憧れの魔法少女7
ソラーレの正面で、魔物はその勢いを止められていた。
灰色の障壁はピクリともせず、さらには範囲縮小によって魔物は遠ざけられていく。
その奥には、魔法少女らしき一人の姿。
魔物の影になって見えにくいが、それが異常なことだとはすぐに分かった。
魔法少女に変身しているはずなのに、その髪色は薄く、衣装だってほとんど変わらぬままなのだ。
というか、あれはもう……。
「クラス1の、魔法少女なの……?」
灰色のコスチュームを身に纏う魔法少女。
それは養成学校でもたくさん目にしてきたクラス1、なりたて魔法少女の特徴だった。
「——私が来るまで、よく持ちこたえたわね。それだけは、褒めてあげる」
灰色の魔法少女は転がった魔物に向けて、なんともなさそうに歩いてくる。
その顔はよく見えず、その声もまた、聞き覚えがあるような気がしたり、しなかったりといまいち定まらない。
「『リリース』」
発光する胸元の魔宝石。
その手に収まるように、無骨な一振りの剣が召喚された。
「あとは……私に任せなさい」
ソラーレたちに告げるように、一言だけ。
その視線は魔物から決して離されず、立ち上がった魔物の突進攻撃を前にしても、その態度はまるで変わらない。
「危ない!」
「危なくないわ。『パリィ』」
ガギィン! と音が鳴る。
そこには、余裕の表情で佇む魔法少女と、大きく体勢を崩す魔物の姿があった。
「……なっ!?」
「なんやて!?」
「なんてことですの!?」
たった一振り。
それもあの細腕から繰り出される一撃で、魔物の攻撃は完全に止められ、さらには大きな隙を晒すこととなっていた。
「無防備ね。『スラッシュ』」
そこから流れるように放たれる、容赦のない次の攻撃。
それは魔物をあっさりと一刀両断にしてしまい、闇が泥のようにはじけ飛ぶ。
「この闇……例の組織のものね」
そしてそこには、当たり前のように綺麗なままの魔法少女が立っている。
何かを小さく呟いたようだが、その内容までは分からない。
「これでも死なないのなら……」
高く掲げられた剣からは、まるで処刑台に下ろされるギロチンの刃を連想させられた。
「死ぬまで、斬り続けるだけよ」
そして振り下ろされる凶刃は、これから始まる蹂躙の開始と、魔物の運命の尽きを、一緒に表しているかのようで……。
そこからはあっという間だった。
ソラーレたちが三人がかりでなんとか致命傷を与えた相手を、灰色の魔法少女は一方的に屠っていった。
属性魔法も使わず。
戦闘スタイルは近接一辺倒で。
闇属性の魔物に対し有効な攻撃手段ではないはずなのに、その剣は振るわれるたびに闇を細かく刻んでいった。
「仕上げね。『フィナーレ』」
そして遂に、魔法少女らしく大技が振るわれる。
胸元の魔宝石が剣に嵌められ、一層輝きを増していく。
「『ペトラ・スラッシュ』」
一閃。
それはまるで、星が誕生する瞬間のように、眩しく。
「オ、オチルンダァァァ……」
彼女が登場してから、僅か三十秒ほどで魔物は討伐されたのだった。
「ヤバイなぁ……圧倒的やんか」
「これが、特務課のエースのお力! この目で見られて幸運ですわ!」
はしゃぎ合うアリアとネージュ。
ソラーレもまた、彼女が登場した瞬間から、絶大な安心感を抱いていた。
「あの方は、もしかして……」
そこには、不思議な懐かしさがあった。
そこには、かつての憧れがあった。
ソラーレの——ヒカリの目の前で振るわれたその剣は、とてもよく見覚えがあるものだった。
加えて、もう一つ。
「ヤミ先輩……?」
顔だ。
鋭い目つきに凜とした佇まいは、昼間に学園で出会ったそれと同じだった。
『となれば次は.......』
『次は、どうするのかしら?』
初めて会った時に抱いた違和感が、一つの答えを導き出す。
『えっと.......』
『.......まあ、いいわ。それよりも、特務課の塔に用事があるのでしょう?』
戦い方はまるで違うけれど、それはあのとき憧れたあの強さ。
そして……。
『わ、わたしは阜有土ヒカリです! 先輩はもしかして特務課の——』
『——落月ヤミよ。機会があれば、またお会いしましょう』
……あの姿そのものだ。
『——安心して。貴女のことは、私が絶対に守ってみせる』
記憶が、思い出が、憧れが。
『——<フィランソロピア>の名に懸けて、あの魔物は絶対に倒すから』
一つに重なっていく。
『——どうか、そこで見ていてちょうだい。この私、ルクシア……レ……の雄姿を』
約三年前、ヒカリを救ってくれた光属性の魔法少女。
三時間前、ヒカリに入塔を許可してくれた黒髪の少女。
そして今、ヒカリたちを助けてくれた灰色の魔法少女。
心に強く刻んだその名前は、ルクシア・セ———
「——学園管理課へ通達。こちら特務課所属、ルクシア・ペトラ。出現した魔物の討伐完了。要救助者を三名確保。引き続き、救助活動を行う」
『了解』
「……えっ?」
かつての魔法少女と、ピッタリ重なる——はずなのに。
色も。
能力も。
名前も、まるで違う。
クラス1のような魔法少女が、そこに、いた。
架空原作アニメに第一話があるとしたら、こんな感じなのかな~、と。
面白かったら☆☆☆☆☆をどうぞよろしくお願いします!
次回は「第二話 師妹契約」でお会いしましょう!




