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『世界の理』 細い可能性の先で出逢ったモノ

 

「輜重長、此処はどういった場所と推察するか」


「……分りません。 が、あの隔壁は今までの物よりも大きい。 区画の長さも今までと違い、二クーロンヤルドと長い事。 そして、先に行く程、直径が大きくなっている事。 この事から考えますと、この先に巨大な沈殿池や遊水池が存在している可能性が御座います」


「索敵はどうか、射手長、観測長」


「この先に付いては、巨大な空間が有るモノと推察できる観測結果が出ております」「同意します」


「魔物魔獣の巣となっている可能性は?」


「何らかの妨害があり、隔壁扉向こう側の情報が、現在の索敵魔道具では観測しきれません。ただ、気配は有ります」



 その観測結果を耳にした猟兵長が巨大な隔壁扉に向かい、『兜』を脱ぎながら、扉にピタリと耳を当てる。両手も又、ピタリと隔壁に当て神経を研ぎ澄ましていた。 やがて、声を殺す様にしながら言葉を紡ぐ。



「音がします。 微かに振動も感じます。 そして、その音には聞き覚えが有ります」


「なんだ」


「 ” 戦場音楽 ”  武具を打ち合わせる音、攻撃魔法の発動音…… でしょう」


「つまり、この扉の向こうで、誰かが戦っている? そういう事か」


「音響探索は、迷宮での基本技巧の一つであり、私の持つ『技巧』でもあります。 間違いないでしょう。 更に言えば、戦場音楽としては、ごく小規模なモノ。 しかし、音量自体は相当に大きい。 つまり、大型の魔物魔獣の群れの死闘か、高い能力を保持した個体同士の戦いと思われます」


「……マズいな」



 隔壁の向こう側を覗き見る事は、相当に難しい。 出来ないことは無いが、此方の気配を気取られる事はマズいのだ。 大休止は、ひとつ前の隔壁で行う事を決定する。 この区画に於いて、実施すべきは観察。 静かな観察を要すると勘案した。



「この隔壁の先に何が在るかわからない。 猟兵長の聴音観測の結果から、目視での観測に切り替える。 隔壁に穴を開け、あちら側を望み見る事となる。 諸君等の安全確保を鑑み、探索隊はひとつ前の区画に退避。 大休止、及び、糧食の時間とする。 その間に、視覚に寄る確認を行う。 医療班長、輜重長、工兵隊、糧食班の諸君は下がってくれ。君達が戦闘に巻き込まれる訳には行かない。 観測長、兵を選んでほしい。 素早く状況が判断できる兵を三名。 射手長、特殊弾…… 【聖水召喚】を符呪した特装弾を弾倉に。 二名の手練れを準備。 猟兵長、近距離特化した猟兵を一個班、観測と射手に付けてくれ。 隔壁に穴を開けるのは……


   ——— 私だ ——— 」



 全ての命令は速やかに実行に移される。最後の隔壁の前に選び抜かれた兵が集まった。皆、強度の高い【隠形】【隠遁】を纏う。すぐ横に居たとしても、存在を認識する事が難しくなるほどの物を纏うのだ。練達の兵とも云える。いや、その道の専門家でも、これ程の術式を纏う事は出来ないだろう。深い満足を覚える。


 皆を伴い、床面と天井が交わる端まで向かった。 出来るだけ音を立てぬ様にと、息を殺しつつ私の技巧である『工人』を発動させる。両手を隔壁に押し付ける。ゆっくりと両手が隔壁に沈み込む。【同化】【隔離】【分離】【移動】などを駆使しつつ、充填物質を取り除く。 足元に取り除いた物質をそっと置き、横にズレつつ再度開始。ある程度の大きさの開口部を確保できたら、そのまま奥に向かう。


 隔壁の厚みは、ほぼ一ヤルド。一度に掘り進める深度は一フッテ。


 中には骨材も入っている。 切断も出来るが、それをすると構造を支える強度が不足する可能性もある。 つまりは、骨材を避けて掘らねば成らないのだ。ゆっくりとした掘りを進め、無音の掘削を実施した。 時間をかけて、隔壁を打通。向こう側の様子が肉眼で観測できる程の穴を穿ったのだ。


 穴が穿たれた当時に、私でも判る重い『斬撃』の音。


 誰かが死力を尽くして戦っている、命がけの戦いの音が耳朶を打った。眼に映るのは、身体を赤色に発光させた、身の丈6ヤルドを超える巨人。対峙しているのは、華奢なフレームでは有るが、明らかに人造物である構造の戦闘用の金属ゴーレム。 斬撃が火花を散らし、幾つかの魔法が周囲を焼き、電撃を下し、水の刃が空を切る。


 穴を急ぎ開き、身体が出る程の穴を穿つ。 衝動では無い。 成さねば成らないと、魂が云うのだ。




(魔王!! 《イド》の汲み上げを減らしてくれって、言ってんだろ! 何で判んねぇんだ!!)


 〈何を叫んでいる。 この地に来たバケモノめ。かつて同胞であった事は、体組成の解析によりわかってはいる。なぜ、我等を攻撃する。我等は保全しているだけなのだ。何が問題なのだ〉


(押し通る。 この先に汲み上げ機械があるんだろ?言い伝えは、この高層伽藍の頂が未だ立っている事で証明されたんだ。御伽噺のような事だって、荒唐無稽な話だって、此処なら有り得るんだ。お前が後生大事にしている事が、俺達の街にどれだけ負担を掛けているのか、知らないのかッ!!なんなんだよ、コイツはッ! 引けよッ!!)


 〈だから、何を叫んでいるのだ。知能を失い、本能のまま来たのならば、対応せねば成らない。主人とは袂を分かったとはいえ、主人と同格のモノの末裔…… 殺したくは無いのだ。 剣を収めよ。ええい、何故わからぬのだ!〉


(〈 この頑固者ッ!!〉)




 なんだ? 二体の魔物は、互いに言語を操っている。 しかし、互いの意思の疎通が出来ていない。 


『言語』? つまりは…… 人の魂を有しているのか? いやまて、何故私は彼等の咆哮が言語として理解出来ているのだ? コレは、なんだ? 何に反応しているのだ? (メティア)に仕込んでいる【近距離念話】が勝手に受信している?


 アイツ等…… 念話と言語を同時に発しているのか? 何にしても、不毛な争いである事には違いない。言うなれば念話の周波数が違うのか?もし、私が間に入れば、言語を通して意思の疎通を図れるのだ。両者とも、何らかの事情と世界の理の一端を持っている…… 確信にも似た思いが浮かび上がる。 このままでは共倒れと成りかねない。


 そして、真理(・・)は永遠に失われる。


『探索行』の成否が掛かっていると本能が叫ぶ。


 だから、私は命じるのだ。



 “射手、特装弾の使用を許可。 争う両者は過度に高濃度の『魔力』に晒され、暴走狂暴化(バーサーク化)している。内包魔力が暴走中であると云える。 【聖水召喚】を符呪した弾体を使用し、周囲に【聖水】を散布。『魔力』を洗い流せ。猟兵も使用可能な特殊弾を用い、その補助に当たれ。 即発命令だッ!”



 私が抜け出した、隔壁に穿った穴から、即発命令を実行すべく、三名の射手、三名の観測兵が躍り出る。 『銃』の筒先が、争う者達の直上にある天井部分に照準を定め、弾丸は即時発射される。 猟兵は彼等を護る様に展開した後、腕に仕込んだスリングを展開。 腰のポーチから射手隊が開発した特殊弾の投射を始める。



 二人の魔物の周囲に、巨大な水の帳が引き巡らされた。 視界を奪う程の水の膜が彼等を包み込む。 




 剣戟の音が鎮まる。


 魔法の発動音すらも消失する。




 流れ落ちる膨大な量の聖水。 そして……







  ———— 沈黙が、その場所を支配した。






此れにて、第三部 第二幕 前編の終了です。


楽しんで頂けましたか? もしそうならば、とても嬉しいです。

世界の理の端緒に付いた三男君。 此れから何を視、何を聴くのか。

世界の理、世界の実相を前に、彼は何を思うのか。


幕間を挟み、いよいよ世界の実相に迫ります!

乞う、ご期待!!

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― 新着の感想 ―
冷や水を浴びせるにしてももっと手心を・・・ その量、勢いだと首にかなり負担与えて無い?
冷水どばーーー 次を、次を早く。セカイの理のキーパーソンだらけやんけぇ!
猫の喧嘩に水ぶっかける?w
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