第06話 濱田AI兵
枝の折れる音がする。
佐々木准尉・関元軍曹・井上二等兵が急いで散開して銃を構える。
人影が見える。
佐々木准尉が、
「・・・ヤマ」
「カワ!」
藪の中からそっと顔をだす佐々木准尉。
河野上等兵であった。
二人は驚いた形相で見詰め合う。
「准尉殿・・・」
「? 河野じゃないか。いったい どうなってるんだ」
河野上等兵が、
「先行隊が後ろに?」
佐々木准尉が、
「いや、キサマ達が前に居るんだ。中隊長は?」
早坂が木陰から出て来る。
「此処だ」
佐々木准尉が驚いて、
「えッ! こ、これはどう云う事でしょう」
早坂が、
「俺が聞きたい。完全に迷ったな」
「先ほど伝令を二人、後方に下げさせたんですが」
「伝令を二人? ・・・何処に行ったんだ?」
突然、後方で自動小銃の音がする。
佐々木准尉が、
「あッ!」
佐々木准尉達六名が急いで音の方向に走る。
早坂以下八名も佐々木准尉を追って猛然とジャングルの中を走って行く。
一人の日本兵が倒れている。
肩の辺りから大量の出血をしている。
もう一名は果敢に応戦している。
米兵達が正面のヤシの木陰に対峙している。
佐々木准尉達六名が米兵達の背後に回る。
早坂達八名は米兵達の前面と側面に回る。
38銃が一斉に火を拭く。
三名の米兵が一瞬にして倒れる。
一名の米兵が一目散に逃げて行く。
佐々木准尉がジャングルの中を猛然と追いかけて行く。
暫くして銃声が。
佐々木准尉が急いで負傷した兵士の傍に戻って来る。
濱田上等兵であった。
『忠魂碑』に刻まれた名前
濱田勇作 享年二八歳 上等兵 ガダルカナル島にて戦死
大宮上等兵が負傷した濱田上等兵の前に茫然と立って居る。
大宮上等兵の後ろに一基の鉄帽を脱いだ『AI兵』が立っいる。
A I兵は負傷した濱田上等兵に近づき、胸の傷の上に被さった。
濱田上等兵の身体に強烈な閃光が走る。
佐々木准尉と大宮上等兵は、突然現れた奇妙な『陽炎』を見ている。
濱田上等兵は暫く倒れていたが何も無かったかの様にムックリと起き上がった。
佐々木准尉と大宮上等兵は驚いて後退りする。
濱田上等兵の周りには大量の血が溜まっている。
不思議と濱田上等兵の軍装は「新しい物」に変わっている。
佐々木准尉と大宮上等兵は呆気に取られて再生された『濱田AI兵』を見ている。
佐々木准尉が信じられない形相で、
「オマエ! ・・・今やられたんじゃないのか」
立ち上がった濱田AI兵が、
「やられました。でも・・・」
佐々木准尉が気味悪そに、
「でも何だ」
濱田AI兵は自分の左胸を右手で確認するように、
「? 大丈夫です」
信じられない顔の佐々木准尉と大宮上等兵。
佐々木准尉が濱田再生兵を舐める様に見て、
「オマエは?・・・?」
濱田AI兵は足元に転がった鉄帽を被った。
鉄帽の上から奇妙な光の閃光が空中に上がる。
『日下と緒方は顔を見合わせて笑っている』
突然また上空に、あのトンビの様な米軍の偵察機が旋回し始める。
佐々木准尉が、
「おい! 早く此処を引き上げよう。中隊長~ッ!」
早坂が叫ぶ。
「撤収~! 退避ーッ! 散開~、散開しろーッ!」
兵士達が蜘蛛の子を散らす様に逃げて行く。
突然、空気を引き裂くような砲弾の音が。
「ヒュー・・・」
必死に走る河野上等兵。
森 二等兵が銃を落とす。
「あッ!」
急いで銃を取りに戻る森 二等兵。
銃の周囲に砲弾が炸裂する。
森 二等兵は諦めて丸腰で一目散に退避する。
砲撃が終わる。
早坂中隊の兵士達がモグラの様に藪や窪みから顔を出す。
早坂が、
「大丈夫かーッ!」
あちこちから兵士の声。
「はい!」
「はい!」
「異常なし!」
早坂が佐々木准尉を呼ぶ。
「佐々木ーッ!」
佐々木准尉が走って早坂の傍に来る。
「はいッ!」
早坂は苦笑いをしながら、
「銃を失くしてしまった」
佐々木准尉は早坂を見て、
「え~!」
「悪いがキサマの銃を貸してくれんか」
「え、そッ、それは。困ります」
「・・・まあ、良い。短銃が有る。おい、集合を掛けろ」
「はいッ! 集合~ッ、集まれ〜」
兵士達が早坂の周りに集まって来る。
三人の兵士が銃を失くし丸腰である。
早坂が三人を睨み、
「何だ、そのザマは」
三人が俯いている。
「仕方が無い。敵の銃を奪え。とにかくやられるな」
「はい!」
佐々木准尉が、
「・・・行きますか」
早坂は気を取り直し、
「よし、散開して前進だ。目標、飛行場ッ!」
兵士達が、
「はいッ!」
兵士達は気合いを入れ直して、ジャングルの中に消えて行く。
佐々木准尉が周囲の景色を見ながら、
「中隊長・・・」
「何だ」
「山が見えて来ないのです」
「山?」
佐々木准尉が地図を取り出し指でなぞる。
「地図上から云うと、この右側に山が見えなければならないのですが」
早坂は佐々木准尉に近づき地図を覗く。
「・・・今、何処に居るんだ」
「多分この辺だと思うのですが・・・分りません」
「分らない? また迷ったと云う事か、バカ者がッ!」
早坂は佐々木准尉に当たる。
「はい」
早坂が耳を澄ます。
「・・・波の音が聞こえないなあ」
早坂は腕時計を見て、
「・・・ここで夜営かな? 佐々木、上陸から何日経った」
「六日目です」
「六日目か。・・・もう、糧秣も尽きて来たなあ」
佐々木准尉の力無い返事。
「はい・・・」
「おい、兵を集めろ」
「はいッ! 集合ーッ」
兵士達が声を繋いで行く。
「集合~ッ、集合ーッ・・・」
早坂の周りに兵士達が集まって来る。
佐々木准尉が突然、奇妙な事を言い出す。
「中隊長、ジブンはさっき信じられないモノを見てしまいました」
「何だ!」
「濱田が生き返ったのです」
「? バカな事を言ってるのではない。ここは戦場だぞ。寝ぼけるなッ! 濱田はそこに居るじゃないか」
続く




