異能を使う場所
「発令、次の隧道隔壁扉前に防御壁を造成、後、隔壁扉を解放の上、飛翔型の魔物魔獣を撃滅する。 大型の地中型魔物の接近に注意、その兆候が有れば最優先にて報告せよ。大型地中型魔物の保定を実施する。その際には、私が瞬間を判断する。土魔法保持者は最前線に集まれ 皆、掛かれ」
問題の区画のひとつ前の区画に侵入を果たし侵入後五百ヤルド付近にて隧道壁面の一角に穴を開けた。私の『技巧』を以てして、手に練った魔力を保持しつつ、壁面に同化浸潤。構造に無理のない程度に構造体に耐力壁を打通し貫通孔を押し広げた。向こう側は土砂の壁。取りついた工兵と土魔法保持者たちが一斉に動く。
皆、【隠密】【隠形】【身体強化】を纏っている為、極めて静かに行動を開始。 土砂は堅く圧縮され変質し、高強度のブロックとなる。五百ヤルドの距離を運ぶのは輜重隊の面々。その兵種故、高強度の【身体強化】を纏っている為、重量物であるブロックを軽々と扱う。流石に、自身が運ぶべき糧秣、兵站はその場に集積している。万が一を考えて、簡易物資集積所として一角を高強度ブロックにて囲い、その中に収められている。
作業速度は目を見張るほど速い。
我が佳き人が、次区画へ続く隔壁扉の前に陣取り、数名の索敵兵と共に狙撃点を絞っていき、目印を打つ。 その場所が銃眼となるべき場所と云う訳だ。 私もまた、次区画に対し索敵を実施する。 隔壁越しではあるが、集中する魔力を観測する索敵魔道具には、幾多の輝点が映り込む。 外部からの空気も流入しているのだろうか。 全体に視界が紅く染まっている。 特に空間魔力濃度が高い場所は、紅い筋となって目に映るのだ。
つまり、暗がりの中紅い道が縦横に穿たれている事が判明する。大小…… 六本ほどの赤い道が見える。つまりは…… 地中型の魔物がその道を伝いこの場所に迄到達していると云う事に他ならない。だが、良く観察してみると、その六本の赤い線は、隧道壁面の四か所を結ぶように引かれている。 この赤色に発光する線が、魔物が穿ったモノであるとするならば、隧道壁は破れなかったものと推察できる。つまりは其処が枝管の入口と云う事か。
隧道本体の巨大な円筒に接続された枝管。 そして、それは上層部…… いや、地表に近い所まで引き延ばされて、その箇所が崩落、ないしは破れてしまったのだろう。 その証左に左右に伸びる紅い道は、隧道に対し勾配を持って配されている。 隧道に水が自然と落ち込む様に、敷設されていると見ても良い。
——— 成程な。
土魔法を使う者達は、その魔法を行使する時、必ず対象の土に接触せねば成らないと云う制約を持つ。 ここが思案のしどころでも有る。 あの中型の魔物の撃滅には不安はない。我が佳き人が率いる射手隊と観測隊の実力は折り紙付きなのだ。 排除は既になったと思っても良い。しかし、その振動を敏感に感知した地中型の魔物への対処はどうすべきなのか。どれ程の速度を持って、紅き道を疾るか判ったモノでは無い。 土魔法保持者を流入した土砂に接触するまで接近させた場合、対応時間が有るかどうかも不明であり、大いなる危険を伴うのだ。
ならば、それをどうにかする事が我が使命でも有る。 魔法を行使する場合、対象に接触せねば成らない土魔法。魔法術式が掌から紡がれるので仕方のない所。 が、私はそんな危険を彼等に課す事は出来ない。ふと思い出した魔法学院錬金塔での実験を思い出した。 忙しく複数の事柄を並行して行わねば成らない時、私はどうしたか。 各種錬金魔法を同時起動する場合、起動術式を一にして、複数の魔法術式を起動した事は無かったか。 有るのだ。 方法は有るのだ。
雑嚢の中を探し、そこに有った糸巻きを手に取る。 『魔動線』の糸巻き。 『魔晶粉』を再結晶させ糸状に成型したモノ。 通信線として使っている物だ。 良く魔力を通し、短い距離ならば魔法術式すらも送る事が出来る。 複数の糸を束ね、其処に起動術式を刻み、先端を羊皮紙に綴った魔法術式に接続し起動したのだ。 並列作業が劇的に進んだ事を思い出したのだ。 これを応用する。 取り出した魔動線をおおよそ隧道の床面半分の長さに切っていく。
幾本も、幾本も。 十本一組とし、片側を一纏めにする。 掌に収まるほどの『魔水晶』となるが、それが目的だ。 反対側には、魔力を良く通し、硬質で重量もある程度稼げる『軽銀』製の針を結合する。本作戦に於いて、予想される新たな古代魔導術式の発見と、その構造解析の為に必要だろうと、朋が持たせてくれた『軽銀』の金属塊。希少性から相当な価格であるが、それでも尚、私に託してくれた逸品でも有る。
有難く使わせて貰う。 使用目的は違えど、探索行の成否にかかわる重要局面なのだ。使わない手は無い。インゴットから紡いだ針に、『人工魔鉱』のケーシングを結合部分に被せ、更なる強度と重量を稼いだ。 張り先を揃え、一纏めにし、緩く魔動線を束ね置く。 これを土魔法保持者達に行き渡る数を作り上げる。
さて、どうやって投射するか。 観測を続ける我が佳き人を近くに呼ぶ。 まだ、防御壁は完成に至っていない今ならば、時間は取れる。
「済まない、意見を聞かせて貰いたい」
「何なりと」
「この針を防御壁のこちら側から、あちら側の流入した土砂へ打ち込みたい。 君のスリングで可能か?」
「この糸付きの『針の束』をですか?」
「そうだ」
「難しいと思います」
「理由は?」
「スリングの構造上、弾は独立せねば成りません。 たとえ霰玉だとしても、弾自体は独立しておく必要が有ります」
「ふむ…… なにか、この針の束を投射できる物は無いか?」
「二つ…… 思い当たるモノは御座います。 ただ、射手隊は携帯しておりませんし、輜重隊にも無いと思います」
「何だろうか?」
「クロスボウです。 アレならば、弾に何か付いていたとしても弾体を前方に投射できます。 ええ、大断崖を越える為に用いた弩と同じように」
「あぁ、アレか…… そうか。 クロスボウか…… この場での作成は少々難が在るな。 この場に於いて錬成した場合、精度が保てない。 では、もう一つは?」
「原点に立ち戻る事に御座います。 弓ならば無理なく可能です。強弓ならば、あの土砂まで重き矢も届きましょうし、各銃眼からも狙撃出来ましょう」
「そうか、弓か。 簡易な構造なれば、この場でも作成可能だ。 分かった、善き意見を有難う。 試作品を造る。私見を頼む」
「了解しました」
長弓を急ぎ作り上げる。鋼材を用いた、複合弓。握りを含む中央部分は『人工魔鉱』。撓りが重要な弓は粘りのある『鋼魔亀甲鉱』。この特殊な金属塊も、当然の事ながら朋からの拝領品だった。様々な局面に於いて、私の『技巧』である工人が有用に使用できるからと、素材と成りそうな希少鉱物の金属塊を少量ずつ持たされていたのだ。思いもかけない使い方だが、それでもこの様な緊急時には有難い。
一度きりしか使わないだろう物でもある。大量には必要は無いのだ。接合部は練り合わせ張り合わせる。使える素材の量が無い為、かなり細く華奢に見えるが、反発力は相当に高いのだ。古い記憶に有る和弓の形に調える。弦は『人工魔鉱』を細く伸ばしたモノとした。長さを決め両端に『輪』を造る。一体化した『輪』は、外れる事は無いだろう。
見た目には華奢な弓と成った。
弦を張る。私は自身の『身体強化』を一杯に使う事に成ったが、それもそのはずだ。古い記憶の中から掘り起こした和弓の形に準えて作ったのだし、高強度、高弾性の二つの鉱物を複合した弓なのだ。強弓と我が佳き人は言ったのだ。手元に有る有限の素材の中で、最高の組み合わせを模索するのは当然だろう。更に、弓に符呪を施す。【不壊】の魔法術式を刻み込んだ。出来上がりに満足を覚えつつ、傍らに居た我が佳き人に目を遣る。
不思議な事に、私と私が作り上げた弓を、困惑と不安を綯交ぜにしたような瞳で……
……『見て』いたのだ。




