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状況の激変 思考の混乱と統一



 「魔王だから、そんくらいはするだろうけどよ、やりすぎじゃね?」



 若干、呆れた様な声を上げるのは、鬼人殿。 圧倒的魔導技術の前に声を出す事すら忘れていた私は、彼の反応に心を取り戻す。 そうなのだ。 その通りなのだ。 サーバント族の初老の外見を持つ個体は、事も無げに言葉を紡ぐ。 それが、さも当たり前だと云うように。 圧倒的な技術水準の違いを、サーバント族のその男は、全く意に介していない。



「いわば、貴方方は我が主の御客人でも有るのです。 この様な場所では御座いますが、一時…… 滞在されるには必要かと? 敵意をお持ちならば、友好的とも好戦的とも判断の付かぬ方々ですので、此方としても、中枢にお招きする訳には行きません。よって、一定の距離は必要と成ります。 礼を失しない様に、しかし、警戒は解かず。 妥当に御座いましょう?」



 鬼人と初老の外見を持つ個体が言葉を紡ぐ。 その言葉を、鬼人は面白そうに聞いている。 現出した建物を見ながら鬼人殿は更に言葉を吐いた。それを受けて初老の外見を持つ個体は、至極もっともな事を口にする。



「優位性を見せつけんのが、そっちの流儀か?」


「その様な意図は御座いません。 ただ、状況を鑑み適切な判断を下した迄です」



 私にも疑問が生まれる。 単なる一時逗留場所として提供するならば、この様な巨大且つ立派な建物でなくともよいのではないか。 奈辺にこの建物を用意した意図が有るのか。 思わず疑問を口にしてしまった。



「確かに、言葉を額面通りに受け取るならば、その通りです。 ですが、これ程迄に大きな建物である必要は有るのでしょうか?」


「そちらの人員、敵対者の人員を収容するには、これくらいの容積は必要と判断いたしました。 また、其方の御仁が先程述べられたように、貴方方にとってこの場所の『イド』濃度は致命的に高いとの事。 さすれば、密閉空間を作り、『イド』の侵入を留めれば宜しいのでは?現在この建築物は、密閉空間となっております。外気導入部分は提示可能です。なにか、其方で『イド』の濃度を下げる方策あらば、使用して頂いても構いません。万が一、爆発物でもこの建物の耐爆強度を上回る爆発物は、作り出す事は困難です。」


「魔力濃度を何処まで下げるかは、我々が決めよと、そう申されるのか」


「合理的判断に御座います。 私はあなた方種族の事を認知しておりませんので、何処までご用意するか判っておりませんので」


「もう一つ…… 邸内が安全だと云う保障はあるのですか」


「信義…… と云う事で。 要らぬ争いを止めて下さった、其の御礼でも有るのですよ」


「成程。 理解しました。 では、其方の鬼人御仁は如何します? お仲間は今も未だ予断は許されない状況。 如何します?」


「お前が、寝台まで用意してくれたんだ。 雨露凌げるなら、それだけで十分なんだがな」


「そうもいきません。 入口左側は貴方達襲撃者の身体に合わせて調整しております。 濃い『イド』により、狂戦士化(バーサーク)されても困りますので」


「そうかよ。 まぁ、妥当だな。 お前、ちょっとは此処の『イド』濃度は下げられるのか?」


「聖水と蓄魔池と【充魔】の魔道具を使えば…… ですかね」


「半分くらいに成らねぇか?」


「十分に」


「なら決まりだ。さて、アイツ等を運ぶか」


「御随意に。 こちらでお部屋の方は用意いたします」



 注意深く、その建物を観察する。 別段、何が在る訳でもない。 建物の構造とその耐久力をざっくりと確認する。 驚くほど整った建物。魔法を駆使し、この建物を作り上げた初老の外見を持つ個体の仲間達は、既に建物の中に入り我等の到着を待っているかのようだった。王宮の女官、侍従達と遜色ない優雅な動きと、仕える者の貞淑さを醸す者達の一糸乱れぬ動きには、感動すら覚えている。


 ——— が、それでも尚、私は戸惑っている。


 完全では無い。 万が一交渉が決裂した場合、この建物は罠の館(トラップハウス)と変化する。 入る事も、出る事も叶わない、危険な罠と成り得るのだ。鬼人の彼が、仲間達を寝台ごと抱え持ち、館の中に入っていく。 促されるままに、邸内の然るべき場所に連れて行ったようだ。 きっと医療も受けられる環境を整えているのだろう事は想像に難くない。 一応、客人として迎えてくれた、『魔王』とやらの好意だろう。 暴れられては、この場所の重要施設群に損傷が与えられ、その修復に膨大な資材と時間が掛かるのだと、言外に告げられたような気がした。


 三人の仲間達を収容した後、鬼人の彼はもう一度私の前に立つ。



「お前んところも、中で寛げば? なかなか、良い邸だぜ?」


「我等は、貴方方ほど個体強度は強くありません。 この建物に捕らわれた場合、速やかに脱出できるとも思えません」


「好意は受け取って置くもんだぜ? それにな、お前の後ろに立っている奴…… 早めに『イド』濃度の低い場所に連れて行かにゃな」


「『我が佳き人』がなにか?」


「ほう…… お前さんのパートナーって事か。 なら、アレは…… お前さんのか。 言っておく。 まだ萌芽ではあるが、既に魂は天より授けられ、肚の中に降りた。 お前さんの『佳き人』はもう一人では無い。 少なくとも、強い魂の光に小さな二つの光が生まれている。 『イド』の濃度が高い場所じゃ、肚ん中で変容して、お前さんの『佳き人』の肚が耐えられんようになる。 おいら達の間では、それが常識ってもんだ。 だから、水辺に産屋を建てて、女達は其処で共同生活するんだ」


「…………つまり」


「おめっとさん。 お前は『父』に成るんだ。母体の安全は、どんな種族でも第一義に考える事だろ?」





 ———— 思考は止まり……

         意識は白濁する。 



            『我が子』だと? 




 鬼人の目には魂が見えると云う、その事実も驚愕に値するが、その『眼』が我が佳き人の懐妊を見たのだ。 ここで鬼人の彼が嘘を吐く理由など存在しない。 通常ならば、告げもしないであろう事実を、私に告げたのは、仲間を救った恩義故か。 いや、それでも…… そうなのか?


 意識は確実に私の元に還って来た。 状況判断を下す前に、我が佳き人の姿をチラリと見る。 鬼人の彼の言葉に、驚いているのは私同様の『我が佳き人』 ここでの行動の遅滞は許されない。 何故ならば、私は『父』となるのだ。 妻の安寧を第一義にしなくては、『父』には成れない。 私の帰る場所と成った女性を護る事は、何よりも優先せねば成らないのだ。 ニヤリと嗤う鬼人から視線を外し、後方に振り返り、大声で命じる。 事は一刻を争う。 万が一を考えれば、私の行動は唯一つなのだ。 動揺を押し包む様に強く早く、言葉を紡ぐ。



「輜重隊ッ! 輜重全てを “ この邸内 ” に持ち込め。 工兵、私の元に。 猟兵隊は周辺監視。 射手隊は、周辺索敵を実施。 衛生兵長! 衛生班全員を伴い、射手長の診察を始めてくれ。 事は急を有する」



 矢継ぎ早に命令を下す。 その命令が何を意図したものかを理解した鬼人の彼は、薄っすらと笑みを、その凶悪とも云える(かんばせ)に浮かび上がらせていた。彼も又、大切な仲間を護るために、不透明な状況下における安全地帯を受け入れると決断したのだ。 ソレの事が痛いほど理解出来た。


 初老の外見を持つ個体の配下と思われる女官、侍従達に続き、私と工兵達は館に侵入する。 無論、安全が確認されたわけでは無いので、私に帯同しようとする『我が佳き人』を 猟兵長、輜重長、衛生兵長にとどめて貰う。 各隊の指揮官を臨時で、探索隊の幕僚と成し、指揮命令系統は幕僚の元に一元化させたと云う表向きの理由を持って、我が佳き人が私の護衛に付く事を阻止した。 



 ——— 安全を確保する為には、そうするしかないのだ。




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― 新着の感想 ―
北の男たるもの未来を繋ぐ存在は全力で守ってナンボだもんな
仕事あるのに避妊してなかったのか。(超野暮な現代人感覚) 前世毒親育ちがここまで親馬鹿に成れるんだ、転生を罰とした上位存在もさぞかし御満悦であろうよ。
イドの高い中で胎児が成長すると鬼人の様に何かの変容・変体(モルフォゲン)が起こりはしないか心配。
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