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前世の記憶 現世の現実


 

「掃討終了。 動的輝点無し。 蓄魔器官の魔石化を認む」



 静かな我が佳き人の報告の声が、皆に届いた。 そうか、討伐できたか。対処が困難な魔物だった筈だが、このように対処出来た事を慶ぼう。こちらの人的被害は無く、討伐が完了したのだ。 喜ばしい事なのだ。 生臭さが一段ときつくなってきた。しかし行かねば成らない。作戦の完了を宣するならば、その成果を確認せねば成らない。十分な索敵を実施しつつ私は防御壁に手を付き、人が通れるほどの穴を穿つ。 初級の【灯火魔法】を紡ぎ、前方に投射する。



 昼白色の灯火が周辺を明るく照らし出した。 そして、その惨状を目の当たりにした。



 圧縮変質された高強度の変性高密度岩盤の中で圧死した地中型魔物。肉は肉でしか無く、骨は骨でしかない。 土に対する魔法は土にしか影響を及ぼさないが故に、魔物は圧死した。 土魔法保持者の魔法術式の強度が想定以上に強化されているのは、この『魔の森』中層域と云う環境故の特記事項なのだろうか。興味深い。 とても、興味深い。 朋に報告すべき事柄でも有り、第二十五席、第三十六席にも同様に伝え置きたい。


 が、今は事後処理に掛かる。 惨劇の跡は無視しつつ、この先の道行を安全なものとし、隧道の機能回復を図らねば成らない。 先ずは、残土問題が一番に上げられる。



「周辺の安全を確認した。 探索隊前へ」



 皆に声を掛ける。 私の言葉を裏付けは我が佳き人が報告した周辺の深紅の輝点の動きからだ。 我々を中心とした、全周囲十クーロンヤルド内に、巨大魔物の存在は認められていない。 更に、この隧道本管を食い破られた形跡はなかった。魔物魔獣の進入路は枝管の開放された隔壁扉からであり、地中型の魔物はその隔壁扉から流入した土砂の中を通ったモノである事が観測された。



「土魔法保持者の諸君にはもう一働きして貰いたい。二方面に関しての行動だ。一つは防御壁の撤去。もう一つは現区画の隧道内に残留している土砂砂礫を圧縮変性し、枝管が繋がる破孔外に押し出してもらいたい。土魔法保持者以外の猟兵輜重兵の諸君には、近接特殊弾を使用して聖水の召喚を命じる。輜重長が開ける床面の排水口に魔物の血肉を、水流を以って排除せよ。死肉には何が棲み付いているか分かったモノでは無い。本管中層部の流水に流す。中に生息する水棲の魔物の『餌』にしてしまう事とする。宜しいか」


「「「承知」」」


「では、討伐戦後段、安全確保の為の作戦の発動を命じる。 かかれ」


「「「応!!」」



 兵達は素早く各人の役割を自覚し、その自覚をもとに各人の為すべきを為す。土魔法保持者は、二手に分かれた。 現掃討作戦の骨子と成った防御壁を解体。 500ヤルド向こうの側壁穴へ充当していく事。 勿論、私も作業進行状況を確認しつつ、防御壁の解体終了と共に内壁の修復を実施する。 もう片方の部隊は、掃討作戦を実施した『隧道』内に展開。


 流れ込んだ残余の土砂砂礫を【圧縮】【硬化】【変性】させつつ、高強度高密度の岩塊を枝管の接続点である隔壁扉から“外側”に向かって押し出してくれた。猟兵や輜重兵は、緊急用にと持ち込んでいる、【聖水召喚】の魔法術式(ルーン)付き特殊弾を床に打ち込み大量の聖水を召喚し【簡易結界】を上手く使いつつ輜重長が開けた床面の穴に、地中型大型魔物の残置物(死骸の一部)を洗い流してゆく。生臭い血臭が洗い流され、清浄な空気が生み出されて行った。


 大掃除が終了し、改めて周囲を観察する。 未だ、天井部の魔法灯には灯が入って居ない。 つまり、この区画は未だ制御を取り戻していないと云う事だ。暗闇の中、自身の作り出した【魔法灯火】や、輜重隊の持ち込んでいる魔法灯(マジックランタン)の揺らめく光の下、この区画を照査に調べてみると、他の区画とは明らかに違う場所であると判明した。



 ― この区画に繋がる枝管は四本あった事。

 ― 規模的に隧道本管とさほど変わりの無い規模感であった事。

 ― 本管と枝管の間に想定していた通り、隔壁扉が存在していた事。

 ― 本管の区画の長さが1クーロンヤルドでは無く2クーロンヤルドあった事。



 最大の違いは、枝管が接続されている場所の間に、身の丈程の金属板が嵌め込まれていた事だった。 表面に微細な古代魔導術式が刻まれていた事により、何らかの制御機器のような感じがしたのだ。 これが、二枚ある。 進行方向に向かって左右一枚ずつ。 一枚で、二本の枝管接続部の制御をしていると云った感じか。 進行方向に向かって左側の金属板の前に立つ。 刻まれている古代魔法術式を軽く読んでみた。剥き出しの古代魔法術式と、隔壁にある金属板と同じ練った魔力を送り込む為の場所。


 第三十六席との研究で古代魔導術式の記述大枠を理解していた事が大いに役に立った。身の丈程の金属板は、二つの構成要素が有ると云う事を、読み取る事が出来たのだ。この金属板が何らかの制御装置だとすると、最初の一手は隔壁に有る金属板と同様に、練った魔力を指定されている場所に注ぎ込めばよいと、理解出来た。


 では何故、この区画が機能を停止しているのか。 考察が脳裏を走る。


 この隧道に接続されている『四本の枝管』は、緩やかに地表に向かって勾配が付けられている事は、長距離索敵の結果理解出来ている。つまり、『四本の枝管』は、地上近くまで敷設されており、さらにその先に『枝』が付けられているらしい。地表部分に近い場所では、風化が進み、地震などの自然災害により破断したとも考えられる。 壊れた部分に、外部から蟲型の魔物が侵入。それを捕食する小型の魔物が追い、さらに中型へと移行。中型が侵入しねぐらや巣を営巣した後、地中型の魔物がそれを捕食する…… 良く有る食物連鎖と云う事だ。 その度にこの地下隧道は崩落し壊れ機能を停止して行ったと考えられた。


 本来の保守点検要員の不在により、最後に命じられた指示に従い、この隧道を護って来た本管。その行動を担保する『魔力』は、隧道の最下層での『濾し取り』した魔力のみである為、負担が増大していくうちに、本管自身の保全用の魔力すら足りなくなり、休眠状態に移行したと…… そういう事か。ならば、この区画の機能を取り戻すにはどうすべきか。答えは我等の前に(そび)え立つ『金属板』に有った。


 私は傍らに進み出ていた輜重長に言葉を投掛けた。参考意見が聞きたかったのだ。独り善がりの考察により、事態の悪化は避けたい所なのだ。



「……輜重長、この金属板の古代魔導術式は生きていると思うか?」


「指揮官殿、微かな『魔力の流れ』は感知できますか?」


「隔壁に有る金属板と同じくな」


「ならば、術式はまだ完全停止している訳では無いのかと」


「そうか。 やり方は、隔壁の金属板と同じか?」


「既に隧道側は、指揮官殿を認識しております。つまりは……」


「そうだな。隧道を大きな魔道具と見なせば、その使用者として魔道具側が認識しているとも言えるな。古代魔導術式がどの様な術式で駆動しているのかは理解出来ないが、使う事は出来るかもしれないと云う事か。 ……わかった、やってみる」



 そうなのだ。 前世でも同様の事が有るのだ。携帯電話やスマホの内部構造などほとんどの人は知らない。機器の基本性能が記載されている説明書を読み込む人も、多分……多くは無い。


 なんなら、説明書すらも機器の内部にデータとして保存されている事すらある。判らない事が有れば、そのデータを読み、問題を解決する。データは、単なる手順でしか無いのだ。その裏側に有る精緻なシステムについては、窺い知る事も無いのだ。



 つまりは、使う側が感覚的に使えるようにしている……

  


   ——— 筈なのだ。 







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