メモ
3月2日
噂に聞いていた研修の前日。徹底的に鍛えあげることで学生然とした甘えを捨て去り、社会人としての自覚を持たせる特別なカリキュラム。だそうだ。一流企業に入るのだから当たり前だろうなと思う一方、どこか古めかしいブラックな臭いがして不安だ。内定を貰ってから1年以上経つのも不安材料かも知れない。早々に大手に決まったと安堵していたのが懐かしい。状況が状況だけに、誰に相談しても嫌味か何かだと軽くあしらわれそうなのがツラい。いや、下手したらキレられる。あんな有名どころに就職出来る俺って凄いだろ、と自慢しているように思われかねない。まあ、同期の奴らには売り手市場だしなとか言われたが。そんなこと言われても俺は他の年代の事情なんて体験していないのに、知るかよ。お前らだって知らないくせに。何にしても、明日が怖い。辞退しておくべきだったか。
3月20日
2週間と聞かされていた合宿が少し延長したのには焦ったが、特に問題なく終わったので良かった。先輩や同僚となる奴らも、概ね良い印象。外部の指導員も全く厳しいなんてこともなく、カリキュラムそのものも同様。お気に隠し的に、わざとハードな内容や愚痴を吹聴してたのだろうか。或いはやっかみみたいな。唯一気になっているのは都合3度打たれた注射ぐらい。確かワクチンだか何だかと説明を受けたが、その際に配られた説明書きの紙が見当たらない。入社後に聞くべきか、今問い合わせておくべきか。
4月8日
無事に入社式を終える。微熱気味だったが、特に問題無かった。配属される部署の人たちに挨拶した後、社内を色々と案内されただけで終わり。
4月11日
土日を挟んでの初出勤日。緊張しなかったと言えば嘘になるが、先輩が優しい人だったので助かった。まだ簡単な事しかしてないものの、スジが良いとも言ってもらえたし。とりあえず、何とかなりそうだ。
4月15日
1週間、終了。ただ不可解と言うか、気になることが1つ。この記録を読み返して注射のことを思い出したので質問したのだが、誰も何も知らないと言う。一緒に注射を受けた奴らに聞こうと思ったのだが、考えてみればどこにも見当たらない。そう言えば入社式でも、見なかった気がする。どういうことだろう。
5月10日
ようやく退院。仕事中に朦朧として椅子ごと派手に倒れた記憶はあるが、まさか2週間も意識を失うとは。お陰でGWが吹っ飛んだ。
5月25日
エレベーターで一緒になった知らない他部署の人に「ベーコンとハムとソーセージの中で食べられたがってるのは誰でしょう?」なんていきなり聞かれた。気持ち悪かったのもあって答えられずにいると「正解はソーセージ。腸詰めだからChoose meってね」と降り際に囁いた。あのゾワゾワした感覚。同性同士だろうと他人にいきなり耳元に口を近づけられるのは、セクハラか何かになるんじゃないか。本当に気持ち悪かった。
6月13日
ビル解体作業の告知が掲示板に貼られていた。場所が道を挟んだ向かい側だが、とっくに更地になっている。どういうことなのか。これが剥がし忘れなら分からなくもないが、新しい貼り紙っぽいから不思議だ。
6月21日
向かいの空き地で見つかった細切れになった遺体は、ウィリアムさんだったらしい。ウィリアムさんは総務の部長さんだそうだ。
6月26日
たまたま見た映画でウィリアムはビルと呼ばれることを知った。あれは殺害予告だった?
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