02 合法ロリな部下 & 脱法ロリの上司
ヨモツヒラサカ特別対策係 執務室。
「きさまの任務を言ってみろ、日比野シヅコ」
甲高い声による、高圧的な問いかけ。
金髪ポニーテールに、碧い瞳。その額からは二本の角が生えている。
静虎の上司である彼女は、享年12の少女。クハナ曰く『鬼っ子の洋ロリ係長』その名は──
「はい、コロちゃん。わたしの任務は……」
「待て待て待てー! コロちゃんと呼ぶな! アタシの名は殺那だと言ってるだろー!」
殺那が、長い袖を振り回し抗議する。サイズの合わない紫紺の詰襟。支給品であるそれは、管理職の制服(Sサイズ)である。
小柄な少女には、比喩ではなく物理的に身の丈に余るそれだが、制服は着用が規則。規律を重んじる殺那は、今日も甘んじてブカブカの詰襟に袖を通すのだ。
「ですけど。20年以上使ってた獄卒名を、現世の影響で改名するなんて! 勿体ないです、コロちゃん。『転生者転がし』の異名が泣いてますよ」
「ぬぐぐ……す、好き勝手なことを言いおって!」
静虎の指摘に、殺那は一瞬たじろぐ。確かに改名は不本意に行ったことだった。現世の流行り病と、偶然にも同じ名前だった不運。
上層部からそれとなく嗜められ、漢字はそのまま、読みだけを『セツナ』へと改めたのだ。昨今のコンプライアンス問題は、地獄にも様々な影響をもたらしている。
「それとまず! これは10年以上言ってるがなぁ、上司を『ちゃん付け』するなー!」
「おや、パワハラですか? ダメですよ、コロちゃん。わたしでなければ、上層部に報告してコロちゃんを更迭させてますよ。相手が気心の知れた部下で良かったですね」
そう。中間管理職である殺那は、崩壊したパワーバランスの煽りをもろに受けている。
上司に対しては、変わらず旧態依然とした対応を余儀なくされ。部下と対面すれば、オモチャにされる。可哀想な立場なのだ。
「うぅ〜、もうヤダ。現場に戻りたい……転生者たちをコロコロ転がして、ちやほやされる日々に戻りたいよぉ」
現実逃避し、精神が幼児退行してしまうのも仕方がない。見た目相応の幼い口調。もしこの姿をクハナが見れば、さぞ甘やかしたことだろう。
だが、静虎は甘くない。そんな時代は終わりましたと一蹴し、上司が発した最初の問いかけに淡々と答える。
──わたし達、獄卒が管理するのは地獄および煉獄。ここへやってくる魂は、基本的に日本の地で死んだ者に限定されます。
死者の魂は地獄で沙汰を受け、様々な場所へ割り振られます……が、わたしの任務と無関係なものが多いので詳細は割愛します。
重要なのは、煉獄の拡張領域へ割り振られる魂。便宜上『異世界』と名付けられたその領域は、日本への再転生を拒んだ者たちの受け皿となります。
黄泉比良坂に点在する無数の岩屋。それら一つ一つの内部に、様々な世界が展開されている……と、わたしは伝え聞いています。わたしが現地へ行く場合、『奈落の底』を利用するので岩屋を直に見たことはありませんが。それは、異世界へ割り振られる魂も同様でしょう。
天国へも地獄へも入る資格を持たず、再転生すら拒んだ魂。その者らは、担当獄卒と相談の上でポータルから異世界へと旅立ちます。異世界を満喫し、魂をリフレッシュして、いずれ日本へと再転生する。
そのサイクルを目的として作られたシステム。それが俗に言う『異世界転生』ですね……厳密には異世界へは転生してませんけれど、それは担当獄卒の方便ということで──
「ええい、チンタラと分かりきった事を話すなー! きさまはインフラ整備するタイプのヒロインかっ!」
「えらいです、コロちゃん。現代の知識を日々アップデートしてるんですね」
「……! そ、そーお?」
思いがけない角度から称賛を受け「えへへ」と照れてしまう殺那。長年の付き合いで、静虎が社交辞令を言う性格ではないと知っているからだ。激務が続き、弱りきったメンタルに、素直な褒め言葉はよく響く。
たとえそれが静虎の狙いだとしても。叱責を受けないため、話を逸らす目的があったとしても。享年12の殺那は、この瞬間の喜びを優先せずにはいられない。
「さて、可愛いコロちゃんも見れた事ですし。わたしは、この辺で……」
「は〜い。またね、シヅコ──って、待てー! まだ話が終わっとらん!!」
腐っても鯛。叩き上げで管理職となった獄卒は、すんでの所で理性を取り戻せた。ここでようやく、話が振り出しに戻る。
増え続ける『転生者』たち。管理が杜撰なチート能力。可視化された幽世のリソース問題。
それらを解決すべく立ち上げられた部署、ヨモツヒラサカ特別対策係。その現場担当である、静虎の任務とは──!
「わたしの任務は、転生者をよもつへぐってチートを剥奪することです」
「おかしな言葉を作るなー! きさま、黄泉戸喫を何だと思っておる!? ええい、アタシが直々に教えてやるっ!」
黄泉戸喫。
『黄泉竈食ひ』とも表記するそれは、簡単に言えば異世界の食べ物。その世界で作られたものを食せば、その世界の住人となる。
「それが神話時代から続く、世の理だ!」
その理を誤魔化し、摂理から外れた存在がチート能力者である。
日本への転生を拒否した者が、思うままに異世界を満喫し、いち早く魂をリフレッシュするための外付け装置。外の世界に由来したチカラだからこそ、理に反した行いが罷り通る。
「だがそれは、本来すぐに失われるはずのチカラだった。腹が減り、食べ物を口にすれば自ずと失効するチカラ。よくできた世界の仕組みだろう?」
100年前までは、その条件で均衡がとれていた。まるで、ひと夏の蝉のように。泡沫の夢を謳歌したのち、現世へと転生する。魂の多くは、太く短い異世界生活で満足できていたのだ。
だがそのバランスは崩れ去った。ある転生者と、その担当獄卒による話し合いから生まれた新システム。付随スキル『黄泉戸喫不活化』の誕生。それが崩壊の始まりだった──
が、それはさておき!
刹那には直近で放置できない大問題がある。報告を受け、部下を呼び出し、言わなければならない台詞があったのだ。
「ヨモツヘグ焼きそばって何なの!? シヅコー!」




