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04 鬼と人の挟間

『意味深な数字(キャリーオーバー)』


 使用者であるクハナ本人にも法則のわからない数字を、視界に映す能力。一度発動すると、その法則性を解明するまで解除することはできない。法則は発動ごとに変化する。

 前回の任務では、転生者の被害にあった順番が表示されていた。クハナはその情報から、転生者の嗜好が変化していく様を分析し、静虎が円滑に潜入できるプランを確立してみせたのだ。


 獄卒・二桁 九八七(フタケタ クハナ )の真の強みは、その分析力の高さにこそある。



◆◆◆



 すえた匂いが立ち込める洞窟に、男の野太い悲鳴が木霊する。


「ひぃー、勘弁してくれぇ!」


「……クハナ。このチカンに『数字』が出ていれば教えて下さい」


《痴漢ではなく、おそらく野(・)盗(・)の(・)類(・)い(・)です先輩。えーと、数値は──》


 異世界での接触第一号。それは野蛮な集団だった。

 なぜか『奈落の底(ポータル)』の座標にズレが生じ、ならずものの巣窟へ転移してしまった静虎。後輩からの通信で「だから調査が必要だって言ったでしょ、もー!」と苦言を呈されるも。静虎は坦々と、不埒な輩を倒し始めていた。


 獄卒歴10年を越える静虎は、純粋な鬼とほぼ同格の膂力を有している。まず最初に、メイドのヘッドドレスを触ろうとした男が地面へと沈んだ。腕を引かれ、脚を刈られ、なす術なく体勢を崩す大男。それを為したのは小柄な少女。野盗たちは下卑た笑いを止め、臨戦体制へと移行した。各々が得意とする武器を取り出し、唐突に出現した『外敵』を排除せんと動く。


 だが──曲刀は、少女の正拳突きで砕かれ。矢は避けられ、弓は折られ、鎖鎌はその鎖ごと引きちぎられる。頼みの綱の毒吹き矢すら、倒した野盗を盾に防がれる始末。次々と手下が倒されて行き、ついには頭目の男だけが残された。もはや男に出来る事は、命乞いのみ。平伏し地面から少女を見上げ、ひたすらに嘆願し。

 なぜか、チカンと呼称される運びとなった──



「なるほど『12』ですか。ちなみに、わたしは今回『4』なんですよね?」


《はい。先輩の方で思い当たる事はありますか?》


 スカートを覗かれないよう手で押さえ、静虎は思考する。クハナから齎された情報によると、野盗の頭目が12。静虎は4。その他、転がっている野盗たちは軒並み0〜2に収まる数値で報告が続く。


「これは、パ(・)ン(・)の(・)枚(・)数(・)かもしれませんね」


《えと……何でパンなんです?》


 有名な漫画の比喩表現がクハナには通じず、静虎は少しだけブルーな気分になる。そして、自分もまた上司の殺那に同じ思いをさせていると気付き──帰還したらコロちゃんに優しくしてあげましょう。と、静かに決意するのだった。


「では気を取り直して。チカンさん、今までに殺したヒトの数を覚えてますか?」


「お、俺は誰も殺しちゃいねーよ!」


「本当に?」


「あ、ああ! 盗むもん盗んだら、それでオサラバしてんだっ」


 盗人猛々しい。

 その言葉をいったん飲み込み、静虎は詰問を続ける。


「例えば、冬場に食料を盗んだ事や、家に火をかけた事。そうするよう、部下に指示した事は?」


「……し、知らねぇ!」


《先輩。毒矢を吹いた方の野盗に、数値変動+1を確認。法則判明です!》


 クハナから新たな報告が入り、頭目の口を自由にしている意味が失われた。静虎は少しだけ屈み「ウソつきは御仕置きです」と微笑む。

 次の瞬間、頭目は額にデコピンを放たれ、洞窟の壁へとめり込んでいた。


「これで、すべて沈黙ですね。内1名は本当に死亡していますが、わたしの管轄外です」


《はい。それと数字は先輩の読み通りキル数ですね。補足すると……間接的なものを除き、これまでの人生で当人が直(・)接(・)手にかけた数です》



 静虎は獄卒になってから三度。帰還不能に陥った同僚を、その手にかけている。

 それが『ヨモツヒラサカ特別対策係』のマニュアルであり、静虎自身も有事の際は同僚にソレを求めるつもりでいる。理由は単純、ただ帰りたいからだ。


『獄卒規定 第17条』

 獄卒同士の殺し合いが起きた際、その理由にかかわらず両者を地獄の沙汰にかけるものとする。


 万が一、黄泉戸喫(ヨモツヘグイ)で自滅した場合。獄卒規定の17を利用することで、地獄へと帰還できる。それが、殺那の編み出した裏ワザだった。これにより、静虎が帰還させた3名は今も獄卒として活動できている。


 だが『意味深な数字(キャリーオーバー)』が示す数字は、4。

 クハナは能力が解除可能となる事を契機に、法則の正しさを裏付けている。その彼女が『これまでの人生』と発言した以上、このルールに間違いはない。

 つまり、静虎が生前に犯した罪も含んでいるのだ。そう解釈すれば、残りの1つは明白となる。


 生前の静虎──シズカが、自ら投げ打った命に他ならないだろう。



◇◇◇



 月のない空の下、丘陵地帯を進む静虎。


《あーあ、規定とは言え、あんな悪党を見逃すのは心苦しいですねー》


「異世界の住人を直接手にかける事は、禁止事項ですから。今回のケースもかなり危ういので、コロちゃんに上手く取りなしてもらいましょう」


 野盗からすれば、再起不能に痛めつけられ、盗品は軒並み没収され。その上、アジトである洞窟は入り口が潰されて脱出不能という状態。これを『見逃した』などと表現されれば文句の一つも言いたいだろう。


 だが、二人は獄卒。

 たとえヒトから変じた存在であろうと。まだ角も生えていない若(・)年(・)鬼(・)であろうと、悪人に容赦がないのは当然なのだ。獄卒に規定があるからこそ、最低限の保障がされるだけであり。仮にそれを、命あっての物種と解釈できたのならば──地獄の沙汰も、彼(・)ら(・)次第となるだろう。


 いずれにしても。下位の獄卒である彼女らには、あずかり知らぬ話となる。



「……そろそろ、予定ポイントへ到着のはずですが」


《あれ? また進路がズレてますよ先輩!》


 星明かりを頼りに進んでいると、クハナから指摘が入った。目指す場所は、転生者が住んでいるログハウス。見晴らしの良い高台に、ポツンと建った一軒家。暗がりに薄らと見えるその建物へ、なぜか静虎は近付けずにいる。


「おそらく『人(・)避(・)け(・)』が働いていますね」


《セールスお断りってヤツですねー、スローライフ系によくある傾向です。そうなると奈落の底(ポータル)の座標ズレも、ソレの影響かも知れませんね……えーと、ターゲットの能力名なんでしたっけ?》


 サポート役が現場へ、事前情報について質問する。逆転現象が起きているのは急令ゆえ。常ならば、データ化されクハナの手元にある筈の資料が、未だ届いていないのだ。現状では、直接命令を受けた静虎の方が多くの情報を持っている。


 そのひとつが、対象のチート能力名『完全無欠な補償の保証《スタンドアロン・ローン》』なのだが。


「──ええ、クハナ。と(・)て(・)も(・)紛(・)ら(・)わ(・)し(・)い(・)名(・)前(・)だと、わたしも思います」


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