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憧れの魔法少女6


「オチルンダァァァ!」


 現れた三人の魔法少女に、魔物が反応する。


 一人は白いフリル付きドレスに赤色の意匠を持つ、太陽のような髪の魔法少女。


 阜有土ヒカリこと、魔法少女ルクシア・ソラーレ。


 もう一人は焦げ茶色のローブに軽装姿の、猫耳がチャーミングな魔法少女。


 猫見ミヤナこと、魔法少女ルクシア・アリア。


 最後の一人は氷のようなナイトドレスに鉄壁の装甲を誇る、優雅で堅牢な魔法少女。


 レディーナ・N・諏訪こと、魔法少女ルクシア・ネージュだ。


「みんな、行ける!?」

「もちろんやで!」

「まだ慣れない姿ですけれど、最低限の務めは果たしますわよ!」


 三人は魔物を取り囲んでいる今のうちにと、魔宝石に魔力を集中させる。


 クラス2となり、属性を発覚したことで、彼女たちの魔法少女としてのコスチュームは大きく変化していた。


 それぞれ赤、緑、青の色を獲得し、個性に合った特徴が現れているのだ。


 魔法少女に変身できるようになったばかりの頃のコスチュームと比較すれば、その違いは明らかだった。


 そしてもちろん、変化は見た目だけの話ではない。


 増幅した魔力もまた個性を獲得し、その扱いが以前よりも難しくなっている。


 低クラスとはいえ、なりたてが魔物と戦うのはハードルが高い。


 それでも、街を巡回しているはずの戦闘課の魔法少女たちがこの場にいない以上、彼女たちの到着まで持ちこたえる必要があった。


 これは、そのための準備だ。


「発動準備完了! そっちはどう!?」

「いつでもええで!」

「こっちもですわ!」


 配役は揃い、衣装も誂えた。


「じゃあ行くよ! 三、二、一、せーのっ!」


 ならば、あとは舞台を整えるだけだ。



「「「『幕よ上がれ!『ステージ』っ!」」」



 三人からそれぞれ、魔力の光が溢れ出す。


 魔物の上空十メートルほどの高さで像を結んだそれらはやがて、周囲にドームを築くようにまんべんなく降り注ぎ、その場に現実世界から隔離された特殊空間を作り上げた。


 これは『ステージ』と呼ばれる魔法少女の基礎魔法。


 彼女たちが戦うとき、現実世界に被害を出さないようにするための結界だ。


「こっちは良い感じ!」

「強度、完成度共に問題ないで!」

「これで存分に戦えますわね! 腕が鳴りますわ!」


 ここまでの手順は養成学校や学園で何度も繰り返し習うため、どんな魔法少女でも条件反射的に行うことができた。


 そういう教育が、彼女たちには施されている。


 しかし、そこから先は完全に未知の世界だった。


 ついこの前までクラス1だった三人は、碌に実戦経験を積んでいないのだから。


「オチロォォォ!!!」


 結界の完成を認識した瞬間、魔物はその標的を魔法少女たちに定めた。


 彼女たちが魔法の要となっていることが、魔物には本能的に理解できるようだ。


「ミ……アリア! ネージュ!」

「当たらんわ、そんなもん!」

「レディーのキックをお見舞いですわ!」

「オチ゛ッ!?」


 突進をアリアが回避し、その隙にネージュが攻撃を入れる。


 初撃の回避には成功し、カウンターを決めるまではお手本のような動きだった。


「オチロォォォ!!」


 でも、そこまでだった。


 限られた範囲の中、巨体に距離を詰められるというのはとても大きい。


「うぐっ!」

「お、重いですわ……!」


 尻尾のような部分の振り回し攻撃。


 続けて回避しようとしたアリアは風圧で壁面に叩きつけられ、逃げるスペースのないネージュはなんとか受け止めるも、見るからにダメージは大きいようだ。


「ふたりとも!」


 叫ぶソラーレ。


 実戦経験の乏しさと戦略のバリエーション、そして手札のなさが露骨に現れていた。


 いきなり魔物が現れ、いきなり戦闘が始まったことで、意識を完全に切り替え切れていないことも大きな要因だろう。


 無常ながら、これが現実だった。


 魔法少女の戦いは、いつだって唐突に、後手から始まってしまうのだから。


「オチルンダァァァ!」

「危ないっ!?」


 追い詰められるアリアとネージュ。


 相対的にガラ空きとなる魔物の背中に、ソラーレが咄嗟の一撃を放つ。


「お願い決まって! 『ソーラー・レイ』!」


 想いと共に、胸元にある魔宝石が強く発光。


 開いた貝のように合わせた手の平から、黄金の光線が放たれる。


「オチ゛ルアァ゛!?」


 赤熱し煙を上げる被弾箇所。


 魔物の体表を覆う闇がそこだけ剥がれ、周囲に撒き散らされていた。


 まさに会心の一撃。


 魔物特攻属性は伊達ではない。


「ナイスや、ソラーレ!」


 ここで、比較的ダメージの少なかったアリアが復帰する。


「これでも食らいや! 『アリア・フォルテ』! からのっ……!」


 自己強化の魔法を使い、側面から一撃。


 上手い位置取りからの打撃は、ソラーレ、ネージュ双方に被害がいかない方向へと注意を逸らすことに成功する。


「わたくしもっ! 負けていられませんわっ!」


 なんとか立ち上がるネージュ。


 その正面では、ソラーレがアリアと交代して注意を引こうとし、でも上手くいかずに逃げ惑うことになっていた。


 みんな初めてで戸惑っているのだ。


 どこかが落ちれば、一気に崩壊してしまう可能性が高い。


「アリア! こっちですわ!」


 そしていま、それを防げるのはネージュしかいない!


「ちゃんと受け止めきれるんやろなぁ!」

「あったり前ですわー! わたくしを誰だと思っていますの!?」

「ならいくでぇ!」

「オチロォォォ!!」


 魔物を壁面方向に誘導したアリアは、そのまま壁を蹴ってまさかの大ジャンプ。


 魔物の上を飛び越えるように跳躍し、反対方向で構えるネージュの元へ駆け出した。


「オチ゛ッ……ルアァァァ!!」


 結界に頭からズドンといった魔物は全身に衝撃が走りビクリと跳ねるも、すぐにまた行動を開始。


 回れ右してそのまま正面衝突の姿勢をとる。


「無駄ですわよ! 『ネージュ・クリスタル』!」


 前に出した両手から、雪の結晶を模したバリアを展開。


 魔物とぶつかり合う。


「うぐぐぐぐっ!」

「オチロォォォ!」


 結果、発生したのは力と力のせめぎ合いだ。


 一見均衡を保っているように見えるが、相手の攻撃が届かずこちらの守りが生きている時点で、優勢なのは防御側である。


 これ以上なく、魔物の注意を引き付けることが出来ていた。


「あとは頼むでソラーレはん! ありったけの……『アリア・フォルテ』!」

「今ですわよ! ソラーレさん!」

「うん! 任せて!」


 二人が作ってくれた、これ以上ないチャンスである。


 ソラーレは後のことは考えず、これで決めきる思いで魔力を集中させた。


 そして。



「届いて! 『ソーラー・レイ』っ!!」



 極太のビームが魔物へと衝突。


 瞬く間に闇がはじけ飛び、視界不良を引き起こすほどの爆発が起こった。



◇



「はぁ、はぁ、はぁ」


 流石に魔力が足りないソラーレ。


 アリアもネージュも拙いながらも無理して魔法を使ったため、あとは変身と結界の維持でギリギリの状態だった。


 くらくらになりながらも、その結果を見るまではなんとか気を引き締める三人。


 その視線の先では……まだ、闇がうごめいていた。


「なん、やて……!?」

「あれで、まだ生きていますの!?」


 驚きの声をあげるアリアとネージュ。


 それもそのはず、先ほどの攻撃はこの三人があの状況の中で作り出せる、最高の一撃だったのだから。


 ネージュが引きつけ、アリアが強化し、ソラーレが決め手を放つ。


 実技講習すら始まっていない三人が、友情と土壇場の機転でなんとか成功させた大技なのに……魔物はまだ動く気配があるという。


 流石にその原型は留めていないが、魔物の再生速度は常軌を逸したものばかり。


 人が火事場で命を燃やせるように、魔物もまた生命の危機においては、並外れた再生能力を発揮したのだ。


「オチルンダァァァ!!」


 碌に動けない三人の前で、それはただ圧倒的な脅威でしかない。


「まずい! ソラーレはん!」

「ソラーレさん! 逃げて!」


 狙いはもちろん、魔物の天敵ソラーレ。


「……っ!?」


 身構える彼女対し、大きく口を広げた魔物が襲い掛かり、そして——。



「——『ステージ』」


 凛とした声が、響くのだった。


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