思考が現実に戻る頃には足がよろめいていた。

 力が抜けた体は後ろに倒れようとしていたが、それを止める力は残っていなかった。

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 足を滑らせ、崖下に真っ逆さまに落ちていった。

 最後に見たのは崖下を覗き込む僕を斬った仮面の男と、何度も見慣れている暗闇だった。

 冷たい水に身体が包まれると、沈むように意識が途絶えた。

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